120話 リンデフォース
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
『氷の王宮』と呼ばれるラビュリント王宮のバルコニーより皇帝であるラグナルが首都ルキオンの国民に向け、皆が熱望する家名の復活を告げる。
「我が誇るべき帝国の民よ。帝国史に刻まれし建国の英傑であり、延々と語り継がれた帝国の力の象徴であるリンデフォース家の復活をここに宣言する…」
ラグナルの言葉に国民は熱狂する。
前クリシュナ帝国やプロストライン帝国と共に長い歴史を有するリンデンス帝国であったが、"氷の海"と呼ばれるメラ―海や国土の大半が永久凍土という不条理すぎる地理的特性。
加えて"海の精霊"をその身に憑依させなければ狂戦士となれないことから、国を離れすぎると本来の力を使用出来ない、拘束されし海竜の国。
それゆえ、長きに渡り他国からの攻撃に対し防戦しかできなかった中、建国史上ただ一人、赤き鎧を纏い、巨大な赤い魔法馬に乗り、三又の槍で外敵をなぎ倒した英傑こそがリンデフォースであった。
リンデフォースは生涯独身を貫いたため家名は直ぐに断絶してしまったが、その戦闘は国民によって語り継がれ伝説となっていたのである。
その家名を引き継いだロランに対する帝国民の熱狂は凄まじく、首都ルキオンは歓喜で揺れるほどであった。
ロランはというとリンデンスに来てから5日後に貴族院党首の特権を使用し帝国議会を開催し、帝国軍の強化および飛行船建造を新たな主要産業とする法案を提出し、貴族院、帝国民院を通過させ、皇帝ラグナルの承認を得ていた。
承認を得たことによりロランは公費を使用し、飛行船建造施設やメンテナンス施設、滑走路の整備と帝国軍強化に着手した。
「皆、シャルウルⅡ型による長距離攻撃とラブリュスによる近接攻撃には慣れたかな。それと魔導戦闘車や魔導装甲車の操縦と魔導迫撃砲の使用にも慣れておくように…」
リンデンスの国民で構成される帝国兵は、風か水属性魔法しか使用することができず、国境から離れすぎると狂戦士化できないため、ロランとアークにより様々な武器の使用方法を叩き込まれていた。
「皆、予想よりシャルウルⅡ型や魔導戦闘車、バルギルの扱い方が上達しています…」
「アークの言う通りだね。帝国兵は元々戦闘センスがいいから。コツさえ掴めば見る見る上達していく…」
シャルウルⅡ型はリンデンス兵達の戦闘スタイルに合わせ長方形型の大盾として防御力に特化した仕様に変更し、長距離攻撃時は盾に取り付けてある銃身より魔力を打ち出せる構造としていた。
また、長距離攻撃能時に使用する魔導戦闘車や魔導装甲車は関係を悪化させないためメッサッリア共和国から購入し、ワーグとリンデンスのドワーフを仕切るドリムにより、装甲と砲身部に手を加えさせる事で高機能化と早期増強を図った。
「この分ですと直ぐに王国より屈強な軍となりますが本当に宜しいのでしょうか…」
アークの懸念にロランは自分の思いを話すのだった。
「近衛隊長が指揮する王国軍は魔導戦闘車や魔導装甲車を所有しながら使おうともせず、未だに魔法馬に乗り魔法戦で戦うことを美徳としている…」
「アルベルトやトロイトからは戦術が古すぎて共同訓練や共同作戦は行えないと打診されているにもかかわらずだ。全くどうしようもない…」
ロランがアークに話す近衛隊長とは"ダグラス・フォン・マーシャル"のことであり、ロランがかつて王立武闘競技会で再起不能にした"デオン・フォン・バンデーレ"の上司であった。
「それにしても遠距離攻撃は魔導戦闘車やバルギル、魔導迫撃砲にシャルウルⅡ型、近接攻撃はワーグ殿達ドワーフが使用する両刃の斧であるラブリュスとは…」
「脳波通信インプラントや脳内投影インプラントも使用されるのでしょうか…」
「彼らは"海の精霊"を介して情報共有するので脳波通信インプラントや脳内投影インプラントは使用しない。ただ、いずれ簡易型ロンギヌスは設置するよ…」
アークは唖然とする。
リンデンス兵の鎧は一見するとバイキングのような兜に鎧であるが、鎧の下の服はダイヤモンドの3倍の強度を誇るカーバイン繊維で編まれた服であり、兜と鎧はミスリルとシルバーの合金である"ミリニウム"製で製造したことにより、桁外れの強度となっていた。
さらに、兵が使用する船は、船体がミリニウムとカーバイン製であり、船首には魔導迫撃砲と連射可能なラグナⅡ型対物狙撃銃を1基づつ設置、推進は風と水属性魔法により作り出した高速水流を船尾から噴射する構造に変更することで、50ノットを超える高速移動装甲船へと変貌をとげていた。
加えて、ロランがロンギヌスを設置すると発言したからであった。
暫くすると、ワーグがドリムを連れ近づいてきた。
「ロラン。リンデンスに来てから儂らをこき使い過ぎだ…」
「まぁその話は置いといて。滑走路と建造・整備施設だがの。滑走路は各々3,000メートルでV字にし、建造施設と整備施設は滑走路に接するように建設するぞ…」
「あとの。整備施設は1度に最大7機までメンテナンスを可能にし、飛行船の建造は1ヶ月に1機ペース、整備と建造に必要な要員は3,000名で建設の指揮はドリムが行い、工期は5ヶ月でどうじゃ…」
ロランはワーグとドリムの労をねぎらうため、訓練をアークに任せ邸に戻った。
一方、スティオンはリンデンス在住のグリーンアイズ100名に飛行船の操縦や魔導空対空ミサイルの照準設定を教えていた。
「スティオン、我らは戦闘を好まない。これらの飛行船は貿易時のみに操縦したいのだ…」
リンデンスにおけるグリーンアイズの指導者家系であり航空部隊を束ねるダブロックは皆の意思をスティオンに伝える。
「ダブロック殿、飛行船群によって天然ガスや石油をメッサッリアやトロイトに運搬し貿易を拡大していけば同盟関係はさらに強固になります…」
転生者が国家の指導者であるメッサッリア共和国やトロイト連邦共和国においては、魔法世界であるこの世界でもエネルギー構成に火力を含めていた。
「ただし、油断は禁物です。人ほど信用出来ないものはない。我らグリーンアイズは高い知力と特殊な固有魔法を発動できる能力を持ちながら戦闘を避け続けた結果、そこを付け込まれ長きに渡り多くの国々で迫害されてきたことをお忘れか…」
「力は使わなくていいのです。ただ、いつでも使用できるという意思表示と威力がなければ我らはまた居場所を失います。この理は民族だけでなく国家にも当てはまると思いませんか…」
ダブロックはスティオンの説に納得はしないものの貿易と資金を取得するためには一族にとって必要な職種であったため、皆に早く操縦を習得するよう号令をかけた。
アルジュはというとロランからの密命を受け、メラ―海の北西に位置する地図には存在しない瘴気と暗黒物質で満ち溢れる列島"エレボス"に転移し海岸線沿いに、人が近づきその香りを嗅ぐと精神を崩壊させる魔物の木であるを植え続けた。
夕日というにはあまりに幻想的なアルクトゥルスの日の光がリンデンスを赤く染め上げる。
運命の歯車は小さく軌道をそらし、リンデンスの地に紅玉を生み出すのだった。