【五十人目】 眼鏡越しに見えるのはあの日の美少女とは違っていて、君はあの日の俺の顔を知らない
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「あなたしか見えないよ」
彼女はそう言って俺に両手を伸ばす。
そんな彼女の手を掴み、俺は彼女を引き寄せ抱き締めた。
「今はあなただけでいいの」
彼女は俺の胸に顔を埋めて言った。
俺の恋人?
分からない。
俺の友達?
それも分からない。
彼女は俺の何なのだろう?
分かる訳がない。
だって俺達は、そんな話を一切したことがない。
曖昧な関係とでも言っておこう。
彼女と俺の接点は眼鏡とコンタクトレンズ。
それじゃあ、俺達の出会いから話そうか。
◇
一年前。
俺は受験をした高校へ、合格をしているのか確認する為に、高校に来ていた。
人が多く、少なくなるまで近くの椅子に座った。
泣いている人、喜んでいる人、泣いている人を励ます人、すぐに誰かに連絡をする人、友達と一緒に喜びハイタッチをする人、色んな人がいた。
そんな騒がしい人の声が少なくなった頃、俺は合格者の番号が張り出されている場所へ向かう。
自分の番号を探して見つけた。
合格していた。
ホッとしている時、俺の隣で背の低い女の子が、張り出された紙を顔を近づけて見ている。
近すぎて俺はツッコミたくなった。
「そんなに近くで見てたら、上の方はどうするつもりなの?」
「えっ」
彼女は驚いて俺を見上げた。
彼女は美少女だった。
どう表せばいいのか分からない。
アニメに出てくる可愛い女の子?
綺麗な女優さん?
美しいフランス人形?
彼女はどれでもない。
彼女はそのどれよりも可愛く美しく、俺の心を一瞬で奪っていった。
「あなたって目はいいの?」
「まあ、コンタクトをつけているからね。いいと思うよ」
「そうなの? それなら私の番号を探してくれるかな?」
「もしかして君って目が悪いの?」
「そうなのよ」
「いいよ。番号は何?」
そして俺は彼女の目になってあげた。
彼女も合格をしていた。
彼女と同じ高校に通えるなんて嬉しい。
「ありがとう。眼鏡が壊れちゃって、今日の夕方できるって言われていたの」
彼女は俺が聞いていないのに話し始めた。
植木に向かってね。
「ねえ、俺はこっちだけど?」
「えっ、嘘、ごめんなさい。人違いでした」
彼女は植木に向かって謝っている。
そんな彼女も可愛い。
「それは人じゃなくて植木だよ」
俺はそう言って彼女の手を引いて歩く。
「ごめんね。初めて会った人にどれだけ迷惑かけてるんだろう」
「いいよ。君のことは忘れないと思うよ。だから、また入学式に会おうよ」
「うん。入学式に会おうね」
彼女は天使のような笑顔で笑った。
この顔を忘れる訳がない。
彼女にまた会うのが楽しみだ。
◇◇
入学式の日がやってきた。
やっと彼女に会える。
ドキドキワクワクで学校へ向かう。
学校に着くと、一年生の教室の全てへ向かい、彼女を探した。
しかし彼女はいなかった。
絶対に会えると思っていたのに。
彼女のような美少女は、何処を探してもいなかった。
彼女は幻だったのかな?
俺の夢だったのかな?
あの日、確かに彼女の手を握ったんだ。
それなら彼女は何故いないんだ?
もしかしたら今日は休みなのかもしれない。
入学式が始まった。
新入生代表あいさつと、司会進行の先生が言う。
壇上に上がったのは、瓶底眼鏡の三つ編みの女の子だった。
まあ、一年生で一番、頭がいいのだから仕方がない。
偏見で決めつけたらいけないのだと思うが、勉強のやり過ぎなんだと俺は思う。
それから教室へ行くと、あの瓶底眼鏡の女の子が俺の隣の席だった。
彼女とはあまり話はしないだろう。
勉強が分からない時に、聞くくらいしか話すことがないと思う。
「あっ、初めまして。お隣さんよろしくね」
「あっ、よろしく」
彼女は見た目と違い、すごく気さくな人だった。
俺はすぐに彼女と仲良くなった。
毎日のように、放課後は教室に残って二人で話をしていた。
「ねぇ、私ってやっぱり目立たないかな?」
「何だよ。いきなり?」
「ん? ちょっと気になる人がいるの」
「好きな人がいるのか?」
「ん? どうだろう?」
「まあ、その眼鏡とその三つ編みは最初は目立っていたけど、今は当たり前になっているかもな」
「そうなの? やっぱりこの眼鏡がダメかなぁ?」
彼女は眼鏡を取ろうとして止めた。
「眼鏡を外すと何も見えないの。あの人の顔も見えなくなっちゃうから外せないの」
「そんなに好きなんだね?」
「あの人に会いたいなぁ」
彼女はそう言って窓の外を見ていた。
彼女の眼鏡を取った顔を見たことがない。
だから俺は、彼女の顔をあまり知らないのかもしれない。
俺は合格発表の日に出会った!美少女のことは考えないようにしていた。
もう、入学してずいぶん経つが、あの美少女はいない。
彼女は他の学校へ行ったのかもしれないと、自分で納得いく理由をつけて諦めたんだ。
「なあ、あの人を探そうか?」
「でも、どうすればいいのか分からないのよ」
「まずは、その三つ編みを止めたらいいんだよ」
「でもこれは、お兄ちゃんがいつも結んでくれるのよ」
「君はあの人に会いたいだろう?」
「うん」
そして彼女は三つ編みの紐をとる。
三つ編みがスルスルと解けていく。
綺麗な黒くて長い髪が、少しウェーブを保ち現れた。
「三つ編みがないだけで随分と印象が変わるじゃん」
「そう? これであの人が気付いてくれればいいのになぁ」
彼女は嬉しそうに笑っていた。
◇◇◇
しかし彼女の探すあの人はまだ現れない。
それなら残りは眼鏡だな。
「眼鏡を取れば、気付いてもらえるんじゃないのか?」
「眼鏡は絶対にダメよ。あなたの顔も見えなくなっちゃうわ」
「それなら俺と同じで、コンタクトにすればいいじゃん?」
「あなたってコンタクトなの?」
「そうだよ。言ってなかったかな?」
「聞いてないよ。あの人と同じね」
「そうなんだね。それで眼鏡は取るのか?」
「それはダメ」
彼女は眼鏡だけは絶対に取らないと言い続け、もうすぐ高校一年の一年間が終わろうとしていた。
彼女のあの人はまだ現れない。
「あの人と出会って、もうすぐ一年経つのに、あの人には会えないままね」
俺達は一年生としての最後の学校が終わり、教室で二人で話をしていた。
「眼鏡を取ればいいのに」
「ダメなの。眼鏡をつけて、あの人の顔を見たいからね」
「でも、君はあの人を待ってるだけだけど、自分でどうして探さないんだよ?」
「だってあの人の顔を知らないからよ」
「えっ、どういう意味だよ?」
「あの人と出会った時に、私は眼鏡がなかったの。だからあの人の顔は知らないけれど、覚えていることはあるの」
「見えないのに何を覚えられるっていうんだよ?」
「あの人の身長は私より高くて、優しくて、手は大きくて温かくて。でも顔が分からないから、あの人を探せないの。他のことは知っているのに、、、」
彼女の言葉を聞いて、俺はあの日の美少女が頭に浮かんだ。
「眼鏡を外してよ」
「だからダメだって、言ってるでしょう?」
俺はそっと彼女の眼鏡を外した。
そこにはあの日の美少女がいた。
「もう! 見えないじゃない」
彼女は怒りながら席から立ち上がり、俺の方へゆっくりと歩いてくる。
俺は彼女の目の前に顔を持っていく。
「これで見える? 君が探していた顔だよ」
「えっ」
彼女は驚いて固まった。
でもすぐに、あの日の天使のような笑顔で俺に言ったんだ。
「あなたしか見えないよ」
彼女はそう言って俺に手を伸ばす。
そんな彼女の手を掴み、俺は彼女を引き寄せ抱き締めた。
「今はあなただけでいいの」
彼女は俺の胸に顔を埋めて言った。
俺達はやっと会えたんだ。
だから俺達の関係はまだ曖昧なんだ。
でもいつか俺は彼女に言うんだ。
「好きだ」
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次のお話は、婚約破棄をされた主人公が出会ったのは、同じく婚約破棄をされた可愛い彼女との物語。
そんな二人は約束をする。
その約束は何なのか?その約束は守られるのか?




