【三十五人目】 手に入れたいのは君なんだなんて言えなくて今日も俺は違うモノを彼女に貰うんだ
「はい、これあげるね」
誰もいない空き教室で昼休みに、俺と彼女は窓側の席に座っている。
俺にポイントシールをくれる彼女は、大きな目を俺に向け、髪の毛はちゃんとセットされ、毛先だけ緩いウェーブがかかった長い髪に、可愛い笑顔を見せる。
俺の好きな人。
でも彼女は知らない。
彼女には、ポイントシールを集める変な趣味の男子だと思われている。
もし俺が彼女の立場だったら、そう思う。
俺の特徴を言うと、顔も存在も目立たない普通の高校生だ。
そんな俺が、彼女と話す日がくるなんて思ってもいなかった。
彼女は皆から好かれ、可愛いと評判で!学校のアイドル的存在なんだ。
彼女が廊下を歩くと、誰もが振り向き彼女を見る。
彼女が話しかけると、誰もが嬉しそうに話をしている。
それは男子も女子も同じ反応だ。
まるで彼女は、魔法でも使っているのではと思うほど、嫌われることがない。
学校の生徒達みんなが、彼女を好きなんだ。
そんな彼女を俺が好きにならない訳がない。
美しい彼女。
綺麗な彼女。
完璧な彼女。
「いつもシールをありがとう」
「いいよ。あなたが集めていることを知っていて良かったわ」
「無理してないかな?」
「してないよ。このチョコレートは美味しいからね」
彼女は、シールが貼っていたチョコレートの包みを開けている。
彼女は毎日、一枚シールをくれる。
だから彼女は毎日チョコレートを食べる。
一口サイズの丸いチョコレートが五つ入っている。
「はい、これもあげるね」
彼女はそう言って、真っ黒い丸い塊のチョコレートを一つ俺に渡す。
このチョコレートはビターで少し苦い。
彼女はビターが嫌いでいつも俺にくれる。
「ありがとう」
俺は彼女からチョコレートを受け取り、口に入れる。
甘くてその後、苦味が口の中に広がるこのチョコレートを、俺は好きになった。
「あなたのお陰で、こんなに美味しいチョコレートが食べられて凄く嬉しいの」
彼女はそう言って、ピンク色の丸いチョコレートの塊を口に入れた。
ピンク色のチョコは、甘酸っぱい苺とホワイトチョコ味だと彼女は言っていた。
最初に一番好きな味を食べ、幸せそうに微笑む彼女。
彼女のこんな顔を見られるのは、俺だけなんだと思うと嬉しい。
しかし、彼女は俺の恋人ではない。
彼女は俺に、シールとビターチョコレートをくれるだけ。
◇
そんな彼女と出会ったのは入学式の日だった。
彼女は可愛いから教室に入った時に、クラス全員から注目を浴びていた。
彼女は恥ずかしいのか、少しうつむきながら俺の隣の、窓側の席に座った。
その彼女を見て俺は好きになった。
一目惚れだ。
彼女はクラスメイトの視線に気付いているのか、顔を全くあげない。
やはり誰でも見られるのは恥ずかしいだろう。
俺は彼女が可哀想になった。
彼女は逃げる場所がなくて、怯えているようだったから。
隣の席だから分かる。
彼女は小さく震えていた。
入学式の日から日にちが経っても、彼女への視線はなくならない。
彼女は小さく震え、ずっとうつむいている。
隣の席の俺にだって痛いほど分かる視線。
彼女にはもっと痛いんだと思う。
俺はある日、彼女があまりにも可哀想で!助けたくなった。
「ねえ、昼休みに、パソコン室の隣の空き教室においでよ。誰にも見られない落ち着く場所だよ?」
「えっ」
俺は彼女に聞こえるか分からないくらいの小さな声で、彼女を見ることはせず、彼女の後ろの窓の外の景色を見ながら言った。
そんな俺に彼女は驚いて見てきた。
「みんなにバレるから君は下を向いてて」
「あっうん」
彼女はすぐにうつむいた。
「来るならうなずいて」
俺がそう言うと彼女は小さくうなずいた。
◇◇
そして昼休みに、空き教室で俺は窓側の席に座り、窓の外を見ながら彼女を待った。
『ガラッ』
教室のドアが開いてすぐに閉まった。
俺はドアの方を見ると彼女が立っていた。
「おいで」
俺がそう言うと、彼女は恐る恐る俺に近づいてきた。
もう、それはまるで怯えている子犬のようだ。
「何もしないから安心してよ」
「あっごめんなさい」
彼女は謝った。
どうして謝る必要があるんだ?
「俺の前に座ってよ」
「うん」
彼女は俺に言われるまま前の席に座る。
「後ろを向いてくれないと話せないじゃん」
「あっそうだね」
彼女は焦りながら後ろを振り向く。
彼女の一つ一つの行動が面白い。
「ふっ、ハハハ」
「えっ」
俺は笑ってしまった。
そんな俺を彼女は不思議そうに見ていた。
「ごめん。君の綺麗な顔からは想像できないほどの焦りっぷりが面白くて」
「そんなに笑わなくても、、、」
「君が可愛いからだよ」
「私は私のことを可愛いって言う人は、信用しないようにしているんだからね」
「それは君の見た目を可愛いって言う人でしょう?」
「えっ」
「俺は君の焦る所が可愛いって思ったんだよ?」
「あなたって変な人ね」
彼女はクスクス笑いながら言った。
「俺が変な人だから君を檻から出したんだよ?」
「檻?」
「君は動物園にいる動物達みたいに、人に観賞されていたんだよ」
「観賞。そんな表現をするなんて、やっぱりあなたは変な人ね」
「何回、変な人って言うんだよ」
「変な人だけど、あなたはそれでいいの。そのままでいて。そして私を観賞から守ってよ」
「うん。守るよ。だからいつでもこの教室においでよ」
「うん」
彼女は眩しい笑顔を俺に見せてくれた。
俺は眩しくて少し目を細めた。
俺だけは彼女を観賞の目で見ないと決めた。
「そうだ。君にこれをあげるよ」
俺はそう言ってチョコレートを彼女に渡す。
「これって最近発売された、美味しいチョコレートだぁ。丸いチョコレートが五つ入っていて、全部の味が違うんだよね?」
「そうだよ。でも俺は、このシールだけ集めているからチョコレートは君にあげるよ」
「本当? いいの?」
彼女は嬉しそうに、目をキラキラさせてチョコレートを見ている。
そしてその日から彼女は、毎日チョコレートを買って来て、ポイントシールを俺にくれるんだ。
ポイントシールは俺が集めている訳ではなく、俺の妹が集めているから、妹にあげている。
◇◇◇
「はい、これあげるね」
彼女はいつものようにポイントシールをくれる。
「あっ、待ってよ」
彼女は俺に渡す前に、ポイントシールを穴が開くくらい見ていた。
「何? どうしたの?」
「そのポイントシールは昨日までだよ」
「何が?」
「応募締切だよ」
「本当?」
「もう、このチョコレートも食べられなくなっちゃうのね?」
彼女は落ち込みながら言った
「何で?」
「だってポイントシールも集める必要ないし、あなたはチョコレートなんて食べたくなかったでしょう?」
「シールはいらないけどチョコレートは食べてもいいよ?」
「本当? でも、あなたってチョコレート嫌いでしょう? だから最初、私にくれたんでしょう?」
「君がくれるビターチョコレートは好きになったよ」
「やっぱり嫌いだったのね」
「好きになったんだからいいと思うよ?」
「そうね」
彼女は嬉しそうに笑っていたが、すぐに真剣な顔になる。
「どうしたの?」
「それならポイントシールは何に使ったの?」
「えっ」
ポイントシールの使い道を妹には聞いていない。
どうしよう。
何て答えればいいんだ?
正直に話すか?
「言えないよね」
「えっ」
彼女は俺を心配そうに見る。
「私は知ってるのよ。人気アイドルグループの写真が手に入るんでしょう?」
「えっ」
「あなたが、どうしてシールを集めてるのか気になって調べたの。あなたが一度も、シールを集める理由を教えてくれなかったのは、その女の子のアイドルが本当に好きだからでしょう?」
彼女は悲しそうな顔で言った。
どうしてそんな顔をするの?
アイドルが好きな人を、彼女は嫌いなのだろうか?
「俺はアイドルは好きじゃないよ」
「えっそれならどうして?」
「妹の為に集めてたんだ」
「そうなの? それなら私は、あなたの妹さんの役に立ててたのかしら?」
「そういえば前に、お兄ちゃんのお陰って言って、嬉しそうにソファの上で飛び跳ねていたことがあったな」
「良かった。役に立ててたみたいね」
彼女はそう言って嬉しそうに笑った。
さっきは悲しそうだったのに、今はどうしてそんなに嬉しそうに笑っているんだろう?
「君の表情はコロコロ変わるね」
「えっ」
「次は驚いてるよ」
「それはあなたが驚くことを言うからよ」
「だって君の色んな表情が可愛くて」
「嬉しい」
彼女はそう言って笑った。
彼女は顔を可愛いと言われたら信じないはずなのに、どうして嬉しそうに笑うんだろう?
「どうして信じるの?」
「えっ」
「俺は君の顔が可愛いって言ったんだよ?」
「うん。知ってるよ」
「それだったら君は信じないんじゃないの?」
「あなただからよ」
「俺? あっ、そうか、俺が嘘なんてつかないって分かっているからだね?」
「違うよ」
彼女は下を向いてそう言った。
どうして下を見るの?
まるで最初に出会った日の彼女と同じだ。
でも彼女は震えてなんかいない。
「どうして下を見るの? 俺は君を観賞なんてしていないよ?」
「分かってるよ。私が下を見るのは恥ずかしいからよ」
「だから、俺は君を観賞なんて、、、」
「ねぇ、私の話を聞いて」
彼女は俺が話している途中に、顔を上げて俺を見て言った。
彼女の顔は真っ赤だった。
俺は彼女の迫力に驚いて、ただうなずいた。
「私はあなたの為、毎日チョコレートを買って食べていたのよ? それが何故だかあなたは分かる?」
「チョコレートが食べたいからって、君はいつも言ってたじゃん」
「本当は違うの。本当は、あなたの喜ぶ顔が見たかったからよ」
「俺?」
「あなたの喜ぶ顔を見ることが私の日課になったのよ」
「日課?」
「あなたの喜ぶ顔を見なかったら、一日が観賞されるだけのつまらない日になるの」
「そんなに俺の喜ぶ顔っていい訳?」
「そうだよ。あなたの喜ぶ顔は、私の心を温めてくれて、私を動物じゃなくて人間なんだって教えてくれるもの」
観賞されるなら、自分を動物だと思って、一日が終わるのを待っていた彼女。
そんなに嫌だったんだね。
「俺は、ポイントシールもチョコレートもいらなかったよ?」
「えっ、でも妹さんは必要だったでしょう?」
「そういう意味じゃないよ」
「それなら何?」
「君が言ってくれれば、俺は君にどんな顔も見せてあげられるよ」
「えっ」
「嬉しい顔も、怒った顔も、悔しい顔も、笑った顔も、そして君のことが好きで仕方ない顔も」
「えっ」
彼女は目を見開いて驚いていた。
「俺も君の色んな顔を見て心が温かくなるんだ。そしてもっと君を好きになるんだ」
「私もよ」
彼女は俺に笑顔を見せてくれた。
俺はそんな彼女を抱き締めていた。
体が勝手にそうしていた。
「好きだよ。君のその可愛い笑顔も、何もかも全てが」
「それは観賞対象として好きなの?」
彼女を抱き締めているから、彼女の顔は見えないけれど、声で彼女が不安そうに言っているのは分かった。
「俺は君を一度も観賞として見たことはないよ。君は最初から、光輝く可愛い俺の好きな女の子だよ」
「光輝くの?」
「そう。君は俺には眩しくて手の届かない光なんだよ」
俺がそう言うと、彼女は俺の片手を持ち、彼女の頬に当てた。
「手の届く光でしょう?」
彼女はそう言って眩しい笑顔を見せた。
俺は目を細め彼女に向かって笑って見せた。
「その顔が毎日見たいの」
「いいよ。毎日でも、いつでも見せてあげる。だって君は俺の恋人なんだからね」
「うん」
彼女はうなずいて俺を抱き締めた。
だから俺も彼女を抱き締めた。
俺の手に入れたいモノは、ポイントシールでもなくてチョコレートでもない。
それは学校一の美少女で、俺だけに可愛い笑顔を見せてくれる大切な彼女。
大事な恋人だ。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。感謝です。
次のお話は、ずっと友達で、モデルのように可愛い彼女を好きな主人公の物語です。
彼女は主人公の可愛い弟が大好きで、ぬいぐるみのように可愛がっていた。
そんなある日、彼女は弟が好きだと言った。
そんな彼女を弟にとられたくなくて、主人公は彼女に想いを届ける。




