144話 激流
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
「おばあちゃん、これからどうなるの」
「大丈夫だよ。大丈夫だからおばあちゃんのところにおいで」
戦時賠償としてロランが自分の領地と決めた各都市の住民は新たな領主による圧政を心配した。
プロストライン軍を掃討したロランは脳波通信で全軍に正装を行うよう指示するとティタニアスに配下10名の巨人を正装して顕現するよう命じ、白き巨象と白き大蛇を召喚する。
ロランは巨大な繋門を出現させると戦時賠償の領土で最大都市の「ロムタラム」に出現し、行軍の様子をオムに千里眼で監視させ、その映像を脳波通信で送信するよう命じた。
オムから脳波通信により行軍の映像が送信されるとロランは声なき声を使用し、その映像を領地の全都市の人々の脳に映し出した。
""私はロラン・デ・スタイナー・ツー・リンデフォース""
""リンデンス帝国の統合元帥であり我らの国家に進軍してきた蛮族を返り討ちにした者である""
""只今より、この地は戦時賠償として我が領地とする""
""従ってあなた方はこれよりリンデンス帝国民となってもらう""
""使用する言語はプロストライン語のままでいい""
""なお、リンデンス帝国民になりたくない者には一時金を渡す。ただしプロストライン帝国に行ってもらう””
人々はロランの一方的な宣言に激しく動揺する。
加えてロラン達の異様な行軍の様子が人々に恐怖を与えた。
正装の白き軍服を纏った青年が朱色の長刀を肩に担ぎ黄金の月桂樹を冠した巨人の左肩に乗り、巨人の右側には金色の装飾品で飾り付けられた白き巨象に乗った神話を思わせる黄金の鎧を纏った天使が輝く光の粒子を振り撒きながら同行する。
左側には白い大蛇に乗った赤黒い三叉の槍を担ぎ、赤黒い鎧を纏ったダークエルフが赤く輝く粒子を振り撒きながら魅惑の歌を歌い同行する。
上空には光り輝く数百体の白いドラゴンが飛行し、ロランの後方には白い布を纏い正装した20体の巨人が続き、さらに後方には白き魔導戦車と装甲車の列が続く。
その周囲はルミール配下の妖精達が発光し幻想的な雰囲気を醸し出すといったこの世のものとは思えない異常な行軍が写し出されたからであった。
人々は最早この者に抗うことが出来ないことを悟る。
人々の恐怖が最高潮に達したことを感じたロランは声なき声を使用し、人々の母国語であるプロストライン語で甘い誘惑を伝え選択を迫った。
""リンデンスの帝国民となることを選択した者はこれより1年間の租税を免除する""
""また初等・中等教育にかかる費用、孤児院ならびに老後施設の費用を無料とする""
""加えて1年後の租税はリンデンス帝国法に準じプロストラインの半分の額となる""
さらにロランは今回の戦争で家を失った者に対し仮設住居を無料で用意すること、働き手を失った家族や荒廃した田畑を回復させるための補償を支払うことなど、人々を手厚く処遇することを約束するのだった。
それより3週間後メッサッリア共和国の首都エクサリオスのとあるカフェにロランは出現するとアルベルトが待つテーブルへと向かった。
「アルベルト遅れてしまい済まない」
ロランはテーブルに着くとウェイターを呼びチャイとサンドイッチを頼むと領土を承認してもらうための条件をアルベルトに確認し始めようとしたところアルベルトが制止した。
「ちょっと待てここで重要な話をする気なのか。気づいていると思うがこの場には各国の諜報員がいる」
ロランは周囲を見渡した後、徐に話し始めた。
「確かあの一件いらいMRSIS(メッサッリア共和国 秘密情報部)は君が指揮する軍より指揮下に位置付けられたはず」
「それにここにはうちの諜報部員もいる。他の諜報員が本国に余計な話を出来るかな」
ロランの言葉を盗聴、監視していた各国の諜報員達は一瞬動揺した。
自分達がロランを盗聴、監視しているように自分達はRedSilentSpecterに監視され命を握られていると理解したからであった。
「冗談だよ。冗談」
「さて本題に入るけど、この条件で戦時賠償としたプロストライン帝国の領地を僕の領地として承認してもらえるかな」
そういうとロランはクリスタルのボードに「メッサッリア共和国によるホワイトヴィル湖北岸領域の侵攻と制圧を黙認する」事と「新たな領土で産出される天然ガスを1年間格安でメッサッリア共和国に販売する」と記載しテーブルに置いた。
アルベルトはテーブルに置かれたクリスタルのボードに目をやると条件を上げるよう要求する。
「あと数年、地下資源を格安で販売してくれるならメッサッリアは喜んで承認するのだがどうかな」
ロランはアルベルトの条件を受け入れたサインとして首を縦にふり、右手をテーブの上に出し握手を求めた。
アルベルトも右手を差し出し握手をし事前交渉が纏まった。
アルベルトはロランに国内状況を尋ねた。
「君の領地は本国の8倍の面積であるが皇帝陛下はそのことを御許しになったのか」
ロランは自分の身を案じてくれるアルベルトに笑みを見せながら答える。
「陛下と帝国議会はその日のうちに僕の領土とすることを承認している。安心してほしい」
すると今度はロランは友人としての立場を使用し困難な要求をアルベルトに伝えた。
「あくまで友人としての願いと思って聞いてほしい」
アルベルトは嫌な予感しかしないがロランの話を止めずに聞いた。
「既にここに来るまでに、東夏殷帝国の赤狼王に対して今回の領土に含まれていたゴルダート大高原と同種族が生活する20万平方kmの土地を割譲することを伝え、その他の土地は僕の領土とすることを内々に承諾してもらっている」
「だが、まだトロイトのアガルド最高評議会議長には承諾をいただけずにいる」
「どうすればよいかな」
最も難しい条件を友人として切り出すロランのしたたかさに唖然としながらもアルベルトは友人としてロランの相談に対応する。
「ロランよ、一番難しい条件を友人の立場で頼むのは今回だけにしてほしいものだ」
アルベルトはロランに濡れ衣を晴らしてもらった恩があることから、ロランの願いを快諾した。
「アガルド先生の件は私が責任を持って対応する」
「その代わり、人員輸送車50台とエンジンのメンテナンス技術をトロイトに提供してもらうことになるがいいかな」
ロランはクスリと笑い、笑顔で納得する。
『こんなことなら、もう少し条件を吊り上げとくべきだったな』
アルベルトは深い溜息をつきながら空を見あげるのだった。