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【四十九人目】 難しい恋愛はしたくなくて婚約破棄を選ばなかった俺に幼馴染みが言った。「あなたってバカね」と。

 俺は彼女にプロポーズをされた。

 彼女は俺より年上だが身長は低く、顔は幼く目は黒目が大きく子供っぽく見える為、俺より若く見られる。


 そんな彼女が、俺にプロポーズをしたのには理由があった。


 一番は俺のことが好きということ。

 そしてもう一つが年齢だ。

 彼女は結婚をする年齢を決めていた。

 その年齢になる前に、彼女は俺にプロポーズをしたんだ。


 彼女のプロポーズに、俺は宜しくお願いしますと一言だけ彼女に伝えた。

 彼女は嬉しそうに笑っているが、俺は結婚がどんなモノなのか想像もつかず、心の底から笑えないでいた。


「プロポーズされたんだ」

「えっ」


 俺は会社の休憩室で、同期で幼馴染みの彼女に言うと、彼女は驚いていた。


「宜しくお願いしますって言ったんだけど、結婚って何をする訳?」

「ちょっと、その質問の前に気になることがあるんだけど?」

「何?」

「彼女からプロポーズをされたの?」

「そうだけど?」

「あなたからじゃなくて?」

「そうだけど?」

「あり得ないわ」


 彼女はそう言って、おでこに手を当てて呆れていた。


「何だよ?」

「プロポーズは、あなたからしなきゃ。彼女は絶対に待っていたと思うわ。そんな素振りはなかったの?」

「ない」

「あなたは気付かなかっただけのようね。あなたってバカだからね」

「バカは分かっている」

「少しは反省をしなさいよね」


 彼女はムッとした顔をしながら言った。


「何で反省なんかする必要があるんだよ?」

「女の子の気持ちを分からないからよ」

「俺は男だから女の気持ちなんて分かんないだよ。それに結婚なんて考えたこともないし」

「じゃあ何でプロポーズをオッケーしたの?」

「だって彼女のことは好きだし、断ったらまた(いち)からの恋愛なんてしたくないじゃん」

「あなたって本当にバカね」


 彼女の目は俺を睨みつけ怒っていた。


「結婚式をして彼女と一緒に暮らして子供なんてできて、めでたしめでたしだろう?」

「バカじゃないの?」

「だから俺はバカだって言ってるだろう?」

「結婚はそんな単純じゃないのよ? お互いが思いやりを持って一緒に住んで、幸せな家庭を作らなきゃいけないのよ?」

「それなら俺と君がそうじゃん」

「何で私達なのよ?」

「昔、君はよく俺の部屋に泊まりに来てただろう?」

「それが何よ?」

「あの頃から君は俺の家族同然なんだよ」

「えっ」


 彼女は顔を赤くしてうつむいた。

 何だよ?

 怒ったのか?


 そして彼女は何も言わずに休憩室を出ていった。

 何なんだよ。

 何か言ってから出ていけよな。


 この日、彼女と話をしたのはこれが最後だった。



 それから一週間が経った。

 幼馴染みの彼女とは、あれから一度も話をしていない。

 そんなことは今まで一度もない。

 ケンカをしても次の日には、いつものように話をしていたのに。


「ねぇ、最近ボーッとすることが多いわね?」

「そう?」


 俺は婚約者と、俺の家にいた。

 婚約者の話をなんとなく聞きながら、幼馴染みの彼女が今はどうしているのか考えていた。


「何を考えているの?」

「そう?」

「私の話を聞いているの?」

「うん」

「本当なの?」

「そう?」

「ねぇ、私をちゃんと見てよ!」


 俺は婚約者に両手で頬を包まれたから、強制的に婚約者を見る。

 婚約者は今にも泣きそうだ。


「どうしたの?」

「あなたが悪いのよ」

「俺?」

「あなたはずっと私を見ていないじゃない」

「見てるよ」

「ううん。見ていないわ」


 婚約者は悲しそうにしながら、俺の両頬にある手を退けた。


「プロポーズをすれば変わると思ったけど、あなたはやっぱり変わらないのね」

「何を言っているんだよ?」

「ごめんね。やっぱり婚約は無しにしてもらえるかしら?」

「えっ」

「そして、あなたとは今日が最後よ」

「えっと、何で?」

「あなたの瞳に映っているのは私じゃないのよ。目を閉じてみれば分かるわ」

「うん」


 俺は婚約者に言われて目を閉じた。


「何が見える?」

「何って、何も見えないけど?」

「残像が見えない?」

「残像?」


 残像なら婚約者に決まっている。

 だって、さっきまで見ていたのは婚約者だから。

 残るなら婚約者に違いない。


 婚約者が言うように暗闇の中、婚約者の残像を探す。

 目を閉じたま上下左右そしてグルグル回す。

 その時、見えたんだ。


 彼女が。

 幼馴染みの彼女が顔を赤くしてうつむいていた。


「えっ」


 俺は驚いて目を開けた。

 そんな俺を婚約者は見ていた。


「見えたでしょう?」

「そうだね」

「納得いかないの?」

「まあね」

「どうして私じゃないのかって思っているの?」

「うん」


「やっぱり私じゃなかったのね」


 婚約者は悲しそうな顔をしている。


「どうして君は分かったの? 俺には君が見えないなんて」

「一緒にいれば分かるわ。あなたは私をいつも選ばなかったじゃない?」

「俺が君を選ばない?」

「そうよ。あなたはいつも、私より彼女を選んでいたわ」

「彼女?」

「あなたの幼馴染みの彼女よ」


 どうして今、あいつが出てくるんだ?


「あいつを俺が選んでいたって? 俺はあいつより恋人の君を選んでいたよ」

「それなら彼女が風邪をひいた時、あなたは私を家へ送ったら急いで帰ったでしょう?」

「あれは、君をちゃんと家まで送り届けて、あいつの好きなアイスを買って帰ったんだけど、何か悪い所があるかな?」

「私はあの時、まだあなたと一緒にいたかったの。でもあなたは早く帰りたいのか、時計を何度も見ていたわ」


 俺はあの日のことを思い出す。

 あいつが珍しく風邪をひいたから、あいつが好きなアイスを買って帰ろうと思っただけだ。

 俺が、じゃあねって言ったらうんって言ったよね?


「言ってくれれば一緒にいたのに」

「そういうことじゃないのよ」

「じゃあ何?」

「私はあなたに言わなくても気付いてほしかったの。そして私をちゃんと見てほしかったの」

「言わないと分からないよ」

「それなら彼女が無言電話をしてきた時、あなたは何故、彼女の所に行ったの?」

「何でそれを?」


 一度だけ、あいつから無言電話がきた時があった。

 あいつに何かあったんだと思ったから、あいつの家に向かったんだ。


 あの時、俺は婚約者と一緒にいて、婚約者には用事があるって言ったはずだ。

 それなのに何で知ってんだよ?


「あの電話がきた時に、ディスプレイが見えたの。彼女の名前だったわ」

「だから知っていたのか」

「あなたは私よりも彼女を選んでいるわ」

「あれは心配だからで、、、」

「そうね、心配よね。だから私は彼女には勝てないって分かったのよ」

「俺はあいつを、、、」

「あいつを何なの?」

「あいつを家族同然だと思っているだけだよ。あいつにもそう言ったよ」

「彼女はあなたの言葉を聞いて何て言ったの?」

「何も言わないよ。ただ顔を赤くして、怒っていたんだと思うよ」

「怒っていたの?」

「だって俺と家族になんてなりたくないだろう?」

「そうね」


 婚約者にまで、家族になりたくないと言われると、バカな俺でもへこむよ。


「もし、彼女に恋人ができたらどうするの?」

「あいつに恋人はいないよ」

「だから、できたらよ」

「許さないよ」

「ほらっ、答えが出たわよ」

「答え?」

「あなたは彼女を愛しているのよ」

「愛?」

「恋人達が結婚したら家族になるでしょう? 家族って愛しているから言えるのよ」

「愛、、、」

「愛は真心、恋は下心って誰かが言っていたわ」

「何それ?」

「真心は心の真ん中で感じるの。下心は心の端っこで感じるの。どっちがいいと思う?」

「真ん中だよ」

「そうでしょう? 私もそう思うわ」


 婚約者はニコッと笑った。


 そして俺と婚約者は今日を最後に別れた。


◇◇


「なあ、何で話をしてくれない訳?」


 俺は今日で何度目か分からないが、彼女の家を訪れ、話をしてくれない彼女に話しかける。

 彼女は俺を家に入れてくれるが何も話さない。

 彼女には婚約破棄をされたことは教えた。


「愛と恋の違いを知っているか?」


 俺が彼女に聞くと彼女は俺を見つめた。

 何も言わないが、聞きたいと思っていることが伝わってくる。


「愛は真心、恋は下心だってよ」


 俺がそう言うと彼女はうなずきながら納得した顔をしている。


「君はどっちがいい?」


 俺の質問は、彼女が口を開いて話さなければ答えられない。


「私は愛よ」

「そう言うと思っていたよ」

「誰でも愛を選ぶわよ」

「愛してる」

「えっ」

「俺は君を愛してるよ」

「真心?」

「そう。心の真ん中で感じる想い」

「私は……」


 彼女は、私は……の先の言葉を言わずに、彼女の胸の真ん中の服をキュッと掴んだ。


 言わなくても分かる。

 彼女は俺に愛していると伝えている。


「真心だね」

「うん」


 そして俺は彼女を抱き締めた。


「ねぇ、また(いち)から恋愛をしなきゃならないけどいいの?」

(いち)からじゃないよ。俺は君が言いたいことも分かるんだよ? もう、恋は終わったんだよ」

「えっ」

「これからは家族として初めるんだ」

「それは今までと変わらないくて、私は家族同然だったでしょう?」

「うん。家族同然から家族になるんだよ。君はね」

「家族として初めるならまた(いち)からよ?」

「君となら(いち)からでも嫌じゃないよ」

「私もよ」


 彼女はそう言って俺を見上げて笑った。



 彼女が話さなかった理由。

 それは俺に気付いてほしかったからだ。

 彼女が俺のことをどれだけ好きなのかを。


 もしかしたら彼女との、家族としてのこれからが一番難しいのかもしれない。

 まあ、それも楽しみだ。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。


次のお話は、一度会った美少女にもう一度会おうと約束したのに彼女と約束した日に会えない彼の物語。

だからそんな美少女のことは諦めて忘れた。

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