135話 フィンレー空軍基地攻略戦(3)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
「クレイジャス閣下、塹壕および榴弾砲の装備完了致しました」
「うむ、ご苦労。」
何を思ったのかクレイジャスはいつもは聞かない質問をした。
「貴官の名前を聞かせてくれるか」
「イエス、サー。エルナンデスであります」
中将であり司令官であるマイロ・クレイジャスはふと表情を和らげると偵察衛星と防空レーダーからの映像に視線を移し思いを巡らせた。
『レイラからの情報によれば、1週間後にこの基地内のセキュリティシステム、対空・対地攻撃・防衛システム、戦闘飛行艇や装甲砲撃車など電子回路を使用するあらゆる機器が全て使用不能となる』
『この基地は電磁パルス攻撃に対し最善の対策を施している。そんな事が本当に可能なのか』
『だがこれまでレイラからの情報に間違いはなかった。グレゾニックは誰にも渡さない。どんな手を使っても…』
クレイジャスの思い空しく、2週間前にロランが放った10万機の昆虫型スパイロボットはフィンレー空軍基地のあらゆる 電子機器、3本の滑走路上に待機している100機の戦闘飛行艇、弾薬庫に格納されている空対空、空対地、地対地ミサイル や装甲砲撃車の電子回路に忍び込み無効化していく。
一方、反体制組織クレアスカイラーのアジトでは静止軌道上にあるカークス共和国の偵察衛星とデータ通信衛星をエルガによりハッキングさせ情報を取得していたファビアンがレジスタンスに悟られぬよう脳波通信を使用しロランに攻撃の延期を進言していた。
「ボス。エルガちゃんからの送られた情報を解析すると敵は幾重にも塹壕を掘り、かなりの数の榴弾砲を装備しています」
「厄介な事に敵さんは、なりふり構わず通常弾頭に加え生物・化学弾頭まで用意している」
「最悪なのは敵さんがグレゾニックと呼ぶ『赤い薬と青い薬』が保管されている基地最下層の格納庫に多数の戦略核兵器を配備し始めた事です。」
ファビアンは表情には出さないが攻撃の延期を強く進言し続けた。
「ボス、明らかに我らの情報が敵さんに漏れています。」
「予定通りに攻撃を行えばクレアスカイラーは確実に全滅します。」
「それだけじゃすみません。魔法を使用できない我らも同様です。」
ロランはファビアンの進言を聞き終えると軽く頷き、ジョヴァンニ・コルネリウスがいる指令室へと向かった。
ロランはジョヴァンニに対し攻撃の延期を促したが結果は想像している通りであった。
「ロラン殿。それはできな話です。」
「今までフィンレー空軍基地は24時間、対空・対地の防衛システムが作動しており近づくことが出来なかった」
「それが1週間後には近づくことができる。頭では危険だと分かっていても心は抑えることができない」
ロランは苦渋に満ちたジョヴァンニの表情を見ているうち予期せず宿命通によりジョヴァンニの過去を見てしまった。
『愛する家族を全員奪われたのか。加えて教え子達を目の前で…』
ロランはそれ以上話を行わずその場を去るのであった。
一週間後。
決戦は非常に静かに始まった。
ジョヴァンニ・コルネリウス率いるクレアスカイラー部隊はロランからの基地無効化の合図を受け、基地から50㎞の地点まで3方向から移動すると榴弾砲を用いて、敵の塹壕や滑走路、滑走路奥にある空軍基地目掛けて攻撃を仕掛けた。
フィンレー空軍基地からは戦闘飛行艇が離陸する気配もなく、偵察衛星とGPS衛星が利用出来ないようで各種ミサイルの攻撃はなく、塹壕からの榴弾砲による砲撃が主たる攻撃であった。
ロランはクレアスカイラー部隊の被害を抑えるため無人島で収集した植物の種をテレキネシスで数キロに渡り散布すると冥界の王の力で植物を急速に成長させ絡ませると巨大化した植物による防護壁を創造した。
「これだこれ。やっぱりボスだ。魔法が使用できなくてもやることがド派手だ。」
ファビアンはそういうと携帯型地対地ミサイル「グリオン」を肩に担ぎエルガより送られた敵位置情報をインプットすると敵の塹壕に向かってミサイルを撃ち込んでいく。
『はぁ、まったくあの二人は。戦場では感情の起伏は抑えるべきだというのに判断ミスをしなければよいが…』
バークスは天耳通の能力を使用し風速・風向・空気密度・湿度や気温の誤差を補正すると敵榴弾砲との距離を正確に認識しオーガスからマッハ10の超音速ミサイルを敵榴弾砲に向けて射出し殲滅していった。
ロランは戦闘用大型バイクであるラファーガにまたがり号令をかける。
「アーク、スティオン。敵の攻撃が集中している西側の部隊を守りに行くぞ」
ロランはラファーガに乗り強力なテレキネシスで地面を引裂くことで簡易な塹壕を造りながら、岩をパイロキネシスで燃え上らせテレキネシスで敵に向かって射出していく。
「スティオン、我らもロラン様に続くぞ」
アークとスティオンも燃え盛る岩を敵榴弾砲に向け勢いよく放ち続けた。
ロラン達を見たクレアスカイラー部隊は活気を取り戻し少しづつ基地に向け進軍していった。
この快進撃があのような惨劇を生むとは、この時のロランは知る由もなかった。