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【三十七人目】 泣いたら負けなんだって幼馴染みはいつもそう言って泣くのを我慢する

 俺と幼馴染みの彼女が初めて話をしたのは、俺達が五歳の時だ。

 彼女が五歳の時に俺の家の隣に引っ越してきた。


 引っ越してきたその日に俺達は仲良くなった。

 彼女と、男の子が好きなヒーローの話をして、意気投合したことを覚えている。


 彼女は女の子なのに、ヒーローが好きだったが、そのヒーローが出るアニメの、ヒーローの友達の方が好きだった。

 そして俺も同じだった。

 彼女とは趣味が合うと感じたんだ。


 それは大きくなっても変わらなかった。

 俺達は、いつも好きな物が同じなんだ。

 今の好きな物はテレビゲームだ。

 二人で力を合わせて敵を倒していくゲームは、毎日のようにしている。


「今日こそは勝つよ」

「そうだな。早く次のステージに行きたいからな」


 今日も彼女とテレビゲームをしようとしている。

 彼女は毎日、俺の家にゲームをする為に来る。

 今日もやる気は充分だ。


「えっ嘘でしょう? 私のせいよね?」


 彼女のせいで敵に負けてしまった。

 彼女は悔しそうな顔になる。


「またやればいいんだから大丈夫だよ」

「どうしてそんなに優しいの? 私のせいで次に進めないのに、、。もっと私を責めてもいいんだよ?」

「だってゲームだし」

「そうね。ゲームだもんね」


 彼女に悔しい顔は、すぐになくなり、またやる気充分の顔に戻る。

 彼女を責めたら彼女は泣くんだと思う。

 それくらい彼女は悔しそうにしながら、泣きそうな顔をしていたんだ。


 彼女を泣かせないようにする理由。

 それは彼女が言った言葉のせい。

 彼女が母親を亡くした時に言った言葉。



 彼女の母親が亡くなったのは、俺達が小学六年生の時だった。

 俺達は俺の部屋で遊んでいた時、彼女の母親が亡くなったと、俺の母親から聞かされた。


 彼女はその話を聞いても泣かなかった。

 俺の母親は、彼女を病院へ連れていくからと準備をバタバタとしていた。


 そんな時、彼女は俺の部屋から出る事もなく、焦る事も、泣き叫ぶ事もせずに、ただ窓から空を見ていた。


 俺は彼女の頭を撫でた。

 彼女は()めてと言って俺の手を払った。

 その時の彼女の顔は今でも覚えている。


 泣きたいのに泣けない。

 泣き叫びたいのに、どうすればいいのか分からない。


 自分が今、何をすればいいのか分からないほど動揺していた。

 困惑している顔だった。


 だから俺は彼女に教えてあげたんだ。

 泣いていいよって。

 すると彼女は目を見開いて驚いていた。

 そしてあの言葉を言った。


「泣いたら負けなの。この感情に負けたらダメなの。私は泣かない」


 彼女が、涙をグッと我慢しているのはバレバレだ。

 俺が言った言葉に、少し決意が緩みそうなのかもしれない。

 そんな彼女を俺は応援したくなった。


「それなら泣くな。君は負けるな」


 俺だって彼女の気持ちを考えると、泣きたくて仕方ない。

 俺も我慢をした。


 俺達はいつの間にか、手を繋いで二人で泣くのを我慢したんだ。

 それから彼女は一度も泣かなくなった。


◇◇


 そして毎年やってくる大事な日。

 それが今日。


「ねぇ、今日は家に来るよね?」


 彼女は心配な顔で俺を見た。


「当たり前じゃん」

「良かった。あなたがいないと負けそうになるから」

「今日は絶対に君を一人にしないよ」

「うん」


 今日は彼女を一人にしてはいけない。

 その理由は、彼女の母親の命日だから。

 彼女は一人になったら泣いてしまうから。

 彼女が泣かないように、寂しくないように、俺は彼女の家に泊まる。


「今年もこの日が来たね」


 彼女はベッドに入り、俺は彼女の横に布団を敷き、布団の中に入る。

 部屋の電気も消して真っ暗だ。

 その真っ暗闇で、眠るまで二人で話す。


「そうだね」

「お母さんがいなくなって六年になるんだよ?」

「そうだね」

「私はまだ、あなたがいなかったら、お母さんのことで泣いちゃいそうだよ」

「そうだね」

「今年もあなたは、そうだねしか言わないつもりなの?」

「そうだね」

「もう! 何なのよ」


 彼女は怒ってベッドから俺を見下ろした。


 俺がそうだねしか言わない理由は、俺が何かを言って彼女が泣かないようにするため。

 彼女が負けたくないなら俺は応援をする。

 あの日に決めたんだ。


 頑張れの代わりのそうだねなんだ。

 彼女には分からないだろう。

 だって今だって、頬を膨らませ怒っているんだからね。


「早く寝ろよな」

「何よ。そうだねしか言わないんじゃないの?」

「そうだね」

「もう!」


 彼女は怒りながら俺の視界から消えた。

 もう、寝るんだろう。

 彼女の姿は下からは見えないから分からないが、見えなくなったのだから寝るに違いない。


 少しして彼女の寝息が聞こえる。

 俺はまだ寝ない。

 俺にはまだやらなきゃいけないことがあるんだ。

 

 さあ、そろそろいいかな?


 俺は起き上がり彼女の顔を覗き込む。

 やっぱり今年も彼女は泣いている。

 俺はそっと親指で彼女の涙を拭う。


 彼女は毎年、今日だけ泣くんだ。

 彼女は泣くことを我慢しているから、俺は彼女に今日のことは秘密にしている。

 泣いたことを気付かせない為に、彼女の涙を拭うんだ。


 綺麗な彼女の涙は、月明かりに照らされて輝いている。

 宝石のように!本当はずっと持っていたいのに、涙はすぐに乾いて、俺の親指から消えてなくなる。


 本当は彼女の涙をもっと見ていたいんだ。

 彼女の涙は俺にとっては、綺麗なモノで大切なモノだから。


「ねぇ」

「えっ」


 彼女が目を開けて、俺を見つめながら口を開いた。

 俺はそれに驚いた。


「どうして起きているの?」

「えっと、その、何で?」

「私が聞いているのよ? それに、そうだねしか言わないんじゃないの?」

「あっそうだね」

「もう、遅いわよ。だから教えて、どうしてあなたはそんな顔で私を見ているの?」

「そんな顔?」

「そうよ。苦しそうな顔よ」


 彼女は心配するように、俺を見ている。


「俺の顔が苦しそうなの?」

「自分で気付いていないの?」

「自分の顔は見えないからね」

「ねぇ、どうして起きていたの?」

「君の寝顔を見ていただけだよ」

「嘘つき」

「えっ」

「また嘘をついたわね」


 彼女はまた嘘をついたと言った。

 また?

 俺ってそんなに嘘をついているかな?


「あなたは嘘をついているのにも気付いていないの?」

「えっ俺ってそんなに嘘ついてるかな?」

「うん。例えばゲームで私のせいで負けた時、本当は私を責めたかったでしょう? 他にもあるよ。私の好きな酢豚のパイナップルをいつもくれるけど、本当はあなたも好きなんでしょう? まだあるけど聞く?」

「もう、いいよ。何か俺がしていることを、全部言われそうだ」

「だって全部だもん」

「えっ」

「あなたは私の為に、全部を我慢して私に嘘をつくのよ」


 彼女の言葉を聞いて、自分のしてきたことを思い返す。

 彼女が泣かないようにしていたこと全ては、彼女の為。


 だから自分のことなんて、後回しだったかもしれない。

 でも俺はそれでいいんだ。

 彼女の我慢に比べたら、俺の我慢は苦痛でもない。


「俺はそれでいいんだよ」

「私は嫌よ」


 彼女が泣きそうだ。

 ダメだ。

 彼女は負けたくないんだから。


「そうだね」

「えっ」


 彼女は俺の言葉に驚いている。

 彼女の予想していた言葉とは違ったのだろう。


「何がそうだねよ。また、私の為に何も言わないつもりなの?」

「そうだね」

「嫌い。そんなあなたは嫌いよ」


 彼女がまだ泣きそうな顔をしている。

 俺は何も言っていないよ?

 いつものように今日が終わればいいんだよ。

 それなのに今日は何故、終わらないんだ?


「私は知っていたの。毎年、泣いてるのを」

「えっ」

「知っているに決まってるわ。優しく私の涙を拭ってくれる手があるのに。気付かない訳がないじゃない?」

「それなら言えばよかったじゃん」

「言えないよ。だって私は、負けたなんて認めたくなかったからね」

「どれだけ負けず嫌いなんだよ?」

「ただ負けたくないだけよ」


 彼女は自分が負けず嫌いだということを、認めないようだ。


「ねえ、どうして泣く事が負ける事になる訳?」

「お母さんが言っていたの。泣いたら負けだよって」

「そっか。お母さんが言っていたんだね。君はお母さんの言葉を守っていたんだね?」

「うん」


 彼女は大きくうなずいた。


「俺は違うと思うよ?」

「何が?」

「泣く事が負けることにはならないと思うよ」

「どうして?」

「だって赤ちゃんが泣くのは負けてるの?」


「それは赤ちゃんは、まだ喋れないから泣いて知らせているのよ」


 彼女はクスクスと笑いながら言った。


「君は?」

「私は喋れるから泣く必要はないわよ」

「それなら君はお母さんがいなくなって、俺に教えてくれたかな? 悲しいって教えてくれた?」

「えっ」

「俺は君から聞いていないよ? それに、お母さんのことだけじゃないよ。ゲームで負けた時に、悔しいって言ったかな?」

「言ってないよ」


 彼女は震える小さな声で言った。

 彼女はもう泣くと思う。

 今まで我慢していた涙を流すと思う。

 泣いてもいいんだよ。

 

「今日、君は寂しいって言った?」


 俺のこの一言で彼女の目から涙が流れる。

 やっぱり彼女の涙は綺麗でその涙が枕に染み込む。

 彼女の涙は寂しいって俺に伝えているんだ。


 そして彼女は俺に両手を広げてきた。

 まるで俺に抱き締めてと言ってるようだった。

 だから俺は彼女の腕を引っ張り、ベッドから起こし抱き締めた。


 彼女は嫌がらず俺に抱き付き泣いている。


◇◇◇


 それからどのくらい彼女は泣いたのだろう。

 今は落ち着き、抱き付いたまま俺の胸に顔を埋めている。


「ごめんね」

「いいよ」

「あなたにとって私って可哀想な女の子なの?」

「違うよ」

「それなら何?」

「強くて真っ直ぐで負けず嫌いで、お母さんが大好きな可愛い女の子だよ」

「なんか私って子供っぽいかな?」

「そうだね。でも君の泣いてる顔はすごく綺麗だった」

「えっ」


 彼女は顔を上げて俺を見ている。

 俺の言葉を待っているように。

 それなら言ってあげよう。


「俺は君が好きだよ」

「私もあなたが好きよ」


 彼女は笑顔を見せてくれた。

 この笑顔を俺は覚えている。

 そう、あの時だ。

 俺と彼女が初めて話をした日。


 ヒーローの友達が好きって言ったら、彼女も好きだって言って、同じだねって二人で笑ったんだ。

 俺と彼女は同じ想いで笑っているんだ。

 やっぱり俺と彼女は、意気投合するみたいだ。


 昔も。

 今も。

 ずっとこの先も。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。感謝です。

次のお話は、いきなり朝から可愛い女性に、婚約者になって欲しいとプロポーズをされた主人公の物語。

彼女から、婚約者にする理由を聞いて、協力することにした。

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