132話 覚醒を司る時の魔女クロエ
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
「危ないところを助けて頂き感謝申し上げます…」
「私の名はレイラ・クロエ…」
「カークス共和国に抗う反体制組織クレアスカイラーで副指令をしております…」
ロラン達は荒野でレイラ達を救いだしてからレジスタンスの拠点がある地下施設に移動し、感謝の言葉と共に現時点における世界情勢を聞かされていた。
「つまり、各国政府は人口増加により緊急課題となった食料問題を解決するため、自国民の7割を小型化することを国際会議で決定し、小型化対象となった国民がレジスタンスになったと…」
「そして各国の正規軍とレジスタンスの戦闘は5年間続き、世界の人口は3割まで激減したにもかかわらず戦闘は終結する事なく…」
「最後の人を小型化する装置がある、ここカークスで最終決戦が行われているということですか…」
スティオンは自らが収集した情報とレイラの話を要約し確認を迫るとレイラは静かに頷くのだった。
ロランは脳波通信インプラントを使用しアークに発言を促した。
「レイラ殿、人を小型化する装置が保管されている軍事施設の戦闘ですが参戦することは可能でしょうか…」
レイラは勿論とばかりにロラン達の参戦を歓迎する。
『この世界のクロエは活動的だが思慮が浅いのだな…』
ロランは光学迷彩機能と熱源遮断機能を使用し地上で待機している人工知能「ロンド」を搭載したオーガスに脳波通信を行い、ある指令を出していた。
一方、ロラン不在のエアストテラでは世界を『収束から発散』に転換すべく一人の女性が活動を始めた。
大部分の時をリンデンスの新たなロランの居城内に新設された「予知の間」で過ごすアリーチェはこの日ある男に夢を見せていた。
ある男とはロランが黄金郷に旅立つ一月前にフォルテア王国を去った悠真・グレイチェスカであった。
『貴方はこの世界に選ばれし勇者…』
『今こそ、勇者として覚醒する時…』
『目覚めなさい…そして北を目指すのです…』
目覚めた「悠真・グレイチェスカ」は予言を信じ北へ向かうとプロストライン帝国第150代皇帝アレキサンドラ・ヴィン・プロストライン・ツー・オーディンに国賓待遇で歓迎され元帥となり、オールトベルト平原を奪還し世界にその名を轟かせてみせた。
夢を見せたあともアリーチェの行動は止まらない。
アリーチェは長椅子に座ったままテーブルに置いてあるベルを鳴らしロベルトを呼ぶ。
「ロベルト…クロス様とアルジュ様をこの部屋に御呼び頂けますか…」
ロラン不在時のトップ会談が「予知の間」で行われた。
部屋から出たクロスは口元に微笑みを浮かべ、アルジュは不機嫌な顔を浮かべクロスに噛みつくのだった。
「私はあの人間が苦手。経験と知識では既にロラン様を凌駕してしまっている…」
「私はロラン様の次にアリーチェ様に興味が湧きました…いろんな意味でね…」
クロスとアルジュが出て行った「予知の間」にロランの知らないアリーチェの姿があった。
『ロラン様に御救いされた3カ月後に私は私ではなくなった…』
『過去・現在・未来の私と『根源』が同じ全次元全時空に存在するクロエ達の経験と知識、そして能力が私に流れ込んでくる…』
『いつしか私は全ての面であの方を超えてしまう…そうなる前に…』
アリーチェは『予知の間』を出るとレイチェルがいる新設された時空観測Laboに向かった。
時空観測Laboの前に着くとアリーチェはロランが使用する【声なき声】を使用しレイチェルの脳内に直接語りかけた。
""…レイチェル…アリーチェです…少しお話がしたので扉を開けて頂けますか…""
全方位型転送ルームに設置した500台にも及ぶ転送装置の調整を行っていたレイチェルは迷いながらもアリーチェをラボの中に入れテーブルへ招いた。
「どうしたのですか。本来、時空観測Laboへの入室はロラン様の許可を必要とします…」
「アリーチェ様なら当然ご存じのはずです…」
アリーチェは動じることなく核心の話題を繰り出す。
「レイチェル。私はロラン様不在時、全権を任されている事はご存じですね…」
「私は今、ロラン様と同一の立場なのです…ですから自分自身に許可を与えました…」
「さて、命令です。私をエリア9に転送しなさい…」
レイチェルは青ざめた。
目の前にいるアリーチェ・デ・クロエはロランとは事なる圧倒的な存在感を解き放っている。
何人も逆らうことは許されない圧倒的な抗えぬ存在として。
レイチェルは自分の意思とは関係なくアリーチェをある転送装置へ誘導し秘匿であるエリア9へ転送してしまう。
エリア9はエレボスの地下深くに移設され、幾重にも重ねられた厳重なセキュリティのもと過去・現在・未来の時空情報を書き換える事ができる時空間航行船『Ulysses』のほか『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』、加えてサブコードの一つである魔剣【バルムンク】を保管していた。
アリーチェは厳重なセキュリティなど、まるでないかの如く『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』を格納するコールドスリープカプセルに向かい悠然と歩きだした。
「貴方がレクシーですね…こんな姿になってまで地球を救おうと願ったのですね…」
アリーチェは愛おしそうに『レクシー・クロエ』を見つめた後、『ラプラス・ルーン・テラ』に向かって語りかけた。
「目覚めなさい…『ラプラス・ルーン・テラ』…」
「私はクロエ…クロエの集合意識体の特異点…」
「クロエが命じる…目覚めなさい『ラプラス・ルーン・テラ』…」
『ラプラス・ルーン・テラ』が目覚めようとする最中、アリーチェは不穏な言葉を放つのだった。
「ダーシャ・クリシュナ。倫理的に許されない手段でロラン様の子を出産した女…」
「貴方はやり過ぎた…覚悟しなさい…」
その後、アリーチェはかつてクロスがロランの命で力を貸し大統領に最も近い候補者であったエミット・シーン上院議員を下し再選した『ジグムンド・シュミッツ』の夢に現れ軍事侵攻させホワイトヴィル湖を完全掌握させた。
それだけにとどまらず、東夏殷帝国第九代 光武帝と末弟である赤狼王の夢に現れパリス砂漠を除いた東クリシュナ帝国を征服させるのだった。
メッサッリア共和国がホワイトヴィル湖に軍事侵攻したことにより条約締結国家間の領土に侵攻しないとした領土不可侵条約を根底に持つアヴニール国家連合に亀裂が生じる。
さらに西にメッサッリア共和国、東に東夏殷帝国による領土拡大を行われた西クリシュナ帝国女帝ダーシャ・クリシュナはアトス湖北上部をフォルテア王国より奪還し国力が上がったことを内外に知らしめた。
アリーチェは東クリシュナ帝国から逃げのびたルドラ・クリシュナをBLOOD Squallの部隊に確保させ身柄をルドラの旧友であるリンデンス皇帝であるラグナル・デ・リンデンスに引渡し次の一手を打つ準備をするのだった。
何者かが呟く。
「ロランは世界を収束させ、アリーチェは世界を発散へと導くか…」