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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第1章 神がダイスを振りすぎた世界 編
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109話 審判 (3)

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 ロランは天竜の霊力と魔力が安定を取り戻した瞬間、未だ天竜の霊力と魔力を吸収し続ける『理力眼』を強制停止させるため強引な手段を選択する。


 「…究極重力(アルティメット・グラビティ)…」


 ロランは【バルバロッサ】システムにより生物化が減少し装置としての本来の姿を取り戻しつつある『理力眼』に対し【冥界の王】の力で超重力をかけ破壊を試みた。


 いつもの冷静なロランであれば決して行わない選択。


 だが、この時のロランは怒りと狂気で満ち溢れ、ただ目の前にいる敵を倒すことができれば、あとの事など、どうでもいいと考えていた。


 一方、雷帝は飛蝗に体を食われ、青き狼達に焼かれ、天使達に槍で貫かれながらも反撃の機会をうかがっていた。


 『……ルミールという娘が消失したことで我を拘束する金色(こんじき)の杭が消失した……』

 

 『……勝機はここにあり……』


直後、雷帝はできる限り心を静めると集中し体内の魔力を高め、シュバルツ・ドラゴンの加護を使用し1テラワットの荷電粒子による攻撃を放つのだった。


 「……破滅の咆哮(ほうこう)……」


雷帝が放った破滅の咆哮は、周囲の飛蝗と青き狼を一瞬で蒸発させ、なおも勢いは衰えることなくロランへと向かった。


 ロランは避けることなく額を突き出し攻撃を受ける。


 ロランの肉体はかつて六天竜の生血(いきち)を飲んだことによりダイヤモンドと同等の強度を持つに至ったが、破滅の咆哮の攻撃は凄まじく、皮膚や筋肉を焼き尽くし、一部骨が露出するほどの損傷を受けた。


 ロランは皮膚が焼け落ち筋肉が露出している顔を引き攣らせながら笑ってみせた。


 雷帝はロランの不気味な笑みを見た瞬間、恐怖に支配され心拍数が急上昇し思考が停止する。

 

 ロランの凄まじい狂気を纏った瞳に苦痛でゆがむ近未来の自分が映し出されていたことに恐怖したのだった。


 ロランは、生命を操るヴィータ・ドラクーンの能力や生命そのものを操作する冥界の王の力、フェネクの再生能力や六天竜の生血(いきち)の能力を駆使し、驚愕のスピードで身体を修復していく。


 修復を完了したロランは、続けざま古に封印された光属性魔法【白き世界(ヴァイスヴェルト)】を発動し雷帝の魔法攻撃と物理攻撃を無効化すると共に音声を消し去る空間を形成する。


 雷帝は詠唱を唱えることも奇声を発することも出来ず、静穏に包まれた白き世界で、狂気に満ち満ちた笑みを浮かべ、近づいてくるロランを見つめることしか出来ずにいた。


 ロランは雷鳴朱雀を刀に戻し手に取ると右目にある【神の門(バベル)】の前に掲げ詠唱する。


 「……神器降臨(じんきこうりん)……」


その瞬間、右目の【神の門】より神々しい光が放たれ、雷鳴朱雀は金色に輝きだす。


 ロランは金色に輝く雷鳴朱雀を頭上に掲げ叫ぶ。


 「……時空乖離(じくうかいり)……」


 ロランは雷鳴朱雀を一振りし、イディルラビエ王宮を中心に半径10㎞の時空を通常空間より切り離した。


 白き世界でロランの怒号が響き渡る。


 実際は、ロランが【声なき(ラウトロスシュテイン)】を使用し雷帝の脳内に直接音声を発生させていた。


 「……貴様だけは…僕がこの手で最終審判を下す……」


 「……ヴァルハラに送り魂を救済することも……」


 「……僕が管理する冥界にも来ることを許さない……」


と言い終わるとロランは背中より巨大な黒き翼を出現させ雷帝を包み込んだ。


 黒き翼に包まれた瞬間、雷帝はこれまでの悪行が走馬灯となって脳内に映し出され、恐怖のあまり精神が疲弊しヴァルハラに旅立とうとした瞬間、シュバルツ・ドラゴンの加護により正常な意識を取り戻す。

 

 「……バルトスの堕天使の抱擁はいかがだったかな……」


 「……本来は一つの国を殲滅するために使用するものだが特別サービスだ……」


雷帝は恐怖により、体中の毛穴という毛穴から汗が流れだす。


 ロランは、雷帝を気にすることなく、黒き翼を消し去ると今度は光り輝く白き翼を顕現させた。


 顕現した白き翼の輝きを目で確認できなくなった時、雷帝はこれまで経験したことの無い、先端が尖った数千億本の針で貫かれるような激痛に襲われた。


 あまりの激痛に、雷帝は堕天使の抱擁の時と同様、ヴァルハラに旅立とうとした瞬間、シュバルツ・ドラゴンの加護により正常な意識を取り戻す。


 「……これがルミールの審判の光翼だ……」


 「……審判の光翼は貴様が行ってきた悪行を苦痛に増幅変換し細胞一つ一つに与える……」


 「……その様子だと…さぞ激痛だったのだな……」


 最早、雷帝の瞳にはロランに対する反撃の意思は無く、ロランの審判が終わるのをただ待ち詫びる虚ろな瞳となっていた。


 それでもロランは雷帝に対する攻撃を緩めない。


 ロランは光り輝く白き翼を消し去ると今度は両手を雷帝に向け掌を広げる。


 その直後、雷帝の身に変化が生じた。


 皮膚が爛れ1㎝程の疱瘡が全身に広がり、口からは白き泡を吹き、雷帝は苦しさのあまり両手で喉を締め転げまわるのだった。


 呪いの如く、雷帝は一定の損傷を受けるとシュバルツ・ドラゴンの加護によって体が元通りとなり正常な意識を取り戻す。


 「……これが、マルコの世界を滅ぼす(ヴェネヌム・ペルデレ・ムンディ)だ……」


 「……マルコの毒は、肉体の組織を崩壊させるだけでなく神経系も崩壊させる猛毒だ……」


ここまで雷帝は無抵抗であったが窮鼠猫をかむという言葉通り、雷帝は最後の力を振り絞りロランに一撃を加える。


 「……冥界の黒炎……」


 その瞬間、ロランの身体から黒き炎が立ち上げる。


 「……油断したなロラン…その炎はお前を焼き尽くすまで消えることはない……」


雷帝は最後の正念場で自らの勝利を確信した。


 だが、ロランは黒き炎に包まれながら狂気の奇声をあげ笑い出す。


 「……滑稽だ…冥界の王たる僕に冥界の黒炎だと……」


 「……貴様にはさらに罰が必要だ…究極の炎を味合わせてやろう……」


 「…究極重力…」


そう言い終わるとロランは自身に究極重力を掛け、さらにフェネクのレグルスで自らを燃焼させていく。


 雷帝は、ロランが何をしているのか理解できずにいた。


 ロランは、重力と燃焼温度を上げていく。


 そして、その瞬間はいきなり来る。


 ロランの周囲の空間が黒くなり、同時に冥界の黒炎が消滅したのだ。


 冥界の黒炎が消滅した瞬間、ロランは奈落の鎖を顕現させ雷帝を拘束する。


 「……アポリオンチェーン……」


 その後、ロランは淡々と最終審判を下すことを雷帝の脳内に告げた。


 「……さらばです雷帝…それとこれはフェネクと僕の分です……」


 「……絶望の冥炎……」


 その瞬間、雷帝は絶望の冥炎により瞬時に蒸発、シュバルツ・ドラゴンの加護により元通りになる状況を繰り返しながらアポリオンチェーンにより奈落へ引きずり込まれるのだった。


 ロランが放った絶望の冥炎とは、究極重力で空間を超圧縮しフェネクのレグルスを10億℃まで高めた炎であり、その温度は超大質量のブラックホールのコロナの温度に匹敵するものであった。


 ロランはスタイナーシステムの開発者の記憶を継承し、同一の遺伝子を持つクローン体の雷帝が再び現れぬよう、王宮地下に建造されている精神転送装置とバルバロッサ、クローン体発育カプセル施設を完全に破壊するため、何度もレグルスを放つ。


 自ら『理力眼』を損傷させたロランは探知(ディテクト)を使用し、精神転送装置とバルバロッサシステム、クローン体生育カプセル施設を跡形もなく破壊したことを確認し、自分がいる空間を通常空間と接続させた。


 イディルラビエ王宮の近辺に住んでいた国民は、巨大な雷鳴と焼けた空気の匂い、昨日まであった王宮が無くなった事に驚愕しパニックに陥っていた。


 ある者は持てるだけの家財を馬車に積み込み、ある者は子供達の手を取り、ある者は風属性魔法を使用し逃げ惑う人々の背中や肩に飛び移りながら、跡形もなくなり溶岩が溜まった王宮跡地から遠ざかろうと郊外へ向かうのだった。


 ロランも混乱に乗じて郊外に向かう。


 ロランの瞳は異形のままだったが、誰一人気づくものはいなかった。


 数分後、ロランは目的の邸に到着するとドアを蹴破り、恐怖に慄く中年の女性と10代後半の女性を説得し同行を承諾させる。


 ロランは燃え盛る帝国首都【テスタツァーリ】を後にし野営地に戻るため繋門(ケイモン)を使用する。


 女性2人を伴いオールトベルト平原の野営地に出現したロランの元にアルジュ、ジェルド、ツュマ、ルディスが駆け寄る。


 ロランの変貌ぶりに事の重大さを感じたアルジュ、ジェルド、ツュマ、ルディスは、片膝をついたままロランの(メイ)を待っていた。


 ロランは4人に指示を出す。


 「……今より1時間後に帰還する……」


 「……グリーンアイズ以外の捕虜は開放とする……」


 「……それと……」


というとロランはジェルドに2人の女性を引き渡す。


 その後、ロランはアルジュに【食人植物の種】を召喚させ、ルディス配下のSilentSpecter(サイレントスペクター)に一定間隔で種を埋めるよう指示を出す。


 夜が明けた頃、ロランはオールトベルト平原に数キロに渡り埋め込んだ【食人植物の種】を【冥界の王】の力で急速に発育させ、帝国が再び平原を通って進軍できない環境を作り出した。


 定刻になるとロランは空間に巨大な繋門を出現させ、軍勢と捕虜を引き連れ邸へと帰還した。


 ロランの軍勢はプロストライン帝国の進軍を跳ね除け勝利したはずなのに活気はなく沈黙の帰還となるのだった。


 帰還後、ロランは【至高の門番(プリマプフェルトナァ)】の首座をクロスとし、防衛の責任者にレイチェル・ロンド・冷泉を任命する。


 また、至高の門番のメンバーに新たに、レクトリオン、ラミア、ワーグ、ジェルド、ツュマを加える事を伝えると後の事をクロスに任せ、自らは【エリア9(ナイン)】へと向かう。


 『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』、過去・現在・未来の時空情報を書き換える事ができるレイチェルの時空間航行船Ulysses(ユリシーズ)が保管された【エリア9】でロランは一人佇む。


 返事をすることのないコールドスリープ(冷凍睡眠)のカプセルに保管された『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』に向かい、ロランは延々と語り続ける。

 

 それより半年間、ロランは誰とも会うことなく時空観測Laboの最下層に位置するエリア9に閉じ籠るのだった。


 ある日のこと、アリーチェは"予知の間"にて神聖ティモール教国の教皇しか所持を許されないエルゴラーゼ禁書とマグネリア魔導書を手にしながら独り言を言う。


 「……終末を招く者、ギャラルホルンを吹き鳴らし東の地より現れる……」

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