129話 黄金郷の世界
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
ロランはアーク、スティオン、バークス、ファビアンを伴いリンデンスに新設したKnight Raven専用の滑走路に併設した格納庫にいた。
『Knight Ravenが一回り大きくなっているな…』
ロランは嫌な予感を抱きつつ皆と共にKnight Ravenに搭乗した。
操縦席は大幅に拡張され、新たに操縦席の後部に指揮官席、指揮官席の左右に環境監視席とレーダー監視席が設置され、計器類はタッチパネルへと変貌を遂げていた。
天空の黒き城に向かった際は、冥界の王の力を使用しKnight Ravenにかかる重力をゼロとし高速飛行船『エルミオンヌ』にドッキングすることで対流圏上部まで上昇させ、成層圏からロケットエンジンを使用することで宇宙空間に到達させたが今回はその必要がなかった。
レイチェルがロケットエンジンの外側にターボファンエンジンを取り付け、対流圏内ではエンジン前部から空気を取り込み燃料と混ぜ合わせた後、後部より高温高圧のガスとして噴射することで生じる推進力により飛行できる仕様に改造されていたからであった。
『レイチェル。大分魔改造したね…』
ロランはKnight Ravenに新に設置された指揮官席に座ると操縦席のスティオンに離陸を促した。
スティオンは操縦桿を握りながらタッチパネルを操作し各種装置に異常がないか確認していく。
「環境制御装置および生命維持装置(ECLSS)、ならびに姿勢制御装置異常なし…」
「システムオールグリーン…」
スティオンは皆に気圧調整を行うよう促す。
「各自、耐Gスーツの気圧調整を済ませてください…」
「「「「了解…」」」」
スティンは皆が耐Gスーツの気圧調整を済ませたことを確認すると管制室に離陸許可を求めた。
「We will be taking off shortly OK…」
暫くすると管制室の責任者であるダブロックから離陸許可がくだされた。
「Cleared for Takeoff…」
スティオンはターボファンエンジンを始動させると一気に速度を上げ高度7,000mまで上昇しマッハ5でケトム王国の空中に浮かぶ黄金郷を目指した。
「これより自動航行に切り替える…」
スティオンは自動航行に切り替えると脳波通信インプラントを使用しロランに話しかけた。
""黄金郷の世界でも我々は魔法を使用できるのでしょうか…""
""それは分からない。だが魔法が使用できない場合も想定して魔力が必要ない装備も搭載している…""
『『『医薬品や飲料水、ろ過装置を搭載しているのはそのためか…』』』
スティオンだけでなくアーク、バークス、ファビアンはフルフェイスのヘッドマウントデイスプレイの中で顔をこわばらせた。
魔法が使用できない世界で深手を負った場合、ロランの奇跡的な回復魔法に頼ることはできず、その上強靭身体を使用し肉体を強化することも出来ない事が容易に想像できたからであった。
加えて、生まれながらに魔法が使用できる者にとって魔法が使用できない状況は恐怖の対象でしかなかった。
『『『魔法が使える世界であってくれ…』』』
Knight Ravenはフォルテア王国の領空を飛行中にメッサッリア共和国のクレアボヤンス(千里眼)部隊に補測された。
メッサッリア共和国のハイパー演算部隊と生体コンピュータ部隊の隊員達は即座に撃墜タイプの【神の矢】における発射角度や速度を計算し、G07部隊が統合軍司令マシュー・オルコットに撃墜命令の指示を要求した。
マシュー・オルコットの横には国防大臣のアルベルト・スペンサーがおり撃墜指令を停止させる。
「我が国のプレコグニション(予知)部隊における予知は正確だな…」
「その通りですな。ところで正体不明の飛翔体への撃墜指令は停止でよいですかな…」
アルベルトは小さく頷き、停止の理由を述べるのだった。
「この世界であのような飛翔体を開発できる者はロランか関係者しかいないからね…」
「それに私は以前、ロランに助けられた…私は借りは返す主義だからね…」
アルベルトは中央指令室のモニターにてクレアボヤンス(千里眼)部隊が補測し投影した映像を見ながら、ロランの無事の帰還を願うのであった。
『ロラン。私も君のように思いのままに自由に行動したいものだ…』
『友よ。思うがままに行動すればいい…だが無事に帰還することを忘れるな…』
レーダーによる監視を担当していたファビアンが脳波通信インプラントを使用しロランに報告を行った。
""ボス。前方10㎞にターゲットである黄金郷が出現しました…""
""黄金郷からの攻撃は無し。このまま突入しても問題はないと思われます…""
""ファビアン了解した。スティオンそのまま突入してくれ…""
ロランからの指示を受けたスティオンはマッハ5の速度を維持しながら空中に浮かぶ黄金郷に突入した。
突入による衝撃は無かったが突入直後、皆が違和感を覚えた。
""頭に血が集結しているように感じますがこれはジー(G)の影響でしょうか…""
アークは思っていた疑問を脳波通信インプラントを使用し皆に伝えた。
""これはジーの影響ではない上下が反転している。スティオン姿勢を補正してくれ…""
""了解しました。ロラン様…""
スティオンは直ぐにKnight Ravenを反転させて姿勢を補正すると偵察ポッドを起動させ大気組成や重力、時間の流れを測定していく。
偵察ポッドで測定されたデータは各員が座るモニターにも映し出された。
『予測通りか。この黄金郷の世界はエアストテラに同化されずにいる別の世界線における地球だ…』
ロランはスティオンに無人島にKnight Ravenを着陸させるよう指示を出す。
着陸後、ロランはKnight Ravenに新規に搭載された光学迷彩機能を使用し周囲の景色に機体を溶け込ませると皆に耐Gスーツから戦闘服Ⅱ型スーツに着替えバイパーT31拳銃とラグナⅡ型対物狙撃銃、カーバイン製の黒刀を持って船外に出るよう指示を出した。
""皆、大気組成は同じだからヘルメットは脱いで大丈夫だ…""
ロランに続き皆ヘルメットを脱ぎ新鮮な空気を取り入れる。
「皆、魔法が使用できるか確認してくれ…」
皆、体内に魔力の流れを感じるのだが誰一人魔法を発動することができなかった。
「ボス。全く魔法が発動しません…」
ファビアンは淡々と現状を伝える。
ロランも自身で魔法が使用できないことを確認すると直ぐに気持ちを切り替え、この世界で使用できる能力を確認していくことにした。
『理力眼に関してはこの世界の事象に物理的な作用を及ぼす能力は規制されているがその他は問題ない…』
次にロランは目の前の巨石を見つめて動かしたり、手から炎を出したりした。
『サイコキネシスとパイロキネシスは使用できる…』
ロランが使用可能な能力の検証している周りではアーク達も能力の検証をしていた。
「トールハンマー…」
アークはおよそ100年前にプロストライン帝国皇帝からマクベス家に供与された雷魔法を発生させるガントレットをはめると右手を地面に叩きつけ雷魔法を発動した。
『ガントレットを使用することでトールハンマーは発動できる…だが…』
『何だ。この激しい疲労感は…』
それもそのはずであった。
この世界では新たに体内で魔力を生成することが出来ず、魔力は使い切りの状態であったからである。
バークスはというとラグナⅡ型対物狙撃銃を使用し15発試し打ちを行い、弾丸の軌道と距離、肌で感じる空気中の湿度や風の流れから黄金郷の世界は元の世界の物理法則と同じであることを確認した。
『魔法による補正も出来ず蠍も召喚出来ない。これでは狙撃距離は精々3㎞だな…』
一方、ファビアンは手榴弾や指向性対人地雷を数発使用し加害範囲を確認した。
『魔法が使用できない私はトラップを仕掛けることしか出来んな…』
皆が黄金郷の世界で能力を検証するなかスティオンは困惑していた。
それもそのはずである。
スティオンはロランほどではないが強力な固有魔法である天宮開放や限りない絶対零度を使用し存在を示していたからである。
だがそこは多くの国々や種族から敬遠されるほど高い能力を持つグリーンアイズの一族。
自分の得意な分野を再検討し結論に達した。
『レイチェルが作ってくれた。ドローンを使用しこの世界の情報収集と分析を行うのが私の役目だな…』
光明を見出したスティオンの眼前の植物が急に成長し始める。
『冥界の王の能力のうち重力を制御する能力とこの世界の冥界にアクセスする能力は使用することが出来ないが生命そのものを操作する能力は使用できる…』
ロランは冥界の王のうち、生命を操作する能力が使用でき、そのほかシエルヴォルトと天竜の能力の一部が使用できることを確認した。
『食料と飲料水は3ヵ月分備蓄してある…』
『先ずはこの黄金郷の世界の気候に慣れ生態系を把握するうえでもサバイバル生活をしなくては…』
『この世界の住人とコンタクトを取り世界の情勢を聞き出すのは次のステージだな…』
ロランは赤い薬と青い薬に繋がる装置を手に入れる道の先に幾多の困難が予測でき、皆を巻き込んでしまった事を後悔するのだった。