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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第2章 繭の中の世界 編
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118話 指揮官達の憂鬱

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「…リプシフター。水中の東クリシュナ帝国兵は片付いたかい…」


 「…はい、ロラン様。私の水圧プレスで藻屑と消えています…」


 「…水中で我らGill Humanに敵う者はロラン様しかいません。海の精霊を憑依させて狂戦士と化すリンデンス兵など我らの足元にも及びません…」

 

 『…何故ここでリンデンス兵のことを言うんだ。リプシフターは海ではリンデンス兵が最強という巷の噂が相当頭にきているようだ…』

 

 ロランとリプシフターは今アトス湖でスタイナー家の紋章を施した旗を取り付けたブイを100m置きに設置していた。


 「…このブイはあと何本設置しますか…」


 「…新たに領地と決めたアトス湖の幅は90㎞で365本設置したから、あと535本だよ…」


 ロランはオールトベルト平原と黒曜の丸屋根(オブシディアンドーム)、アトス湖の北部領域を領地として取得し、領地の境界であると共に王国と西クリシュナ帝国、東クリシュナ帝国との新たな国境でもある境界をブイを使用し区切っていた。


 「…ロラン様、アトス湖の警備に関してですが1週間前に実施された中央戦闘指揮所のブリーフィングでのご配慮、一族皆感謝いたしております…」

 

 「…一族の者は、家族を大事に思う者が多く、1日でも家族と会うことができない状況は大変な心的ストレスとなりますので。…」


 「…リプシフター分かっているよ。僕の配慮が足りなかったんだ。そんなに気にしないでくれ…」


 リプシフターがロランに申し訳なさように振舞うには理由があった。


 ロランは、領地を拝領しクレアシオンと名付けた翌日、地下の中央戦闘指揮所において領地の活用方法と開発についてブリーフィングを行い、そこでの出来事が発端になったからである。


 「…クレアシオンのオールトベルト平原区には、RedMace(レッドメイス)の砲撃訓練場を新設し、SilentSpecter(サイレントスペクター)の総合訓練施設とRedBullet(レッドバレット)の射撃訓練施設を移設する…」


 「…砲撃訓練場の新設、総合訓練施設と射撃訓練施設の移設に伴い、隊員が寝起きする宿舎と魔導戦闘車や魔導装甲車を整備する施設、トカゲ型魔物である『バルギル』と蝙蝠型魔物である『ブラジアーロ』の飼育場にもしたいと思う…」


 「…オールトベルト平原の開発は、僕とエクロプス、エクロプスの一族であるundergrouder(アンダーグランダ―)で行い、アトス湖の監視はリプシフターとリプシフターの一族であるGill Humanに担ってもらいたい…」


 ロランは、邸周辺の私有地では、肥大化したRedMace(レッドメイス)とSilentSpecter(サイレントスペクター)RedBullet(レッドバレット)を効率的に機動出来きるスペースが確保できていないと考え、オールトベルト平原区への移設を考えていた。


 既にRedMaceの部隊は3,600名に、SilentSpecterの諜報員は2,700名に、RedBulletの狙撃部隊は700名に達していたからであった。


 ロランは『後は詳細な計画とスケジュール調整だな…』と考えていた。


 ところが、エクロプスとリプシフターから予想だにしない発言を受けることになる。


 「…ロラン様、我が一族のUndergrounderは、アゼスヴィクラム暦736年1月1日から現在に至る約3年6ヶ月の間、魔導列車を運用できる巨大地下網を、邸からホワイトヴィル湖間、邸からオールトベルト平原間、邸からパリス砂漠間、邸からリンデンス帝国間、邸からトロイト連邦共和国間で開通させております…」


 「…さらにSilentSpecterの諜報員から依頼される坑道や各種Laboに必要なスペースの掘削も行っており、長期的な休暇が必要です…」


 エクロプスの発言にリプシフターも続いた。


 「…ロラン様、私の一族Gill Humanのうち河川警備隊員である600名は、邸から魔導列車で片道2時間かかるホワイトヴィル湖で生活しており、現時点でホワイトヴィル湖と王都を流れるセレネー川やエポーナ川の監視業務を行っております…」


 「…さらにアトス湖の警備が加わりますと隊員に過剰な負荷がかかることになります。また、一族の者に往復6時間かけてアトス湖の警備を行えとは言えません…」


 エクロプスとリプシフターの発言により中央戦闘指揮所は静まり返る。


 ロランは暫く考えた後、エクロプスとリプシフターに代替案を示し実行させることにした。


 「…エクロプス、僕の配慮が至らなかった。今後、5年間Undergrounderにはオールトベルト平原を含む大規模な開発工事は行わせないと約束する。だが、全方位型転送ルームの拡張工事とリンデンス帝国領の地下工事は行って欲しい…」


 「…リプシフターにも迷惑をかけたね。警備は今まで通りホワイトヴィル湖と王都を流れるセレネー川やエポーナ川の監視業務だけでいい。ただし、RedMace内に新設する水陸両用部隊から要請があった場合は全方位型転送ルームを介してアトス湖の水中に転送する。この運用で問題が生じないよう体制を整えて欲しい…」


 ロランは両名の了解をとると、レイチェルに転送装置の運用に"アトス湖警備のための転送"を加えることを指示した。


 転送は時空間を極度に歪めるため、乱用すれば空間断裂を引き起こす危険をはらんでいたからである。


 続けて、ロランはレイチェルとオムにアトス湖を衛星と千里眼による監視対象に加える事を指示し、アークにはRedMace部隊のうち600名を水陸両用部隊にし高速水上艦視艇を使用し湖上と水中を監視するよう指示を出していたからであった。


 アークはブリーフィング後、RedMace施設の戦闘指揮所において、メッサッリア共和国の漁師の家系で、現在は水際機雷の敷設を担当している"テノン・バトラー"を600名からなる水陸両用部隊長兼副官に任命しアトス湖の監視にあたらせた。


 ルディスはというとロランや巨人族の長である"ティタニアス"と巨人族達が整地し、移設した射撃訓練施設と宿舎に諜報活動を行っていない500名を移住させ、自身と副官のファビアン、精鋭11名は現状のまま邸私有地内の戦略諜報施設に留まることにした。


 バークスはというと自分より5歳年上の"ロスト・レイノルズ"を副官に任命し、隊は全7大隊で、大隊には二つの中隊を指揮させ、中隊には三つの小隊を指揮させ、小隊は15名のユニット構成に再編成するよう指示を出した。


 「…ロスト、隊に属さない70名の者は事務方にまわすように…」


 「…畏まりました司令…」


 「…結局、ほぼ移転できたのはSilentSpecterの部隊だけだったな…」


 「…我々とRedMace部隊は訓練時に魔導列車に乗り、片道2時間かけてオールトベルト平原区に移動することになった…」


 ロストは黙ってバークスの話を聞いた。


 「…なおかつ、一部のメンテナンス部隊や調理部隊も移設させ、出来た空き地を"Knight Raven(ナイトレイブン)″や飛行船の拡張滑走路や整備施設に充てるなど、あの少年はなかなか抜け目がないな…」


 「…指令、ロラン様を"あの少年"呼ばわりは控えた方が宜しいかと…」


 「…SilentSpecterを除く各部隊は1週間に2日休暇があり、家族と会えない日は最大でも2日に抑えるようになど、あの少年は甘すぎる。その甘さが災いを招かねばよいのだが…」


 現在のアトス湖の状況はというとあまり代り映えの無い状況であった。


 「…ロラン様、ブイはあと何本設置しますか…」


 「…リプシフター、あと200本ぐらいかな…」


 既にロランはオールトベルト平原から黒曜の丸屋根までは食人植物で覆われた地帯にすることでプロストライン帝国との国境とし、アトス湖東岸には一見すると魔物に見えない怪しい香りで思考を混乱させ道を迷わせる"蟲惑香木(こわくこうぼく)"による蟲惑香木帯を形成し東クリシュナ帝国との国境としていた。


 ロランはブイの設置作業をしながら、ふと思う。


 『…あの状況では、リンデンス帝国から拝領した領地の管理は、リンデンス国内の特殊能力者とグリーンアイズとの混成部隊を結成し行わせるしかないか…』


 リンデンス帝国には、オールトベルト平原での戦闘時にプロストライン帝国の捕虜として連行したグリーンアイズを移住させ、飛行船の操縦やヒートパイプで溶けた永久凍土の再凍結作業、各種政務を担わせていたからである。


 ロランがリンデンス帝国より拝領した領地の名は"リンデフォース"であり、リンデンス帝国皇帝であるラグナルがロランに与えた名が"ロラン・デ・スタイナー・ツー・リンデフォース"であった。


 リンデンス帝国内で部隊を結成するという安易な考えが未来において問題を引き起こす。


 その晩、西クリシュナ帝国の女帝である"ダーシャ・クリシュナ"の寝所に真紅のフードを深々とかぶり、マントの右胸にスタイナー家の紋章、左胸にリンデンス帝国の紋章に剣が加わった紋章が施された女性騎士が現れた。


 「…無礼者、貴方は何者ですか…」


 「…我はトワイライトリンデフォースが一人"ラプラス"。未来でロラン様に使える者…」


 そう告げると騎士はダーシャにロランの魔力印が施された手紙を渡し消え去った。


 ダーシャはその手紙を開け一心不乱に読み込みと手紙を胸に握りしめ涙をこぼすのであった。 

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