147話 万龍街 ~ワンロンタウン~(1)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
「待ってくれ。金は何とか用意する」
「困ったことをいう。ここは欲望と金と暴力の街」
「お前も敗者の末路は知っているな」
そういうと黒服の男達はカジノのかけ金を払えず逃げようとした男を取り囲みヴァルハラへと送った。
魔法攻撃と凄惨な暴力が一人の男に集中して行わる。そんな残虐で残忍な光景を見ても誰も気にする者はいない。
この街にとってその光景は日常茶飯事であり生活の一部の光景。
ある者は酒に、ある者は金に、ある者は欲望に溺れる街。
ここはあらゆる国家権力が及ばぬ地上の桃源郷、万龍街。
ロランは今、バレンティナを連れ赤狼王とその連れである麗月仙と共に街のシンボルとなっているカジノへと向かっていた。
「噂には聞いていたが熱気に満ちた街だな」
ロランはプロストライン帝国軍の侵攻を退けその代償としてプロストライン帝国の40%の国土を自らの領地とし、プロストライン帝国と国境を接しないようゴルダート大高原や東夏殷帝国と同種族が生活する20万平方kmの土地を割譲していた。
その割譲した土地の中にあらゆる国家権力に属さない万龍街が含まれていたのだ。
「本当に穢れた卑しい街です。こんな所に主様を呼びつけるとは常識はないのですか」
バレンティナは男の欲望を満たす場所がそこかしこにあり、路上でキスが行われ、酒に酔いながらバカ騒ぎする者や金にものをいわせ女をはべらかす者達で溢れた、この街が無性に気にくわなかった。
バレンティナはロランとワーグが鍛えアルジュが魔力を注いだ赤黒いミリ二ウム製の新たな大鋏である『鳴雉切丸』を空間から取り出し周囲の者の首を狩ろうとする。
ロランはバレンティナの行動を察しスッとバレンティナを引き寄せた。
「バレンティナ。僕は君が悪と感じた者を僕の名においてヴァルハラに送る事を許可している」
「だけどここは我慢してくれるかな」
ロランに引き寄せられたバレンティナは恥ずかしさに俯き軽く頷いた。
「私は好きですよこの街。この街は生きることを謳歌する者で満ちています」
「それが美しいか下劣かに何の価値があるのでしょう」
「命の輝きは人それぞれなのですから」
赤狼王が連れてきた黒髪を金の髪飾りで飾り古代中国の漢服を思わせる服を纏った麗月仙は華美な鉄扇を広げるとバレンティナを牽制する。
ロランは表向きは東夏殷帝国が欲するゴルダート大高原を譲渡したものの東夏殷帝国とプロストライン帝国が国境を接する状態としたことに後ろめたさを感じていたため、赤狼王からの依頼を2つ返事で了承していた。
ロランは『声なき声』(ラウトロスシュテイン)を使用し赤狼王の頭に直接話しかける。
""あなたが選抜した東夏殷帝国の猛者200名の部隊が殲滅されたというのは本当の話ですか""
赤狼王はどうすればよいか迷っているとロランは考えを読み取るから話したいことを考えるようダイレクトに脳内に伝えた。
""その通りだ。部隊の後方で情報取集を行っていた者が突撃した者は魔法攻撃とは思えない目に見えない攻撃により次々と倒れていったと報告している""
『メッサッリアは核兵器を開発し、この万龍街は生物兵器もしくは化学兵器を開発したということか』
『ここは魔法世界なんだ』
『この世界にとって転生者は世界の秩序を乱し破滅に導く者ということか』
ロランは考えをまとめ終えると赤狼王との話を続けた。
""この街を支配する奴を見つけ出し東夏殷帝国に隷属させればよいのだな""
""交渉が決裂した場合はヴァルハラに送り、この街を含み一帯を安定化させるよ""
ロランはこの世界の諜報部隊として最高の部隊となったRedSilentSpecterの諜報員が諜報活動を失敗した唯一の街であり、生物・化学兵器を開発したこの街の統治者に対し何故か高揚感を覚えるのだった。