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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第2章 繭の中の世界 編
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122話 失楽園の湖水真珠と花き

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 現在、ロランはツュマを伴い西クリシュナ帝国の首都『ロゼイア』を視察していた。


 「ロラン。ここまで酷いとは思っていなかった。まるで廃墟のようだ…」


 三年前、ツュマはエクロプス、ファビアンと共に当時クリシュナ帝国の第三皇女であった"ダーシャ・クリシュナ"現皇帝を救出した時は、クリシュナは最古の国家として楽園の如く繁栄を極めていたからであった。


 『ロべス・ダントンによる恐怖政治と国民による恐怖政治の打倒革命により、ここまで荒廃してしまうとは…』


 ロランは(ゴミ) が散乱し異臭を放ち、崩壊した建物の前に今にも崩れ落ちそうな建物を建て、崩れ落ちそうな建物が密集し数キロ続く現状を見て、皇帝であるダーシャはとても苦しい立場に置かれている事を肌で感じとるのだった。


 『何とかしないと西クリシュナ帝国は直ぐに崩壊してしまう…』


 ロランとツュマは強い危機感を抱きながら邸へと帰還するのだった。


 「ツュマ。早速だけどシレーネ商会の会頭である"デビット・エックハルト"と現在は宰相となっている"レアンシュ・マ二"と何時(いつ)でも連絡を取れる体制を確立して欲しい…」


 「必要であれば黒猫を持っていって構わない…」


 「了解しました…」


 ツュマはロランに了解したことを告げると元々マルコの使い魔であり、現在はロランの使い魔となっている黒猫を両手に抱えリビングを後にした。


 ロランが話に出したシレーネ商会とは海産物や食品を扱っている商会であり、治安が悪化し悪評で満ちた現在でも西クリシュナ帝国において商売を行う数少ない商会であった。


 カント魔法大学の始業までに、ロランは黎明(れいめい)会議を開きメッサッリア共和国の大統領であるジグムンドとトロイト連邦共和国の最高評議会議長であるアガルドより西クリシュナ帝国に対して過剰な干渉を控える旨の確約を取り付けていた。


 ロランは黎明会議に続き、商会連合会議を開き、西クリシュナにて産業を興す(おこす)協力を求めたのだが、大部分の商会は多くの人種や獣人種をキメラ実験に使用したクリシュナ帝国の流れをくむ西クリシュナ帝国に協力することはできないと拒否されていた。


 『シレーネ商会だけでは西クリシュナを活性化できない。西クリシュナで主たる産業を興せれば多くの商会が西クリシュナに参入し活性化するのだが、どうしたものかな…』


 ロランは思案をめぐらすが直ぐには名案が浮ばずにいた。


 変化は西クリシュナ帝国だけではなくカント魔法大学においても起きていた。


 宰相府で勤務していたエミリアが社会人枠で2年に編入してきたのだ。


 そのため、ロランは講義中だけでなく学内にいる時は、常に右隣りにジョディ、左隣りにはエミリアという美女に挟まれるという()()()()の状況になっていた。


 ジョディ・ライトナーの父親はケレス商会の会頭であるモリッツ・ライトナーであり、エミリアと同い年の19歳で魅力的な美女であった。


 ランチになると三人は学内にある元の世界の南仏を思わせる食堂で会話をしながら食事をとるのだった。


 「ロラン様。再び公務に就かれるという噂を耳にしましたが本当でしょうか…」


 ロランは王国における貴族の中で最も信頼している公爵である"エドワード・フォン・スティワート・ツー・グラム"に後見人の依頼を行った際、交換条件として再び国土交通大臣として公務に就くことを約束していた。


 公爵であるロランが公務に就かず他国の発展にばかり寄与する行為をすることは、貴族の中に多くの敵を作ることになると考えたグラムの配慮でもあった。


 「その通りだよ。いつもの事だけど情報をつかむのが早いねジョディは…」


 するとエミリアが不機嫌そうにロランとジョディの会話に入ってきた。

 

 「ロラン。私その話初めて聞きましたよ。何で一番に知らせてくれないのですか…」


 「エミリアには、正式に決定されてから知らせようと思っていたから…」


 ロランは何とかその場を取り繕い、楽しく語らいながら食事を続けることに成功すると突然ジョディが真珠のネックレスを見せてきた。


 「ロラン様。見てください。マルテーレ海で採れた真珠で作ったネックレスです。綺麗でしょう…」


 この世界でも真珠は採れるのだがアコヤ貝を使用した養殖は行われておらず大変貴重であり、とんでもない高値で取引されていた。


 するとエミリアは話題を変えるようにサラダの話をしてきた。


 「ロラン見て。このサラダにはこんなに美しいお花が入っているわ。すごく素敵…」


 二人の話を聞いてロランはあることを思いつくのだった。


 『そうだ。確か淡水でもイケチョウ貝を使用して真珠を養殖できたはず。問題はこの世界でもイケチョウ貝があるかだが、あればアトス湖で真珠を養殖できる…』


 『それと花きだ。性別に関係なく食用花や切り花、庭園や花壇用の花は人気がある。ガラスハウスを使用すれば荒廃した西クリシュナの土地でも栽培は可能なはずだ…』


 それから毎週光6日(土曜日)は、ロランはリプシフターを伴いアトス湖でイケチョウ貝を探索し見つけ出すと真珠の元となる核を挿入し"冥界の王"の能力を使用し成長速度を加速させ真珠の出来具合を確認し続けた。


 さらにロランはポルトンとアルジュに食用に適した花と人気が出そうな花の種や球根を集めるよう依頼し、ワーグには大量のガラスハウスの製作を発注するのだった。


 『理力眼が修復できていれば何度も試行せず価値ある真珠の養殖方法を確立でき、食用花に適した花も詳細に分析できるのだが、未だ一部の感知や分析しかできないとは…』


 理力眼の完全修復を早期に望みつつロランは、レアンシュ・マ二に連絡を取りダーシャと面会できる日程の調整を行うのであった。


 ロランがエミリア達とのランチで湖水真珠の養殖と花き栽培を思いついてから1ヶ月後


 ロランは、西クリシュナ帝国の王宮である"チェカプ宮殿の永久(とこしえ)()"にて三年ぶりにダーシャと面会した。


 「お久ぶりですロラン様。身長もさらに伸びて顔つきもより精悍になりましたね…」


 ロランの身長は175㎝となりイワン雷帝との戦闘に絡む辛い経験を経て精悍さを増していた。


 一方のダーシャ・クリシュナも二十歳だというのに皇帝という重責を担っている影響か三年前とは比較にならないほど落ち着いた物腰となっていた。


 「ダーシャ陛下におかれましては健やかそうで何よりです…」


 「早速ですが、西クリシュナにおける主たる産業としてアトス湖における湖水真珠の養殖とガラスハウスを用いた花き(かき)栽培をお勧めに、まかり越した次第です…」


 ロランの話を聞いたダーシャは両の目に溢れんばかりの涙を貯め感謝の言葉を述べるのであった。


 「ロラン様。私は皇帝であるにもかかわらず何もできず、せっかくのロラン様のご提案を実現する資金さえ拠出できない状態でございます…」


 「ダーシャ様、資金のことは心配なさらなくて大丈夫です。フォルテア王国とリンデンス帝国の公費に私の財団からの出資金を加えて投資という形で出資させていただきます…」


 「利益が発生するようになってからご返却いただければ問題ありません…」


 「なお、西クリシュナ帝国を守るため、早急にアヴニール国家連合に加盟する各国と東夏殷帝国との間に相互不可侵条約と通商条約を締結してください…」


 ダーシャはこれまで救いの手を差し伸べてくれる者も無く信頼できる者が政治には疎い将軍出身のレアンシュ・マ二だけという状況の中、ただ一人国難に向き合ってきた重圧と孤独から、ロランが救い出してくれたことに感謝し、これまで抑え込んできた感情が扉を開けるのだった。


 加えて、ダーシャの気持ちに拍車をかけたのは未来からのロランの手紙であった。


 三つ編みを纏めあげ、額の中心には縦の楕円型ダイヤと複数の丸いルビーとシルバーのチェーンで構成されたヘアアクセサリーで髪を飾り、袖の先が鋭角で非常に長く、ベースは赤でアクセントに白の流線形模様が施された民族衣装のドレスを着た″赤き宝石″であるダーシャが身を乗り出した。


 ダーシャはロランの左手を両手で包み込むと潤んだ瞳でただじっとロランを見つめ続けるのであった。

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