【三十六人目】 友達がいつの間にか弟に恋をして友達以上になれないならもういいよ、なんてならない諦めの悪い俺
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今日の彼女はいつもと何かが違う。
あっ分かった。
前髪が昨日より少し短くなっている。
彼女は不思議そうに俺を見ている。
俺が彼女の前髪の変化を見つけるまで、何も話さないからだろう。
学校へ一緒に行くのが当たり前で、いつも話をしながら歩いている道を、俺は黙っているから、彼女は少し心配をしているのかもしれない。
「どうしたの?」
やはり彼女は心配してくれている。
俺の好きな人は俺の変化に気付いてくれる。
彼女こそが俺の求めていた恋人だ。
「次はニヤニヤしてるよ? 気持ち悪いんだけど」
はあ?
俺の求めている理想の恋人の彼女が、頭の中で砕け散る。
「気持ち悪いはないだろう?」
「だって、変な顔よ?」
「君に言われたくないよ」
「ひっひどい。女の子には可愛いよなんて嘘でもいいからいいなさいよね」
「可愛いよ」
「えっ」
俺が真剣な表情で彼女に可愛いと言えば、彼女は顔を真っ赤にして照れている。
そんな彼女は美少女だ。
通行人が、彼女を二度見するくらい彼女は美少女だ。
そんな彼女は俺の恋人ではない。
ただ友達なんだ。
「嘘でもいいって言っただろう?」
「えっ、嘘でもいいって言ったけど、嘘だって言わなくてもいいでしょう?」
「嘘って言わないと君は勘違いするだろう?」
「しないわよ。そんなに自惚れてなんかいないわよ」
彼女は自分が美少女だと気付いていない。
だって、俺が彼女に本気で可愛いなんて言わないから。
それに通行人が、彼女を二度見するのは他の理由があるからだと思っている。
それは、、、。
「ねぇ、また見られたよ?」
「仕方ないよ。君はスタイルがいいから」
「あなたはそこだけは褒めるのね」
「だってそうだろう? 足は長いし身長もそこそこあるし、モデルみたいだからね」
「そうね。だから誰もが私を二度見するのよね?」
「そう。後ろ姿を見れば、前の姿の君も気になるんだよ」
「そしてみんな、ガッカリして私を見ないのよ」
「そうだな」
「だからそこはそうじゃないよって言えないの?」
「無理だって」
「もう! あなたなんか嫌いよ」
彼女は俺に怒って拗ねてしまう。
彼女はいつもこんなだ。
自分の後ろ姿に期待をされ、前の姿を見るとガッカリされるのだと思っている。
しかし、それも間違っている。
彼女を二度見してしまう理由は、彼女が美少女過ぎるからだ。
あまりにも可愛いから、彼女から目を逸らしてしまう。
そんな通行人達の気持ちは俺も分かる。
彼女と目が合うとドキドキしてしまう。
そして彼女から目を逸らしてしまうんだ。
「今日は、あいつが早く帰るって言ってたけど家に来るか?」
「えっ本当? 絶対に行くよ。私の癒しだもん」
彼女はさっきまで拗ねていたのに、すぐに機嫌が良くなり、嬉し過ぎるのか、俺に眩しい笑顔を見せた。
あいつとは誰なのか説明しよう。
あいつとは、彼女が可愛がる奴だ。
いつも笑顔になりながら頭を撫でたり、たまには抱き締めたり、まるでぬいぐるみ扱いだ。
でもあいつは、ぬいぐるみではない。
あいつは人間。
あいつは中学生。
あいつは男。
あいつは俺の弟だ。
そしてあいつは彼女の笑顔を独り占めできる奴。
彼女は俺の弟にメロメロだった。
彼女が、そう言っていた。
◇
「おとく~ん」
彼女は俺の家に入ると、すぐに弟の部屋へ一直線だ。
彼女の顔は嬉しそうだ。
俺にはあんな顔なんて見せないのに。
彼女は俺の弟の部屋へ入っていった。
「うわっ」
弟が彼女の犠牲になった。
何をされているのだろう?
この前は頬っぺたを、ずっとツンツンされていた。
その前は髪の毛がサラサラと言って、ずっと指で梳かしていた。
他にも睫毛が長いからって、ずっと見られていたり、口角が上がっているからって彼女も真似して、ずっと可愛い笑顔を見せられていた。
俺は弟の部屋に入って驚いた。
彼女が顔を真っ赤にして固まっている。
何があったんだ?
俺は弟に目を向けた。
弟を見て俺は気付いた。
「ちょっと俺の部屋に来い」
俺はそう言って、彼女の腕を引っ張り俺の部屋へ入れた。
「お~い、大丈夫か?」
俺は彼女の目の前で手を振った。
「だっ、大丈夫よ」
彼女の顔はまだ赤い。
男の着替えている所を見て、そんなに恥ずかしいか?
弟は着替えの途中だった。
カッターシャツの前のボタンが全部開いていたから、その姿を見て彼女は固まったみたいだ。
「落ち着いたら君の好きな弟の所に戻るか?」
「戻れない」
「はあ?」
「もう、戻れないの」
「何で?」
「おと君じゃないの」
「当たり前だろう? あいつは、おとって言う名前じゃないからな」
彼女は弟のことをおとって呼ぶが、あいつの名前におとなんて字は入っていない。
彼女が何故おとって呼ぶのか、俺も弟も知らない。
「そうじゃないの」
「だったら何だよ?」
「もう、弟くんじゃないのよ」
「弟?」
「そうよ。弟くんを略しておと君なの」
「そうだったのか」
俺はおとの意味を知って納得した。
彼女は弟を弟と呼んでいた。
そして今は弟じゃないなら何なんだ?
「納得してる場合じゃないのよ」
「何でそんなに焦ってんだよ?」
「だって私、おと君を好きになっちゃったもん」
ん?
彼女は今、何て?
好き?
弟を?
「勘違いだろう? だって君は、あんなにあいつを可愛がってただろう?」
「うん。女の子のように可愛い顔して、女の子のように身長が低くて、女の子のように可愛く笑うの。だからおと君は、私の可愛い妹みたいな男の子だったの」
「今だって何も変わらないだろう?」
「違うよ。全然違うの」
彼女は混乱したような顔で、俺に助けを求めるように言った。
「それなら君にとってあいつは何?」
「おと君は私の、、、好きな人みたい」
彼女は少し考えて照れたように言った。
俺の弟なんだよ?
俺の弟に彼女を奪われるのか?
いやっもう、彼女の心は奪われているのか?
そりゃあ、俺の弟は可愛いよ。
兄貴の俺でもそれは思う。
可愛い男を好きになるか?
「よく考えろよ? 可愛いあいつだろう? どこを好きになるって言うんだよ?」
「だって、あんな腹筋を見たら好きになるわよ」
「腹筋?」
「すごい腹筋が割れてたの」
「それってあいつじゃなくて、腹筋が好きなんじゃないのか?」
「そんなことないもん」
彼女は頬を膨らませ言った。
それなら本当にあいつが好きなのか試してやるよ。
「これを見てもそう思う?」
「えっ」
俺は彼女に見えるように制服を上げ、腹筋を見せた。
「これでもあいつが好きか?」
「なっ何であなたも腹筋が割れているのよ?」
「俺達兄弟は筋肉がつきやすいんだよ」
「ちょっと待って。ちょっと考えさせてよ」
「考えるって、俺とあいつで迷ってんの?」
「違うわよ。腹筋とあなたで迷ってんの!」
彼女は焦りながらそう言った。
彼女がそう言うならそうなんだろう。
じゃあ待ってやるよ。
「まだか?」
「待ってよ」
彼女は何かブツブツ言いながら考えている。
遅い。
それなら俺から言うのも有りかもな。
「そんな迷った顔をしている君も可愛いよ?」
「何? こんな大変な時に、朝のことでも思い出したの?」
「朝?」
「うん。私が今日の朝、可愛いくらい言いなさいって言ったからでしょう?」
「違うよ。本当に俺は君を可愛いって思っているよ」
「えっ」
「君のその驚いた顔も、怒った顔も、拗ねた顔も、照れた顔も、全部の顔が可愛いよ」
「どうしたの?」
彼女は心配するように俺を見て言った。
彼女には、俺の気持ちがまだ伝わらないみたいだ。
ちゃんと言おう。
俺は彼女の目を見つめる。
「俺は君が好きだよ。後ろ姿も、前の姿も」
「あなたも、私の前の姿を見てガッカリするんでしょう?」
「君は可愛いよ。誰が見たって君は可愛いよ」
「どうしてそんなことが分かるの? みんな私を二度見して、ガッカリしているじゃない?」
「ガッカリしているんじゃなくて、君が可愛過ぎてみんな君を見れないんだよ」
「可愛い? 私が?」
「そう。だから君は自惚れていいんだ」
「それならあなたの前でだけ自惚れるわ」
彼女はニッコリ笑って言った。
「俺?」
「そうよ。だってあなたは嘘はつかないでしょう? あなたが言う事は信用するよ。だからあなたの前でだけなの」
「それって信用しているっていうの?」
「信用しているよ。あなたの一言で私の心は嬉しくなったり落ち込んだりするんだもん。それって信用しているからでしょう?」
彼女は首を傾げて俺に言った。
なんて可愛いんだ。
「可愛い」
「えっ」
俺の言葉に彼女は顔を赤くして照れた。
「ところで弟のことはどうする訳?」
「あっおと君は今まで通りよ」
「それって弟ってことだよね?」
「そうだよ」
「それなら一つだけ言わせて」
「うん」
「あいつに触れないでよ」
「えっ」
「あいつに抱きつくのも、髪の毛を触るのも、頬をツンツンするのも、頭を撫でるのも全て、あいつに触れてほしくないんだ」
俺がそう言うと、彼女はクスクスと笑った。
「何で笑うんだよ?」
「だって、今までずっとそう思っていたの?」
「悪いかよ」
「ううん。嬉しい」
「仕方ないだろう。俺は君を友達なんて思ったことはないんだよ」
「そっか。だからなのね」
「何が?」
「あなたがたまに真剣な顔で、本当の事を言ってるように聞こえたのは」
彼女はそう言って嬉しそうに笑った。
これからは彼女には本当の気持ちを言おう。
彼女に嘘はつかないようにしよう。
彼女にはすぐにバレそうだから。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。感謝です。
次の話は、泣かないと決めた幼馴染みの彼女を、泣かせないようにする主人公の物語。
彼女は本当に泣きたい時も我慢をする。
だから彼は、彼女の大事な日に彼女が泣いていても、涙を拭って泣いていない事にしている。
彼女はそれを知らないと思っていた。




