145話 要塞の領主 ~9,000㎞の国境~
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
『ここでの実験は世界が改変されたときに書き換わったようだ』
ロランは世界が書き換えられる前、カルキーズ達の襲撃があった際に人々を小型化し島ごと浮上させ非難出来るよう準備をしてきたエレボスに立っている。
懸念であった戦時賠償としてプロストライン帝国から摂取した土地を自らの領地とする事項は、1週間前にパルム公国の首都ハイネローレで行われた国際会議A5(エーファイブ)で賛成国多数で承認されており、次なる布石を打つためにエレボスを訪れていた。
ロランは再度エレボスを浮上させるための計画を行わなければならないと覚悟した矢先、突如後方にクロスが転移を使用し出現した。
「このような場所でいかがなされました」
「何でもない。ある痕跡が残っているかを確認していた」
ロランはクロスは完全観測者の能力を保持していないと考え話をはぐらかした。
「そうでしたか。私はここで再び人体実験を行う命令がだされるのかと思っておりました」
クロスの話を聞いたロランの顔がひきつる。
改変される前の世界でロランはカルキーズに対抗するため、魔人や黒曜の丸屋根内に軟禁状態としている特殊な能力を持つキマイラを集め、最強の生物を生み出す人体実験をここエレボスの地でクロスとアルジュに行わせていたからであった。
『クロスは改変される前の記憶を保持しているのか』
ロランは動揺を抑えながらクロスにある任務を任せる。
「改変される前の記憶があるのだねクロス」
「エレボスのを浮上させトニス湖に移動させそこに邸を構えたい」
「再度、魔力駆動のジェット推進装置を内密に設置してもらいたい」
クロスはロランの任務内容を聞き終わるとポーカーフェイスのまま驚くべき報告を行う。
「一部分でよければ、ロラン様が黄金郷の世界から帰還された直後から配下の者に魔力駆動のジェット推進装置を取り付けさせております」
「20分の1であれば浮上可能でございます」
ロランはクロスの底知れぬ先見性に背筋が凍る思いをしながら目の前の空間に巨大な繋門を出現させると浮上させたエレボスを通過させトニス湖の中央にエレボスを降下させた。
クロスはさらにロランを驚愕させる発言を行う。
「エレボスの形状は攻守に適した星型とし各星型の先端には2,048セルの垂直発射システムを装備しております」
「また、中央に邸を構え地下には中央戦闘指揮所を含め各種Laboも装備済みでありますす」
「なお、Knight Ravenの運用を可能とするため、滑走路および整備庫及び弾薬格納庫も装備しておりますので直ぐにでもご使用可能でございます」
ロランはた只々クロスの用意周到さと底知れぬ智謀に圧倒させるのだった。
数日後、ロランはエレボスの中央に位置する邸を『ロストタイム』と名付け地下の中央戦闘指揮所に皆を集め国境警備と都市の行政及び治安維持の体制についてのブリーフィングを始めた。
「皆、新たな領地はパルム公国、トロイト連邦共和国、フォルテア王国、西クリシュナ帝国、東夏殷帝国と国境を接し、全長は9,000㎞に達する」
「領民は370万人と膨大だ」
「領地の安全と治安を維持するため、早急に各都市や農村部における行政及び治安維持体制を整備しなくてはならない」
概要を説明し終わるとロランはクロスに税の種類や計算方法、戸籍の作成方法など詳細な行政業務を説明させた。
「行政体制についてはクロスが説明した通りだ。何かあればクロスに質問するように」
ロランは各都市や農村部の行政官としてグリーンアイズ部隊員を任命しスティオンに行政長官を兼務させるとともに引続き軍事組織として活動するよう特に決めていなかった部隊名をスティオンに告げた。
「スティオン率いる部隊名は今後RedSapiens(赤い賢者)とする」
次にロランは各都市の治安維持のため新たな非軍事組織を立ち上げることを皆に告げる。
「各都市や農村部における治安維持は領民に過度な圧力がかからず迅速な対応を可能とするため非軍事組織とする」
「組織名はリンデフォース警察『LFP(LindeForcePolice)』としアークに長官を兼務してもらう」
突然のことにアークが動揺したことを察したロランは大まかな業務の内容を説明する。
「リンデフォース警察の主な任務は衛兵をイメージしてほしい」
「窃盗、暴行などの犯罪かた領民を守り、馬車の暴走などの取締りや道案内、治安維持のための巡回など業務は多岐にわたる」
ロランから業務内容を聞いたアークは業務内容を理解できたため安心したところ承服し難い内容をロランから告げられた。
「なお、リンデフォース警察(LFP)の人員はRedMaceの部隊における3,000名を異動させることでまかなう」
「アーク。RedMaceの総勢は3,600名となるがいいかな」
「御意のままに」
ロランは肥大化していたRedMace部隊をスリム化させ、精鋭部隊化させる試みであった。
ロランはその後も皆が手放しで納得出来ない命令を出していく。
「次に国境警備についてだがツュマの部隊は既にエルドーラ山脈で国境警備の任務に就いているため、兼務は困難である」
「また、諜報に特化したトロイト連邦共和国と国境を接することから、諜報活動と戦闘に特化した部隊が必要となる」
「このためリンデフォース領の国境警備は非軍事組織であるが諜報活動と戦闘に特化した部隊として新たにリンデフォース特殊攻撃群、通称LFSAG(LindeForceSpecialAttackGroup)を創設することとした」
「隊員はリンデフォース軍の第999特殊工作部隊とした蜘蛛と蝙蝠より3,000名を異動させ、長官としてファビアン・シュナイダーを任命する」
いきなり名前を呼ばれたファビアンは非軍事部門と位置付けられているものの秘かに望んでいた司令官達と同等の立場となったことに喜びが溢れ出てしまう。
「イエッサー、ボス。大船に乗った気でいてください」
ロランはファビアンに対し一抹の不安を懸案を感じながらも、今回のメイン課題である9,000㎞の国境建設を長期休暇中で無理やりブリーフィングに参加させた人物に依頼する。
「国境建設の責任者としてエクロプス・デ・アークボルトを任命する」
「…」
エクロプスの態度からロランはエクロプスが非常に不満に感じていることを察知し、兎に角誠意をもって国境建設をエクロプスに頼むことにした。
「この任務はエクロプスにしか任せることができない」
「エクロプスが長期休暇中なのは知っているがどうしてもエクロプスに指揮をとってほしい」
エクロプスは考え込みながらundergrouderに部隊名を付けることとティタニアス率いる巨人族と商会連合から多くの職人達を協力させる要求をし、ロランが認めるなら承諾することを伝えた。
ロランはエクロプスの要求を全て受け入れ部隊名とともに工期を告げた。
「エクロプスが率いるundergrouderの部隊名は赤き大地の騎士RedTerraEquesとする」
「なお、工期は主要部分で3ヶ月、地元領民も雇い入れて1年としてほしい」
エクロプスは項垂れ、下を向きながら工期として1年5ヶ月を要求しロランは快諾することで決着した。
項垂れるエクロプスの周りに皆が集まり慰めている光景を背中で感じながらロランは中央戦闘指揮所を後にしロストタイムと名付けた邸の最上階の窓を開き領内を見渡した。
『大部分の領民から憎まれ、建設が困難な国境が9,000㎞もある』
『元はといえばプロストライン帝国がリンデンス帝国に侵攻してきたことに端を発している』
『僕は蛮族を返り討ちにしただけだ。僕を恨む前に夫や息子を従軍させたプロストライン帝国軍を止めるべきだったということを全く後悔していないとは』
ロランは前途な多難な予感がする領地運営を考え深い溜息を何度もするのであった。