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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第3章 パンタレイ 編
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127話 赤い薬と青い薬

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「平和を維持するためには何処かの国家が圧倒的な力と覚悟をもって世界の国々が秩序を遵守するよう管理しなければならない…」


 「圧倒的な力と覚悟をもって…」


 「その国家は我がリンデンスでなければならない…」


 ロランは貴族院党首の特権を使い開催した帝国議会で議員に向かい自論を展開する。


 しかし時代は、かつてラグナル皇帝が世界皇帝を夢見ていた時とは異なり帝国民の誰もが世界の調律はリンデンスには荷が重すぎると考えていた。


 近代魔法兵器で大規模に組織化された軍隊を有するメッサッリア共和国や高度な諜報スキルによりあらゆる情報を収集するトロイト連邦共和国の台頭。


 加えてロラン奮闘し構築に至ったアヴニール国家連合とプロストライン帝国、東夏殷帝国の3勢力が脆弱ながらも均衡状態を保ち平和が安定する状況となっていたからである。


 帝国議会に集まった議員はロランの発言に困惑し騒然となった。


 ロランは()()()()議会の中で自論を展開し続ける。


 「先ずは経済力を強化する。その実現のため国家事業として新たな産業を創造する…」


 ロランは新たな産業として飛行船建造やタイガ地帯の針葉樹林を使用しての大規模製紙業、人造湖とメタンガスの大規模開発に加え、薬を大規模に開発するメガファーマの立ち上げを掲げた。


 さらにロランは大幅に強化したばかりの帝国軍に、簡易版ロンギヌスを運用する長距離射程部隊と世界中に迅速に部隊を展開するため正式に高速飛行船部隊を新設することを告げた。


 依然として騒然状態である議員達をよそにロランは初代首相兼帝国議会議長であるフレイディスに目配せをし強行採決を済ませると議会を後にした。


 その日の晩、ラビュリント王宮の()()()()においてラグナルとフレイディスは帝国の行く末について思いを巡らせていた。


 「ロランの奴め…あれでは帝国中の貴族と議員を敵に回すことになる。いくら余に事前説明をしたからといって余よりも独裁的に強行採決を行うとは…」


 「確かに。ですがロランの話が真実であれば我が帝国はもとより世界は早急にシャンバラ大陸に住まう者達に対する準備をしなくてはなりません…それも国民に不安を与えぬため悟られずにです…」


 皇帝であるラグナルはソファーに座りワインを飲みながら考え込む。

 

 『このような形で余と我がリンデンスが世界を牽引することになろうとは…』


 帝国議会に先立ち、ロランはリンデンス帝国の邸地下に新設したばかりの中央戦闘指揮所にて機密任務の指示を出していた。


 「本作戦のコードネームは【赤い薬と青い薬】とする…」


 「本作戦の責任者はルディス、アーク、スティオン、バークスとする。皆、それぞれの部隊を使用し是が非でも【赤い薬と青い薬】を見つけ出してくれ…」


 「「「「ヤー、マインヘル…」」」」


 コードネーム【赤い薬と青い薬】とは自由に人の身長を拡大縮小することができる魔法の事であった。


 ロランは自由に人の身長を拡大縮小することができる魔法を見つけ出しカルキーズ襲撃時に人類を縮小させ各国に製造させた飛行船に乗せ()()()()に移動させ、その後エレボスごと移住可能な惑星に脱出する【惑星移民計画】により人類を救出しようと考えたのだった。


 存在するかどうかも分からない【赤い薬と青い薬】に一縷(いちる)の望みにかけたのだった。


 『理力眼が不完全で状態ではカルキーズがいつ襲撃してくるか判別できない…』


 『明日なのか1年後なのか数十年後なのか数百年後か…それとも現れないのか…』


 『だが対策は必要だ。問題は真相を知らせずに各国に高速飛行船を建造させるかだ…』


  帝国議会から3日後、ロランはワーグと共にタイガの森林で製紙工場の建設に取りかかっていた。


 「ロランよ。最近、儂をこき使い過ぎじゃ…」


 「フォルテアの工場管理の一切を儂らドワーフの職人達に任せたうえに、製紙工場の建設や固体燃料を使用する簡易型ロンギヌスの建造、宝石を加工するための人工ダイヤを使用したダイヤモンドカッターの製造と軒並みじゃ…」


 「この製紙工場建設だけで500名の職人を現場監督としてフォルテアから借り出してきている…これでは儂だけでなく3,000名の職人達が倒れてしまう…」

 

 いつになく愚痴をこぼすワーグにロランは奥の手を使いなだめるのだった。


 「ごめんよワーグ。でも僕は製造や建設といった確かな技術と経験を必要する仕事はワーグとドワーフの職人達に指揮してもらわなくては一歩も前に進まないと思っているから、つい頼りにしてしまって…」


 ロランはワーグに孫が祖父に甘える声で話し肩をもみほぐして機嫌をとった。


 「はぁ、しょうがないのぉ。ロランに頼りにされると儂は断ることが出来んのだよ…」


 「だが、今回だけだけじゃぞ。皆も()()()()だ。それに建設に携わるリンデンスの3万人の労働者にも休息が必要じゃからな…」


 ロランとワーグが()()()()劇場を繰り広げているとアレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノがやってきた。


 「やぁ公爵。いくら大学が夏季休暇とはいえ急にパルム公国からいなくなられるとは…」


 「一声かけてくれれば良いものをおかげで随分探し回りましたよ…」


 「僕は会いたくなかったけど…」


 ロランはマンパシエを冷たくあしらい帰国させようとするが、いつの間にかマンパシエのペースに取り込まれ、ついには建設現場に設置してある休憩室で3人で昼食を摂るのであった。


 「それにしても公爵は、相変わらず商売に鼻が利きますね…」


 「製紙工場や飛行船製造工場の建設、加えてコルチェリの腕時計に使用する宝石を加工する工場建設にメガファーマの立ち上げとは…」


 「こういった大きな商いは商会連合だけではなく我がパルム公国の5大財閥にもお声をかけていただきたいものです…」


 ロランは相変わらず本音を隠し話をするマンパシエに業を煮やし本題を促した。


 「相変わらず話が回りくどいねマンパシエは。そろそろ本題に入ってくれないか…」


 「いやぁ流石に公爵です。まぁ私の勘ですが公爵が私の知恵を欲しているのではないかと思いまして…」


 ロランはマンパシエの勘の鋭さに感服するとともにマンパシエの交渉力を高く評価していたことから、各国で高速飛行船を建造させる必要があることとその原因を説明した。


 「なるほど。人類を15㎝の小人にして飛行船に乗せエレボス島へ移動させ、その後()()()()へ脱出する…」


 「そのためには各国が小人化した自国民を乗せきれるだけの飛行船を建造する必要があると…」


 「しかし、襲撃があるかどうかは分からないので無駄に不安を煽りたくない…」


 マンパシエは考え込むと妙案が浮かんだのかロランに対し知恵を提供する代わりに2つの条件を飲むよう要求してきた。


 「先ずは、貿易だけでなく政治的にも我がパルム公国をリンデンス帝国のカウンターパートナーとして頂きたい…」


 「次に、小人化されたパルム公国の国民が全てが乗れるだけの高速飛行船を建造し引き渡して頂く…この2つの条件を飲んでいただけるなら知恵を授けましょう…いかがかな…」


 久しぶりにマンパシエとさしで交渉しロランはマンパシエの交渉力を実感した。


 『大胆に自信をもって相手の懐に深く入り込んでくる…そして期待をせずにはいられない…』


 『これがマンパシエの交渉術か…さすが稀代の交渉人と呼ばれるだけのことはある…』


 「いいでしょう。2つの条件を飲みましょう…」


 マンパシエの案は世界中の国々が高速飛行船の性能を競い合う国際大会を開催するという誰もが思いつきそうな案であった。


 「公爵。私の知恵は誰もが思いつくと思われましたな…だが、その国際大会で優勝した国は紛争している領土、あるいは欲する他国の鉱山発掘の権利、あるいは欲する他国の産業が生み出す利益を手に入れられるとしたらどうなりますかな…」


 「誰もが思いつきそうな案かもしれませんが、実現可能にするエサを選定出来るところに私の価値があるのです…」


 「公爵。では手始めに攻略が難しそうなプロストライン帝国と東夏殷帝国を巻き込んで見せますので、くれぐれも約束をたがえぬ様に…」


 マンパシエは食事を済ませると急ぎ足でその場を後にするのだった。


 一方、その頃。


 RedBullet(レッドバレット)部隊を副官であるロスト・レイノルズに任せたバークスは【赤い薬と青い薬】の情報を得るべく、ケトム王国に潜入し地下格闘場で戦闘を繰り広げていた。

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