141話 電光朝露(1)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランは皇帝であるラグナル・デ・リンデンスに対しリンデンス帝国における帝国議会副議長の職を辞することを願い出た。
皇帝であるラグナルはロランの願いを叶える代わりにロランに国軍の統合元帥になるように要求しロランは即時に承諾をした。
ここでロランの願いを断れば公爵の爵位させ捨て去ってしまうと感じたからであった。
ラグナルの脳裏には既にロランの要望によりジェルド・ヴィン・マクベスを国軍であるリンデフォース軍の元帥に就任させて全軍を統括させており、統合元帥の権限は元帥を統括するという最高権限であるものの実際は名誉職的な扱いになっておりロランに休息を与えつつも帝国から離れられないようにできるという考えがあった。
加えて将来的にロランを娘婿にするためにも、ここでロランの気分を害さないよう忖度した結果でもあった。
世界が改変する以前は皇帝であるラグナルはリンデンス帝国史上初となる皇帝の地位での離婚をしており子供はいなかったのだが、改変された世界では離婚はしておらず妻との間にベアトリーチェという一人娘を授かり慈しみ育て上げていた。
身軽になったロランはというとパルム公国の邸でポル爺ことポルトンと庭園の手入れをしたり、ラン爺ことランドとエランディア大陸とガリア大陸に眠る鉱脈などの地下資源地について語り合い、自分がやりたい事だけを勤しむようになっていた。
このロランの変貌は各国の諜報員達を大いに悩ませ、各国では陰謀論や何かの戦略ではないのかと見当違いな分析まで行われる始末であった。
さらにパルム公国におけるロランの邸にはルミールとアルジュが住み込むことにより、拍車がかかりロランは好色に走ったとの下世話な報告まで行われるようになる。
ロランはこの期間中、ルミールやバルトス、アルジュといった召喚した者達を新たにイベントホライゾンと命名し、『Red』を冠する私設軍とリンデンス帝国の国軍であるリンデフォースの上位組織と位置付ける組織改革を行っていた。
さらに非軍事部門であるFortuna機関は気象観測Laboと時空観測Laboを取り仕切るレイチェルと医療Laboを取り仕切るブリジットのみとした。
加えてオム率いる千里眼部隊ArgosにRedを冠しRedArgosとすることで軍事部門に移行させた。
これにより各国の情報は、レイチェルが管理する古代文明の偵察衛星、ルディスが率いる諜報部隊RedSilentSpecter、オム率いる千里眼部隊RedArgos、リンデフォース軍の第999特殊工作部隊とした蜘蛛と蝙蝠によって収集・分析され、軍事部門内での情報を多層化することで信頼性を確保し、部隊間の軋轢を減少させることで迅速にロランに報告される仕組みを確立したのだった。
しかもルミールが復帰したことで気象に関しては観測どころか操作さえ可能となり、ルミールと諜報機関だけでも世界を制圧できる戦力と成り得る。
そのためロランはリンデンス帝国と自分の守りたい者に対し攻撃がなければ率先して戦闘に参加しないという考えに至り、日々の暮らしはその考えを実践しているに過ぎなかった。
そんな矢先、勇者としての力を覚醒させた悠真・グレイチェスカがプロストライン帝国の将軍としてリンデンス帝国に向かって進軍してきたとの情報が各諜報機関からロランの脳波通信インプラントに送られてきた。
『勇者という者は厄介だ』
『魔王の力が強大な力になれば勇者の力も比例して強大となる』
『その強大な力が精神にまで影響を与え戦闘狂にしたてあげるのだからな』
ロランは脳波通信インプラントからジェルドにリンデフォース軍に第一級警戒態勢を取らせることを指示し、レイチェルに全方位型転送システムを使用しアークが選別した白兵戦部隊であるRedMaceを指定の緯度・経度に転送するよう指示した。
さらにスティオンにはKnight Ravenに搭乗し指定の緯度・経度に向かうよう指示するとともに、バークスにはプロストライン帝国の首都【テスタツァーリ】を含め主要都市にロンギヌスをロックするよう電光石火の如く指示を出した。
ロランはリンデンスのグリーンアイズであるダブロックにもこの世界における新たな大規模戦闘の形を認識させるため、リンデフォース軍の高速飛行船部隊を率いらせ戦闘準備を整えた50隻を指定場所に急行させるよう指示を出すのだった。
ロランは命令を出し終えると雷鳴朱雀を顕現させ繋門を開く。
臨戦態勢となったロランの隣には。いつの間にか神話を思わせる黄金の甲冑を着たルミールと赤黒い甲冑を身に纏いケルベロスに跨ったアルジュがいた。
「龍神様は私が御守りします」
ルミール・ウェヌス・アスタルティは白き翼を輝かせ、戦いの女神の如く佇む。
「ダーリンとの付き合いは私のほうが長いんだから」
「ダーリンは私が守ります」
ケルベロスに跨ったアルジュは瞳を赤く輝かせ三又の赤黒い槍を肩に担いで佇んでいる。
そんな二人を見たロランはどこか心が和んでしまいながらも、今回の戦いのありようを二人に告げた。
「二人には先に言っておくよ」
「今回警告しても進軍するようであれば僕は敵を徹底的に壊滅させるつもりだ。そう塵もないくらいに跡形もなく」
「再び進軍しようと思わせないために徹底的にだ」
ルミールとアルジュの瞳は1ミリも揺るがない。
ロランはルミールとアルジュを連れ繋門をくぐるのであった。