108話 審判 (2)
※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力スキルにおける名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
「……旦那様……」
冥界よりロランの元に顕現したマー二・エクス・ディアナの瞳には全身に亀裂が入り今にも崩壊しそうなロランの姿が映り、激しく心を動揺させた。
本来、ディアナはブリュネットの髪を持ち、左目がサファイアブルー、右目がグリーンのオッドアイをした絶世の美女なのである。
それがロランの変わり果てた姿を見、激高した結果、髪はうねりながら逆立ち、目の全てがマリンブルーとなる鬼女の姿となり一心にロランを助けようとするのだった。
ロランは鬼女と化したディアナを見ても何も言葉をかけることが出来ない自分自身の無力さと無謀さを心に刻みつけ深く後悔する。
ディアナはロランの崩壊を食止める時を生み出すため、振り返り雷帝ことイワン・ヴィン・プロストライン・ツー・オーディンを睨みつけ石化させる。
振り返るとディアナはロランに涙声で別れを告げる。
「……旦那様……私の事を忘れないでね……」
言うやいなやディアナは封印され続けた冥界の詠唱を行った。
「……アポリオンチェーン……」
突如、ディアナの腹部に黒き穴が現れブラックシルバーのチェーンが出現する。
「……これは冥界より遥か深部に位置する奈落の鎖……」
「……この鎖で旦那様の亀裂を縫い合わせます……」
ディアナの言葉通り黒き鎖は直径が0.001mmとなり亀裂を縫合していく。
代償なのか、ロランの亀裂が縫合されるにつれディアナの体が透けていく。
『……これで余を拘束したつもりか……』
雷帝はシュバルツ・ドラゴンの加護を使用し石化を解除していく。
雷帝が石化を完全に解除した時、ディアナは消失していた。
雷帝は本来の攻撃目標であるロランに意識を向けた時、雷帝の瞳には右目の全てがマリンブルー、左目の虹彩が竜のごとく金色で瞳孔が真紅のロランの姿とロランを守護する者達が映し出されるのだった。
「……ロラン様……未だ天竜の霊力と魔力の均衡が調整できないようですね……」
「……では……ここは我らにお任せください……」
大きな黒い翼を持つ狩人の姿であるバルトスは、神話の武装をしたルミールに対し首を縦に振り審判を促した。
ルミールはバルトスの合図を確認すると左手をロランにかざし水属性魔法の【ヴォウルカシャ】を唱えロランの身を清め終わると輝く白き翼を広げ宣言を行った。
「……我が名はルミール・ウェヌス・アスタルティー……」
「……光の守護者にして審判の天使である者……」
「……これより貴様に審判を下す……」
言い終わると白き霧が立ち込め光の粒子が散乱し周囲一帯を白き世界へと変化させた。
雷帝はルミールに攻撃を加えようとするも既に両手両足に黄金の杭を撃ち込まれ動くどころか声も出すことも出来ずにいた。
その光景を見たバルトスは徐にラッパを取り出し雷帝に向かい謎の言葉を投げかける。
「……我はこれより3回ラッパを吹き鳴らす……」
「……生きながら苦痛の向こう側を見るがよい……」
バルトスは高らかに1度目のラッパを吹き鳴らす。
その瞬間、数千億匹と思われる羽が長く色が黒い群生相の飛蝗が現れ雷帝の体を食べ始めた。
飛蝗の一部は雷帝の穴という穴から入り込み雷帝の体を外部と内部から食したが、ある一定以上損傷すると雷帝の体はシュバルツ・ドラゴンの加護により元通りとなり、絶叫を通り越す終わりなき苦痛を繰り返される。
バルトスは雷帝が正気を失う寸前を見計らい2度目のラッパを吹き鳴らす。
すると大きな黒い翼を持つ狼の姿のマルコは口から青白き炎を吐きながら眷属を召喚した。
「……我が青き狼の眷属達よ……我が名に従い顕現せよ……」
顕現した青き狼達は口から青白き炎を吐き飛蝗ごと雷帝を焼き尽くす。
直ぐに周囲は肉が焼け焦げる異臭で充満する。
雷帝は飛蝗に体を食われ青き狼達に焼かれながらもある一定以上損傷するとドラゴンの加護により体が元通りとなり、苦痛が繰り返されるのだった。
マルコは雷帝の苦悶の姿を目に焼き付けると静かにロランの前に片膝をつき別れを告げる。
「……ロラン様……ロラン様と共に過ごした日々は私にとってかけがえのない日々でございました……」
「……今より我はロラン様の魔力を安定するため、ロラン様に同化します……」
と言い残すとマルコはロランの体に重なり姿を消した。
直後、ロランの左目は真紅と金色の2つの瞳孔に分かれる。
バルトスはマルコがロランに同化したことを確認すると3度目のラッパを吹き鳴らす。
するとルミールがフェネクに対し予想だにしない言葉を投げかけた。
「……さぁ、フェネク…神の門を開くため私を昇華しなさい……」
燃え盛る翼を持つ真紅の甲冑を身に纏った姿のフェネクは翼を大きく広げ、フェニックスと化すとルミールをレグルスの劫火の炎で包み込んだ。
炎を纏ったルミールはロランの前に立ち両手を差し出すと頬を挟んで自分に近づけ別れのキスをする。
「……あぁ…私の愛しい龍神様……もっとお傍にいたかったです……」
炎に包まれながらも潤んだ瞳でロランをみつめていたルミールは両手で強く抱きしめると天竜の霊力を安定化させ【神の門】を開くためロランに体を重ね同化した。
その瞬間、ロランの右目のマリンブルーの瞳に突如金色の門が浮かび上がる。
フェニックスと化したフェネクはロランの瞳に金色の門が現れたことを確認すると身を極小化し、右目に飛び込むと金色の【神の門】をこじ開けた。
フェネクはロランの右目に飛び込んだ瞬間、別れの思念を残していた。
""……親愛なる我が君…""
""……我を吸収することにより貴方様は何度でも復活する真の不死となったのです……""
""……さぁ……御力を開放してください……""
フェネクの思念に促されるようにロランは雷帝を見つめる。
すると右目の【神の門】より武装した天使達が現れ右手に持った金色の槍で雷帝の身を何度となく貫いていく。
飛蝗に体を食われ、青き狼達に焼かれ、天使達に槍で貫かれても雷帝はシュバルツ・ドラゴンの加護によりある一定の損傷を受けると体が元通りとなるのだった。
バルトスはまるでその光景を想定の範囲内であるかの如く涼しげな顔で見つめ、見納めるとロランに別れを告げる。
「……ロラン様……貴方様こそ我らの希望である次期魔王……」
「……願わくば我ら同族を御導きいただきたい……」
「……さぁ……最後のラッパはロラン様が吹き鳴らし最終審判を下すのです……」
バルトスはそう言うとロランにラッパを預け、自らをラッパとロランに同化させ消失した。
バルトスを同化したラッパは本来の姿であるギャランホルンの角笛へと変化する。
ルミールを同化した時から周囲は劫火と硝煙渦巻く赤黒い世界へと戻っていた。
今のロランの心は自分自身と雷帝への怒り一色で染まっている。
既に気持ちは固まっていた。
目の前に蠢く雷帝にバルトスの【堕天使の抱擁】、ルミールの【審判の光翼】、マルコの【世界を滅ぼす毒】、フェネクの【小さな王】を叩き込み、奈落の底に突き落とし永劫の苦痛を与え続けると。
ロランは無意識のうちに涙を流しながらギャランホルンを吹き鳴らす。
次の瞬間、ロランの左目の瞳孔は、天竜を示す金色と次期魔王たる真紅、創造と破壊を行う者を示す虹色の瞳の3つに分かれた。
この時、ロランは何かが崩れ落ちる音を聞くのだった。