【十七人目】 ありがとうが言えない美少女が最初にありがとうと言った相手は俺だった
俺のクラスには可愛いくて、大人しい控え目な美少女がいる。
いつも自分の席で本を読んでいる。
だから俺の友達はもったいないと言う。
顔を上げて笑顔で話せば、もっと可愛いはずだと言う。
しかし、俺は今のままでいいと思う。
彼女が目立ってしまえばライバルが増える。
そう。
俺は彼女が好きなんだ。
誰にもとられたくない。
◇
ある日、俺が彼女の席の横を通った時。
彼女が消しゴムを落として、俺の足元に転がってきた。
俺はそれを拾い彼女に渡した。
「ごめんね」
彼女はありがとうと言わず、ごめんねと言った。
「あっ、いいよ」
「迷惑かけちゃったね」
迷惑?
消しゴムを拾うことが迷惑なんて、誰が思うんだろう?
今回、彼女はそんな風に思ったのだろう。
俺はそのまま自分の席に戻った。
◇◇
そしてまたある日、俺が彼女にプリントを渡した時。
「先生が君にって。今週中に提出してくれればいいって言ってたよ?」
「本当? ごめんね」
ん?
また、ごめんねって言った?
そこは、ありがとうじゃないのかな?
「先生に取りに来てって言われていたのに、忘れてたのよ」
「あっそうなんだね」
忘れてたからごめんねだったんだ。
それならごめんねでいいよな?
◇◇◇
そしてまたまたある日、俺は彼女の隣の席になり、彼女が教科書を忘れて俺と一緒に見ていた時。
「教科書を忘れてごめんね」
「それはいいよ。誰だって忘れることはあるよ」
「そう? 迷惑じゃない?」
「そんなことはないよ。困っている人を助けるのは、当たり前だよ」
「本当にごめんね」
彼女は申し訳なさそうに言った。
どうしてそんなに謝るの?
君は悪いことなんてしていないのに。
◇◇◇◇
ある日の放課後、彼女と日直の仕事をしていた。
先生から頼まれた仕事が多かった。
「ごめんね。後は私がするからあなたは帰っていいよ」
彼女は日直の仕事を一人でしようとしている。
「俺も君と同じ日直だよ? どうして君が謝るの?」
「えっ、だって、あなたは面倒でしょう?」
「それは、本音を言うと面倒だけど、君と二人ですれば早く終わるから君も早く帰れるじゃん」
「私は早く帰らなくてもいいよ。あなたの迷惑にならなければそれでいいの」
「ねえ、どうして他人を優先するの?」
「えっ」
「君っていつも謝ってるよね?」
「それは迷惑をかけてるからで。私は誰にも迷惑をかけたくないの」
彼女は案外、頑固者なのかもしれない。
でも彼女にはちゃんと知ってほしい。
「迷惑をかけたくないのは分かるけど、やっぱり誰かの助けがないと、どうにもならない時ってあるよね?」
「うん。だからその時は謝るの」
「それが君の間違いなんだよ」
「えっ」
彼女は驚いて言った。
自分は間違っていないと思っていたのだろう。
「迷惑をかけたらごめんねじゃなくて、まずはありがとうだよ」
「そうなの?」
「ごめんねって言われるより、ありがとうって笑顔で言われた方が嬉しいでしょう?」
「そんなの言われたことないから分からないわ」
「えっ、ありがとうって言われたことがないの?」
「うん。いつも一人だから」
彼女は苦笑いをして言った。
「だから君はありがとうを言わないんだね?」
「どんな時にありがとうを使うの?」
「それならまずは俺と友達になろうよ」
「えっ、私でいいの?」
「君だから友達になりたいんだよ」
「嬉しい。あなたと友達になりたいよ」
「俺と友達になってくれてありがとう」
「えっ」
「ありがとう」
俺は彼女に笑って言った。
そんな俺を見て彼女は嬉しそうに笑った。
◇◇◇◇◇
それから俺は彼女にありがとうの使い方を教えた。
「君の読んでいる本は面白いの?」
「うん。最近、流行っている異世界の話なの」
「今度、貸してよ」
「あっ、これを貸すよ」
彼女は今、読んでいる本を俺に渡した。
「途中じゃないの?」
「何度も読んでいるからいいよ」
「そう。なら借りるよ。ありがとう」
「本を借りる時にも言うのね?」
「そうだよ」
彼女は俺にありがとうを言われて嬉しそうに微笑んでいる。
そして俺は本を読み終わって彼女に本を返した。
「面白かったよ。ありがとう」
「本を返す時にも言うのね?」
「そうだよ。そしてこんな面白い本を教えてくれてありがとう」
「えっ、本を教えただけでありがとうを言ってくれるの? ありがとうっていつでも使えるのね?」
「そう。だから君も使ってよ」
「私にはまだ難しいよ」
「君にはまだまだ使い方を、教えてあげなければいけないね」
「うん。宜しくお願いします」
彼女はそう言って頭を下げた。
それから俺はいろんな時に使うありがとうを彼女に教えた。
彼女は俺のありがとうを聞いて毎回、嬉しそうに笑った。
そしてそんな彼女はいつの間にか顔を上げて、俺に向かって笑うようになった。
そんな彼女を見て友達が、やっぱり彼女は可愛いと言っていた。
◇◇◇◇◇◇
そして事件が起きた。
「おい、聞いたか? 彼女に告白してる奴がいるってよ」
「えっ」
俺は友達から大事件を聞いた。
彼女が告白される?
ヤバイ。
彼女が奪われる。
そう思っていたら彼女が帰ってきて俺の隣の席に座る。
彼女はどこか、落ち込んでいるようだ。
「ねぇ、私ってヒドイ人なのかもしれないわ」
「えっ」
俺が彼女を見ると彼女は泣いていた。
「どうしたんだよ?」
「だって、、、」
俺は泣く彼女の手を引いて教室を出た。
誰もいない空き教室に入り、鍵をした。
「誰も入ってこないから泣いてもいいよ」
「あなたは本当に優しいわね。本当にごめんね」
「今はありがとうって言うんだよ?」
「うん。ありがとう」
彼女は初めて俺に向かって、ありがとうと言った。
泣きながら言われても俺は嬉しくない。
そんなありがとうを聞きたい訳じゃないのに。
「告白されたんだろう?」
「うん」
「なんて言ったの?」
「ごめんなさいって言ったよ」
「そっか。好きじゃないなら仕方ないよ」
「ありがとうって言いたかったのに言えなかったの」
「どうして?」
「本当は私を好きになってくれてありがとうって言おうとしたの。でも最初のありがとうは、あなたに言いたかったから、彼には言えなかったの。私って最低でしょう?」
彼女は涙目で俺を見つめた。
「最低じゃないよ。誰だって自分の思うように行動していいんだよ」
「だって私なんかが選んじゃダメでしょう?」
「君は私なんかなんて、言ったらダメだよ。君も、告白をした彼も、俺も、みんな同じ。みんな同じ価値なんだよ」
「みんな同じ、、、」
「そうだよ。君は、君が思うように行動すればいいんだよ」
「それなら私は言うよ」
「何を?」
「ありがとう」
彼女は笑顔で俺に言った。
その顔で聞きたかったんだ。
「俺は君のその言葉が聞きたかったんだ」
「私も言いたかったよ」
「ありがとう」
「私も色々助けてくれてありがとう」
彼女のありがとうを聞けて幸せだ。
あれ?
そうなると彼女には俺はもう必要ないのか?
もう、彼女に教えることはなくなったのか?
「もう一つあなたに言いたいことがあるの」
「何?」
「私に恋愛を教えてくれてありがとう」
「えっ」
「好きって気持ちを教えてくれてありがとう」
「好き?」
「私はあなたが好きよ」
「えっ、だって、君は友達で、、、」
「あなたの気持ちを教えてよ」
彼女は不安そうな顔で俺を見る。
彼女にはそんな顔は似合わない。
「俺も君が好きだよ」
彼女は嬉しそうに笑った。
彼女にはピッタリの笑顔だ。
◇◇◇◇◇◇◇
そして月日は流れた。
「私を好きになってくれてありがとう」
彼女が笑顔で俺に言った。
「俺を好きになってくれてありがとう」
俺も彼女に笑顔で言った。
「もう一つだけ言わせて」
「うん」
「私と結婚してくれてありがとう」
彼女は少し照れながら笑顔で言った。
俺はそんな彼女に言葉じゃなくて、キスでありがとうを伝えた。
その言葉は言うのも言われるのも嬉しいことに、俺達は気付いた。
すると、たくさん言いたくなった。
魔法の言葉。
『ありがとう』
読んでいただき誠に、ありがとうございます。
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次のお話は、婚約者の幼馴染みがいつも行くのを嫌がる場所へ、主人公の彼がつれていく物語です。
彼女は何故、その場所が嫌なのに行かなければならないのか。




