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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第2章 繭の中の世界 編
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116話 砂漠の蠍と赤き霧 (2)

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 アークは、両手に100年前にプロストライン帝国皇帝からマクベス家に供与された雷魔法を発生させるガントレットをはめる。


 意識を集中し魔力を極限まで高めるとアークは、ロランがムスパルムヘイムにより溶解し水浸しとなった地面に右手を叩きつけると雷魔法を発動した。


  「……トールハンマー……」


 アークの放ったトールハンマーの雷撃は水を伝搬し水浸しの砂漠と底なし沼に瞬時に広がり、5,000人の東夏殷帝国兵をヴァルハラに旅立たせた。


 アークによる攻撃指示は止まらない。


 アークは脳波通信インプラントを通じてバークスに敵の分隊長の狙撃を命じる。


 さらに、アークは副官の"パイロン"と"オッペンヘルガー"に対し、魔導戦闘車やトカゲ型魔物"バルギル"に砲撃を続けさせながら、疾風戦車(ゲイルチャリオット)の軽装甲部隊に進軍させるよう指示を出す。


 アーク自身も隊の指揮を上げるため巨大な魔法馬に搭乗し、重装歩兵部隊に携帯型魔導迫撃砲による砲撃と火炎槍や光槍の魔法攻撃を行わせながら進軍した。


 一方、バークスは呼吸を整えることで集中力を高め、弾道計算の数値とレイチェルから送信される衛星からの気象情報、蠍達からの取得した現地の気象情報を総合分析し、最適な砲撃角度とタイミングを割り出し、一定のリズムでラグナⅡ型対物ライフルの引き金を弾いていく。


 バークスは、次々に7km以上離れた位置にいる敵分隊長の狙撃に成功しヴァルハラへと送る。

 

 指揮官を失った東夏殷帝国兵達は統制を失い、慌てふためき、散り散りに撤退を始めた。


 アークは、撤退する東夏殷帝国兵達に対し、容赦なく砲撃と魔法攻撃を続けさせ、加えて軽装甲部隊による疾風戦車(ゲイルチャリオット)の殲滅攻撃を行う指示を出す。


 さらにアークは、スティオンに固有魔法"天宮開放(ヒメールテンペルオッフェン)”を使用し、赤狼王を攻撃するよう指示を出した。


 戦場は一方的なジェノサイドと化した。


 これ以上の戦闘は不要と判断したジェルドがロランに進言する。


 「…ロラン様、勝敗は決しました。戦闘はここまでかと……」


 ロランはジェルドの進言を受け入れ、脳波通信インプラントを通じてアークに全部隊における戦闘停止を命じた。


 戦闘が終了するとバークスはたった1人で分隊長70名の狙撃に成功しヴァルハラに送った事が判明する。


 狙撃部隊の全隊員が狙撃ポイントと敵との距離が離れすぎた事が原因で狙撃に失敗した中でのバークスの成果であったため、敵味方を問わず戦慄を走らせた。


 戦場であるパリス砂漠は、東夏殷帝国兵の血が蒸発し大気が赤くなり、吐き気を催すほど錆びた鉄の匂いで充満した。


 赤狼王は立ち尽くす。


 僅か1時間の戦闘で3万の兵を失ったこともだが、勇猛果敢な兵が狼狽しながら撤退する姿を見たからであった。


 赤狼王は総大将として、8㎞先のロランがいる戦闘指揮所に届く大声で、ロランに一騎打ちを申込む。


 ジェルドはロランを制止したがツュマは一騎打ちを行うよう進言した。


 ロランはほんの少しだけ微笑む。


 「……ジェルド、ツュマ、立ち会ってもらえるかな……」


 ロランは千里眼と繋門(ケイモン)を使用し、赤狼王の前にジェルド、ツュマとともに出現した。


 赤狼王は高らかに笑う。


 「……よくぞ、我の前に現れた……」


 「……我が勝利すれば、東夏殷の勝利である……」


と言うや否やロランに襲いかかるも赤狼王の攻撃は一撃もあたらない。


 暫くし全軍を引き連れたアークがジェルドとツュマに合流し、全軍で2人の戦いを見守る。


 1時間経過しても赤狼王の攻撃はロランに当たるどころかかすりもしない。


 かつて、アークもオールトベルト平原でロランと戦闘し敗北しており、赤狼王の姿がかつての自分に重なり、赤狼王があまりにも哀れと思いロランに進言する。


 「……ロラン閣下、これ以上は武人にとってあまりの屈辱……」


 「……赤狼王を一撃をもって倒してください……」


 ロランはアークの進言を聞き入れ高速で体術を繰り出し赤狼王の両手両足の骨を一瞬で粉砕した。


 赤狼王は前のめりで砂漠に倒れ、砂漠の砂を口に含みことで完全な敗北を実感する。


 「…敵の大将よ…せめて止めはそのバシネットを取って行ってくれ…」


 ロランはヘッドマウントを取ると赤狼王の頼みとは反対に治癒魔法最上級の"スプレマシー・ヒール"で赤狼王を治癒するとその場に座り込み、話し始めた。


 「…こちらも色々ありまして、貴方に止めを刺す気はありません…」


 「…私が望む事はアヴニール国家連合と貴国との間における"領土不可侵条約"と"通商条約"の締結…」


 「…貴方には光武帝を説得いただき条約の締結を現実のものとしていただきたい…」


 赤狼王はロランの真意を図りかねたが敗軍の将の身であるため、兄である光武帝を説得し条約締結を行うことを約束する。


 「…貴国の兵はとても勇猛果敢でした…」


と言い残すとロランは脳波通信インプラントを通じ全軍に撤退の指示を出す。


 赤狼王は、ロランの兵と思われる者達が見ていた景色や砂漠の中から急に出現し、ロランが作り出した数キロに渡る巨大な亀裂の中に軍勢が消えていく光景を見て実感する。


 『……人が勝てる相手ではない……』


 パリス砂漠は赤く染まり、赤い霧が発生した。


 この戦闘を監視していた各国の諜報員達は、母国に対しロラン率いる軍の特異な戦闘スタイルと軍の中に想像を絶する腕前の狙撃手がいることを報告するのだった。

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