【三十人目】 世界の端で俺と君は婚約破棄の為に逃げるんだ
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俺には勝手に婚約者ができていた。
それを知ったのは、俺が夜中に両親の会話を盗み聞きした時だ。
「あの子には悪いけど、会社の為に結婚してもらわなきゃね」
「そうだな。あいつなら分かってくれるさ。妹達の為ならな」
「そうね。あの子は妹想いの優しい子だからね」
両親がこそこそと、リビングで話をしていた。
「それってどういうこと?」
「えっ聞いていたの?」
俺が両親の前にいきなり姿を現したから、母は焦って言った。
「俺が結婚しなかったら妹達がどうなる訳?」
「それは、、」
母は言うのを躊躇っている。
「それは俺が話す」
そして父親は俺に話をしてくれた。
自営業をしている両親は、会社を守る為に、大きな会社と共同開発をすることになった。
その契約金が莫大だった為、俺を差し出したのだ。
自分の子供を差し出す親っているのか?
しかも、それが自分の親だとは思わなかった。
すると相手側も娘を差し出すと言い出したのだ。
二つの会社の子供が結婚することによって、開発も良い流れに乗ると思ったみたいだ。
そして次が一番大事な話だ。
俺が結婚を嫌がれば、妹達に結婚の話がいくみたいだ。
俺の妹達は双子でまだ中学生だ。
双子のどちらかが結婚させられる。
そんなことを俺がさせる訳がない。
それを親も分かっている。
「分かった」
俺はそう言って自分の部屋へ戻った。
俺が我慢をすれば妹達は幸せに暮らせるんだ。
俺が妹達を守る。
仕方ない。
俺は長男だ。
◇
「俺、婚約者ができた」
俺は友達に学校に着くとすぐに報告をした。
「えっ」
「だから婚約者ができたんだって」
「はあ? いつの間に女を作ってたんだよ?」
「自分で決めたんじゃなくて、勝手に婚約者ができたんだよ」
「勝手に?」
「そう。親が勝手に決めたんだよ」
「何だよそれ? お前はそれで良いのか?」
「妹を守る為だからな」
「妹がいなかったらどうしたんだよ?」
「妹がいなかったら、、、そんなの言わないよ」
「言えよ」
友達はイラッとしたのか、強い口調で言った。
「妹はいるんだから、いなかったらなんて考える訳ないだろう?」
「俺がお前だったら逃げる」
「出来る訳がない」
「分かってるよ。お前が妹ちゃん達を大事に思ってるのは知っているからな」
「それなら聞くなよな」
「だってお前が可哀想なんだよ」
「俺が可哀想?」
「お前って自分の為に生きてるのか?」
「えっ」
友達の問いかけに何も答えられない。
だって俺は、自分の為に生きている実感が全くなかったが、それを可哀想なんて思われたくないから。
俺は兄貴だから、男だから、長男だからと思って全てを我慢してきた。
それがこれからもずっと続くんだ。
だから、俺の人生を可哀想なんて思われたくない。
放課後になり、家へ帰る為に電車に乗った。
いつも降りる駅で降りなかった。
そしてそのまま終点まで来てしまった。
俺以外に電車に乗っている人はいなかった。
俺は電車を降りた。
見たことのない景色。
知らない駅。
すると駅のベンチに座っている、女子高生を見つけた。
何で女子高生が?
女子高生も俺を見つけていた。
女子高生も何で男子高生が? なんて思っているんだろう。
俺は彼女に引き付けられるように近づいた。
「こんにちは」
「こんにちは」
彼女は作り笑いで俺に挨拶を返してくれた。
何かあったのだろう。
本当は笑いたくないのに、俺が彼女を無理矢理に笑わせてしまった。
「それじゃあ俺はこれで」
俺は彼女を一人にさせてあげる為に離れようとした。
「どうして?」
彼女は悲しそうな顔で言った。
「何が?」
「どうしてこの終点に来たの? 私達以外には降りないこの駅に?」
「それは何故かここまで来ていたって感じかな?」
「私はね、この終点が私にとっては世界の端だからよ」
「世界の端?」
そんなことは聞いたことがない。
言うなら、この駅があるのは町の真ん中では?
「だって、電車の終点でしょう? 電車は色んな世界に連れて行ってくれる。だから世界の端になるのよ」
「君は世界の端にどうして来たの?」
「えっ」
「あっ、言いたくないなら言わなくていいよ」
「逃げたかったの」
「逃げる?」
「うん。私の運命から逃げたかったの」
彼女は俺と同じだった。
俺も逃げたかったんだ。
俺の運命から。
「俺も」
「えっ」
「本当は逃げたいんだ。でもできない。俺は無力で自分で選択さえできないんだ」
「一緒に逃げる?」
彼女は真剣な表情で立っている俺を見上げた。
「運命から逃げたくても逃げられないんだよ」
「あなたはどうしたいの?」
「えっ」
「本当のあなたは私と逃げたいと思うの?」
「……」
何も言えない。
俺は決められないんだ。
妹を守りたいのに、逃げたいっていう気持ちもあるから。
「行こうか?」
彼女はそう言って立ち上がり、俺の手を取る。
「行くって?」
「違う世界へ」
「えっ」
そして彼女は俺の手を引っ張り駅を出る。
全然、知らない場所。
人なんていない。
少し、怖くなった。
「何か静かすぎて怖い所ね」
「うん」
俺達は手を繋いだまま歩く。
木しか見えない。
だだ山道がずっと続く。
「世界の端は何もない所なのかな?」
彼女は前を向いたまま話す。
彼女はどんな想いで歩いているんだろう?
彼女がいると思うと、少しだけ恐怖が薄れた。
「どうなんだろう?」
「ずっと歩いてるのに建物もないわね?」
「うん」
「もしかして帰りたくなったの?」
「君がいるからそんなことは思わないよ」
「何それ? 私がいなかったら帰っているの?」
「そもそもここを歩いていないよ」
「そうね。私があなたを連れてきたんだもんね」
彼女はクスクスと笑って言った。
彼女の笑顔は可愛い。
こんな可愛い彼女はどんな運命から逃げたいのだろう?
彼女を救ってあげたくなった。
でも俺には何もできない。
自分さえも救えないのに。
「ねぇ、この怖い道も終わりだね」
「えっ」
「ほらっ、前方は草木がなくなってるわ」
「本当だ。何か広場みたいだね」
そして俺達は心を踊らせ進む。
ずっと同じ景色だったから、景色が変わることが楽しみで仕方ない。
「えっ」
彼女が先に広場へと出た。
そして驚いている。
俺も彼女に追い付き驚いた。
「綺麗」
「そうだね」
俺達の目の前には、夕日をキラキラと反射させ光っている湖があった。
それを見ながら、彼女が目を奪われながら言った後、俺も目を離せなくなりながら言った。
「たまには逃げることも大切ね」
彼女は湖を見ながら言った。
「そうだね」
しかし、俺は初めて逃げだしたのかもしれない。
ずっと頑張らなければ、我慢しなければって思っていた。
「分かった? あなたは頑張り過ぎなの」
「うん。分かったよ。でも君は?」
「私? 私は逃げ過ぎたの」
「俺と逆?」
「そうね。だからあなたと私は引き付けられたのかな?」
「磁石と同じだな」
「そうね」
そして彼女は俺を見つめた。
俺も彼女を見つめる。
彼女の顔は夕日に照らされて赤いけど、夕日のせいだけじゃない。
それが何故かって?
だって彼女は、見すぎと言って顔を隠すように、俺の胸に顔を埋めたから。
それから彼女と手を繋いで、来た道を戻る。
電車が来るのをベンチで手を繋いだまま待つ。
また会いたい、なんて言いたくなりそうで、彼女とは会話はしなかった。
彼女も同じなんだと思う。
だっていつまでも俺の手を握り締めていたから。
「電車が来たよ。乗ろうか?」
「私は乗らないよ」
「どうして?」
「あなたとはここで別れるよ。一緒に電車に乗ったら、離れたくなくなるからね」
彼女は今にも泣きそうな顔で言った。
「そっか。それなら君が先に電車に乗ってよ」
「どうして?」
「君がちゃんと帰る所を確かめたいからだよ」
「そうね。分かったわ」
そして彼女は電車に乗る。
俺は電車の外。
彼女は電車の中。
それでも手は繋いだまま。
扉が閉まる合図が鳴る。
彼女とはこれで最後。
本当は彼女を引っ張って、電車に乗せないよにすることもできる。
でも彼女には彼女の運命があって、彼女は今までの自分を変えようとしているんだ。
そんな彼女を困らせる訳にはいかない。
だからギリギリまで彼女と手を繋いでいたい。
さよならなんて言わないよ。
「ありがとう」
「私もありがとう。磁石の私達ならまた会えるよ」
「うん。その日までまたな」
「うん。またね」
彼女は笑顔を見せてくれた。
本当は寂しくて泣きたいのに、無理して笑っている。
俺は最初から最後まで、彼女を無理矢理に笑わせてしまっているんだな。
次に会った時は彼女の自然な笑顔が見たい。
彼女に会う楽しみができたみたいだ。
電車の扉は閉まる。
彼女の目から我慢していた涙が流れる。
やっぱり泣いた。
俺は彼女の泣いてる姿を見て笑ってしまった。
彼女はそんな俺を見て驚いて涙が止まる。
俺はそんな彼女に、口パクで止まったねって言って彼女の目を指差す。
すると彼女は笑顔を見せた。
無理矢理に笑っていない。
自然な笑顔だ。
俺の楽しみがなくなった。
それなら次は、彼女のどんな顔を楽しみにしようかなあ?
◇◇
彼女と別れて一ヶ月が過ぎた。
今日は婚約者に会うことになっている。
婚約者の話はなくなることはない。
それなら俺は、相手の女の子に正直に伝えようと思ったんだ。
俺には大切な人がいるんだって。
婚約者との待ち合わせは、婚約者の父親の会社の会議室だ。
扉の前で深呼吸をする。
『コンコン』
「はい。どうぞ」
婚約者の声がして俺は部屋へ入る。
そして部屋に入ってすぐに、相手の顔なんて見ることなく頭を下げた。
「すみません。あなたから婚約はなかったことにしてもらえませんか?」
「えっ婚約破棄でいいの?」
俺はその言葉を聞いて頭を上げる。
「えっ」
「婚約破棄でいいの?」
婚約者は、クスクスと笑いながら言っている。
笑われているのに、俺は何で笑うんだよなんて思って怒ったりはしない。
だって婚約者は彼女だったから。
あの日、一緒に逃げてくれた彼女だから。
「何で?」
「私達はこういう運命なのよ」
「えっ君は知ってたの?」
「今、知ったよ」
「やっぱり俺達って磁石だったんだね?」
「私達はくっつく運命よ」
彼女はクスクスと笑った。
「俺は婚約破棄なんてしないからね」
「私もよ」
「何かラッキーな展開だな?」
「そうね。ハッピーエンドね」
彼女は嬉しそうに笑った。
この顔を見るのを楽しみにしていたんだ。
彼女の幸せそうな顔を。
俺はそんな彼女を抱き締めた。
彼女も抱き締めてくれた。
俺達は磁石。
絶対に離れない。
そういう運命なんだ。
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
次のお話は、いつも泣く可愛くて、ほっとけない部下と、ある契約をする主人公の彼。
彼女は泣くと主人公の彼に抱き締められるまで泣き止まない。
こんな二人は恋人でもなんでもない。
ただの部下と上司。




