113話 世界を侵食する機械仕掛けの兵装 (3)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
休憩後、ロランは予定にはなかったが脳内通信インプラントに映し出される情報のソースについて議題とし話を始めた。
「…脳内通信インプラントに映し出される情報のソースについて説明する…」
ロランは立体ホログラムを止めると天井から吊るしていた大型石英ガラススクリーンに"航空写真"と″サーモグラフィ″に似た映像を映し出し説明を続けた。
「…この"細かい建物が映った映像″はレイチェルが管理する光学衛星【ミュー】が映し出した情報をデータ通信衛星【ファイ】を通じて受信し、RaPNネットワークを通じて皆のインプラントに配信している映像だ…」
「…同様に、この熱感知に似た映像は分解能が5㎝であるレーダー衛星【オメガ】が取得した情報をデータ通信衛星【ファイ】を通じて受信し、RaPNネットワークを通じて皆のインプラントに配信したものだ…」
中央戦闘指揮所の指揮官達は怪訝な顔をしたが、ロランは構わず説明を続けた。
「…次に、この建物内や人物の映像だが、これらの映像はオム率いる千里眼部隊Argosの隊員が能力を使用し脳内で作り出す映像だ…」
「…そのため隊員達には、常時脳内血流量や脳波を取得し解析するヘッドマウントを装着させ、脳内に作り出した映像を電気信号に変換…」
「…RaPNネットワークを通じて皆のインプラントに情報を送り映像として再構成している…」
中央戦闘指揮所の指揮官達は、レイチェルの時空観測Laboとオム率いるArgosLaboの業務が、如何に重要であるかを再認識するのだった。
さらに、ロランは指揮官達にSilentSpecterの諜報員達の苦労を再認識させるため、人物や他国の国家情勢のソースについて説明を行った。
「…それと人物に関する情報や他国の国家情勢などの情報はSilentSpecterの諜報員達が命懸けで他国に潜入し取得した情報だ…」
「…また、クロスやアルジュが鳥型魔物や野鳥、犬、猫、昆虫を使役し、それらの目を通して取得した映像や情報も活用している…」
「…だからこそ、情報の活用と流出防止には、全力を注いで欲しい…」
中央戦闘指揮所の指揮官達は真剣な眼差しとなる。
「…では、注意事項を行った後、アークに東夏殷帝国の進軍に対抗する戦略シュミレーションを説明してもらう…」
と言うとロランはスペースプレーンである"Knight Raven″を大型石英ガラススクリーンに映し出し、1つ目の注意事項として絶対に撃ち落とすなという警告をする。
続いて、ロランは2つ目の注意事項として、レクトリオンは表向きは"レイルロード伯爵"として任務に就かせているため、誤って攻撃を仕掛けぬよう厳重に警告を行った。
中央戦闘指揮所の指揮官達は、正直もうブリーフィングを終了して欲しいと思いながら、渋々アークの戦略シュミレーションを聞く。
途中、クロスが味方の損傷リスクを減らすため"底なし沼"魔法を封じ込め、圧力が加わった際に発動する魔導圧力感知型発動装置を地中に埋め込むことを提案した。
アークによる東夏殷帝国の進行を阻止する戦略シュミレーションは、クロスの案を含めることで問題がないとされ、3時間30分に及ぶブリーフィングが幕を閉じた。
ロランは、壇上から皆に解散を指示するとエミリアのもとに歩き出し、放心状態のエミリアの前に到着すると庭園の散歩に誘った。
エミリアは、庭園を歩きながらも、初めてのブリーフィングの雰囲気に圧倒され、胸中は不安で一杯であった。
『…私の知らないロランの顔が沢山あり過ぎる…』
ロランはエミリアの不安を察し青色の薔薇が咲き誇る場所で立ち止るとエミリアに話しかけた。
「…エミリア、この青い薔薇は美しいと思う…」
自然界で青色の薔薇が咲くことは決してない。
この青色の薔薇は示すものは、高度な遺伝子操作技術を保有する証であった。
「…ごめん、ロラン私には美しいと思えない…」
一瞬であるが、ロランがとても寂しい表情をしたことをエミリアは見逃さなかった。
エミリアは、ロランより4つ年上の19歳であり公爵令嬢であることから、年上の男性で条件がいい縁談はあったのだ。
沈黙の時間が、2人の間を通過する。
それでもエミリアは最終的にロランを選び、沈黙を破るため話しかけた。
「……夕日が奇麗だね、ロラン……」
すると夕日を背にロランが振り返り、満面の笑みで右手を差し出し返事をする。
「……僕はエミリアと何度も何度もこの美しい夕日を見たいよ……」
今まで見たこともないロランの笑顔に心を奪われたのか、エミリアはこの時本気でロランに恋をした。
しばらくすると、エミリアの歓迎会を企画していたツュマが近づいてきてロランに声をかける。
「…ロラン様、エミリア様の歓迎会の準備が完了しました…」
「…では、ここからは無礼講で良いですかな…」
ロランは苦笑しながら快諾する。
「…ああ、無礼講で構わないよ…」
その言葉を聞いたツュマは、いきなり陽気にロランに話しかけた。
「…ロラン、エミリア嬢いつまでこんな所でぐだぐだしている…」
「…ペスカトーレ料理長が美味しい料理を作ってくれた…皆も待っている…」
「…さぁ、いくぞ…」
ツュマは、ロランとエミリアの背中を押しテラスに向かう最中に確信する。
『…あぁ、俺達でさえロランのこんな笑顔を見たことはない…』
『…ロランよぉ、お前は見つけたんだな…運命の女性を…』
テラスでは、皆がロランとエミリア待ち侘びていた。
既にリプシフターは酔いつぶれエクロプスは酔った勢いでレラに告白し振られていた。
エミリアの瞳には、この光景が大きな家族の団欒のように見えた。
この日、エミリアは本当の意味でロラン達の家族になったのだ。
・2020/06/12 誤字・脱字・文書修正
・2020/06/14 東殷夏帝国→東夏殷帝国に修正