【十二人目】 幼馴染みの彼女が言った最後の言葉は簡単に言えそうで言えない言葉だった
「私はあなたが大嫌いだったよ」
俺が幼馴染みの彼女に言われた言葉。
小さい頃から一緒に遊んで仲が良いと思っていた。
それなのに小学校の卒業式の日に彼女にそう言われた。
彼女と話をしたのはそれが最後だった。
だから彼女に何故、俺のことが嫌いなのか聞くこともできなかった。
◇
俺は彼女に嫌われたまま大人になった。
あの日からもう、十年くらいは経った。
「ねぇ、明日は遊べる?」
「う~ん。明日は大学に行くからまた今度な」
俺に話しかけてきた子は俺の友達だ。
俺には何故か女の友達が多い。
今日は友達の女の子に映画に誘われて映画館へ来ていた。
友達の彼女とは映画館の前で別れた。
だってこの子と家まで一緒に帰ると、家の中まで入ってくるから面倒だ。
「だから私はあなたが嫌いなの」
嫌い?
俺はその言葉を聞いて声のする方を見る。
女の子の腕を掴んで離さない男がいた。
その男に女の子は、嫌いだとはっきり言ったんだ。
俺は昔の幼馴染みの彼女を思い出した。
俺の嫌な思い出だ。
「はあ? いきなりなんだよ?」
「私はあなたの彼女じゃないわよ」
「そうだけど、君はそれでいいんじゃないのかよ?」
「だからあなたが嫌いなの」
「ムカつく女だな。何度も嫌いって言うなよな」
「痛い」
男が彼女の腕を掴んでいる手に、力を入れているんだろう。
彼女は痛がっている。
「痛がってるじゃん」
俺は、彼女の男に掴まれていない方の腕を掴んで、男に言った。
彼女を助けたんだ。
「何だよ。お前には関係ないんだよ」
男はそう言って彼女の腕から手を離そうとせず、彼女はまだ痛がっている。
「彼女が痛がってるのが分からないなんて、嫌いって言われて当たり前だな」
「はあ?」
「女の子には優しくするのが男じゃん」
俺がそう言うと男の手の力が弱くなった。
その隙に、彼女の腕を引っ張り、彼女を俺の方へ引き寄せた。
「お前は他の女の子を探せ。この子は俺がもらう」
「そんな可愛くない女なんていらねぇよ」
男はそう言い捨てて俺達の前から消えた。
「可愛くない女って私のことよね?」
「そうだろうね」
「いつも可愛いって言ってたのに」
彼女はそう言って涙目になっていた。
そんな彼女が可哀想で俺は頭をポンポンと撫でた。
「泣くくらい好きなら、何で嫌いなんて言ったんだよ?」
「だって、彼は優しくて私に言えないのよ」
「何を言えないんだよ?」
「他に好きな人がいるってことをね」
「そんな優しいようには見えなかったけどな?」
「人って嫌いって言われ慣れてないから、言われると本性が現れたりするのよ」
「そういえば嫌いなんて、滅多に言われないかもな」
「人は嫌いな人にも好きって言うでしょう?」
「そうだね」
「彼も私に嫌いって言えなかったから、私が彼に言ってあげたの」
「君って変な子だね」
「そんな変な子を助けたあなたも変な人だよ」
「そうだな」
彼女はクスクス笑っていた。
もう泣いていないようだ。
俺は彼女の頭から手を離した。
「もう、大丈夫だね」
「えっ」
「さっきまで泣いていただろう?」
「泣いてないよ」
「君はもう少し素直になった方がいいよ」
「素直になってるから嫌いって言ってるのよ」
「それは素直じゃなくて、相手の為に言ってるんだろう?」
「私の為よ。私が傷つかない為に嫌いって言うのよ」
彼女は当たり前という顔で言った。
「そうなんだね。俺の幼馴染みもそうだったらいいのになあ」
「幼馴染み?」
「そう。俺も嫌いって言われたことがあるんだ」
「あなたはその時どう思ったの?」
「彼女の気持ちを初めて知ってショックだったよ」
「そうなんだね」
「でも君に出会って、君みたいな人もいると知ったら、何故か彼女の嫌いの意味も違うんだろうなって思えたよ」
「そうよ。嫌いの意味が違うのよ」
「えっ」
彼女の言葉に俺は驚く。
まるで彼女は、俺の幼馴染みの気持ちが分かるみたいだ。
「私はあなたが嫌いじゃないもの」
「それはありがとう」
「昔のあなたも今のあなたも私は好きよ」
「昔?」
「覚えていないの?」
「えっ」
「私はあなたが大嫌いだったよ」
彼女の一言で昔の俺の記憶がよみがえる。
「あの日、君に聞きたかったんだよ?」
「嫌いの理由でしょう?」
「そう」
「私は優しいあなたが嫌いだから言ったの」
「本気で嫌いだった訳?」
「違うよ。私だけに優しくしてほしかったの。でも私は引っ越すから、あなたに好きなんて言っても意味がないと思って、それなら嫌われようと思って言ったのよ」
「俺は本当に君に嫌われていたんだと思っていたよ」
「ごめんね」
「君の気持ちを知ることができて良かったよ」
「ねぇ、あの日をもう一度やり直したいの」
「いいよ。俺もやり直したいからね」
◇◇
俺達はあの日をやり直す為に、俺達が卒業した小学校へと向かった。
職員室へと行き、学校へ入る許可をもらった。
「懐かしいね」
「そうだな」
「あっ、ここに書いたの覚えてる?」
彼女は小走りに窓枠に近付いて言った。
「その窓枠に俺と君の名前を彫ったんだよな?」
「うん。ちゃんと残ってるよ」
「誰にも消されてないんだな」
彼女は、愛おしそうに彫られた名前を撫でている。
「ねぇ、この教室で先生のモノマネをしてたよね?」
彼女は、俺達が一年生の時に過ごしていた教室に入って言った。
「先生のモノマネをしていたら、先生がいきなり入ってきたのには驚いたよな?」
「そうよね。先生に、そんなに俺って変なのか? って言われた時には答えに困ったよね?」
「みんな苦笑いだったよな?」
「本当にあの頃は楽しかったね」
「うん」
彼女は本当に懐かしそうに校舎を隅々と見ていた。
そしてあの日のあの場所、渡り廊下に着く。
俺達は向き合った。
「私はあなたが、、、」
「待って」
俺は彼女の言葉を遮って言った。
「どうしたの? やり直すんでしょう?」
「そう。だから待って!」
「どういうことなの?」
「俺は君が好きだよ」
「えっ、どうして? 私が言う言葉だよ?」
「俺もやり直したいって言っただろう?」
「でも、私もやり直したかったのに」
彼女はガッカリした顔で言った。
「あの日は嫌いじゃなくて、俺が君に好きって言って、君も俺に好きって言うんだよ。それをやり直したかったんだろう?」
「でもあの日は、あなたは私のことを、好きなんて思っていなかったでしょう?」
彼女の顔はずっと悲しそうな顔だ。
「好きだったよ。だから君に嫌いって言われてショックだったんだよ」
「そうなの? ごめんね」
「許してほしいなら教えてよ。君の今の気持ちを」
「私はあの日も今も、あなたが好きよ」
「やっと素直に言えたかな?」
「うん。やっぱり素直が一番ね」
彼女はそう言って嬉しそうに笑った。
彼女がやっと笑ってくれた。
◇◇◇
「素直になるのが一番なら、もう一つだけ素直になってもいい?」
「いいよ。何?」
「女の子の友達は作らないでほしいわ」
「えっ」
「女の子は私だけでいいでしょう?」
「でも君は恋人で彼女達は友達だよ?」
「彼女達? そんなにたくさんいるの?」
「えっ」
彼女の呆れた顔に俺は、これからは浅い関係の友達じゃなくて、深い関係の友達を作ろうと思った。
そう、親友を作ろうと思う。
「あなたは優しいから女の子が勘違いしちゃうの。だから女の子の友達とは仲良くしてほしくないのよ」
「心配しないで。俺は君にだけ優しくするからね」
「浮気は許さないんだからね」
「しないよ。俺は君だけだよ」
「浮気をしたら大嫌いだからね」
「もう、君に嫌いなんて言わせないよ」
「私も言いたくないよ」
「言いたい言葉は」
「大好きよ」
「大好きだよ」
彼女と俺は声を揃えて好きだと言った。
あの日の最後の言葉は、大嫌いから大好きへと変わった。
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次のお話は、好きな人に片想いをしていたが告白をしてフラれる彼の物語です。
そんな主人公と同じで、失恋した妹の友達と出会い、彼女を慰めていると、失恋なんて忘れていた。




