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異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第3部 第1章 神がダイスを振りすぎた世界 編
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103話 歪んだ世界の中で・・・

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力(スキル)における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 「……2人ともかわりはないかい……もう少しだけ……夢を見ていてくれ……」


 「「……」」


 ロランはカプセルの中に横たわる『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』に対し申し分けなさそうに、かすれた声で語りかけていた。


 『ラプラス・ルーン・テラ』は人類が高次元同一体となる以前の時代【西暦2515年07月20日00:00:00】の環境に人類を含む動植物の生態系を復元し【不確定要素】を作り出すために同化した異界の人類と生命体を消滅させることにより、人類を本来の状態で存続させるために誕生させられた【ケイ素生命体】である。


 膨大な人類を含む動植物や地球上の気候、大気組成、海流といったあらゆるデータを蓄積・再構成し、同化した【異界の人類や生命体、惑星に関するあらゆる情報】を消去するため、『ラプラス・ルーン・テラ』に搭載されたAIは【神の領域】に達する高精度なAIであった。


 そのため、『ラプラス・ルーン・テラ』と比べ遥かに能力が劣る人類が制御できるよう聖人に等しい女性である『レクシー・クロエ』の【記憶、経験、思想、感情】をデータ化し『ラプラス・ルーン・テラ』の感情チャンクを上書きすることで制御しクリスタルディスクからデータを継承した時点で起動する仕様としたため、現在はスタンバイ状態となっている。


 一方の『レクシー・クロエ』は万一クリスタルディスクが破損した場合に蘇生させ【記憶、経験、思想、感情】を取得しデータに変換するためのバックアップ装置の役割としてコールドスリープ(冷凍睡眠)カプセルに閉じ込められ冬眠状態にさせられていた。


 当然ながら2人が返事をしないことは頭では理解している。


 ロランは2人を通して、西暦2515年における本来の世界線上の人類と不確定要素を発生させるために高次元同一体の対象として選択された【極端に世界線が異なる地球や地球消滅後に新たに発生する惑星の生命体】全ての願いである【スタイナー計画】を作動させない選択をした【罪の重さ】を再確認するため定期的にこの場を訪れていた。


 ロランは数千億を超える人類と生命体の切なる想いを断ち切った自分を罰せずにはいられなかったのである。

 

 突如『理力眼』がレイチェルの接近を感知する。


 感知から3分後、レイチェルはロランの後方より近づくと心配そうに声を掛けた。


 「……ロラン様…また…こちらにいらしていたのですね……」


 「……ここに来ると自分が犯した【罪の重さ】を確認できるからね……」


 ロランの顔は明らかに憔悴(しょうすい)していた。


 それでもレイチェルを心配させまいと無理に笑顔を作り表情筋を痙攣させている姿がレイチェルの胸を締め付けた。


 「……全てを御一人で抱え込まないでください……このままでは…心が壊れてしまいます……」


 「……レイチェル……心配してくれてありがとう……」


と言うとロランはレイチェルの【時空観測Labo】を後にした。


 【時空観測Labo】の最下層に存在する【エリア9(ナイン)】には、幾重にも厳重なセキュリティが施され、過去・現在・未来の時空情報を書き換える事ができる時空間航行船Ulysses(ユリシーズ)のほか『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』、加えてサブコードの一つである魔剣【バルムンク】を管理していた。


 天空の黒きブラックビショップから『ラプラス・ルーン・テラ』と『レクシー・クロエ』を移行する際、審判の天使であるルミールの能力により【ロラン、バルトス、マルコ、クロス、フェネク、レイチェル】以外の過去から現在に至る人々の記憶や記録から【天空の黒き城】の存在とスタイナー計画に関する一切の情報を消去させていたため、世界を救ったロラン達の功績を知る者はいない。


 現在は盟友である『アルベルト・スペンサー』の無実を証明し牢獄から助け出してから5ヶ月が経過し年も変わりアゼスヴィクラム暦737年3月を迎えていた。


 その間、メッサッリア共和国では『アルベルト・スペンサー』が自分に無実の罪を着せ政権中枢から追い出す画策を実行した元MRSIS長官『ゲーリー・ブライトマン』と協力者を根こそぎ厳罰に処すことで膿を出しきるとともに、自身が国防相とMRSIS長官を兼任することで安全保障体制の安定化を図っていた。


 ロランは2度と不測の事態が起こらぬよう『ジグムンド・シュミッツ』を大統領選挙で敗戦させるため、クロスを対抗馬である『エミット・シーン』上院議員につかせ、選挙活動を優位に展開させる策を実行させていた。


 一方、『ゲーリー・ブライトマン』の計画に資金を提供していたパルム公国はフェネクにより1週間高さ30mの【炎の壁】で包囲されたため莫大な利益を失い、さらに心に恐怖を植え付けられた。


 ロランにより心を砕かれた『フラヴィオ五世』は要請をあっさり受諾し『アレッサンド・ド・マンパシエ・ツー・ロマーノ』の身柄をロランに引き渡すのだった。


 『……哀れだな……どの世界のどの国家においても臣下の忠誠というものは、髪の毛1本ほどの価値も認められないとは……』


と考えながらもロランはレイチェルが作成した超小型GPSインプラントを繋門を使用し小脳と延髄の間にある【第4脳室】に設置し【冥王の力】で周囲の細胞を癒着させる。


 この処置により魔法や手術で取り出した場合必ず大量出血を伴う状態となりマンパシエは【籠の中の鳥】と化した。


 西クリシュナ共和国に大使として派遣し東クリシュナ帝国とケトム王国の動向を探らせていたバルトスは予定より1週間早い3週間で帰還させ、代わりにRedMace(レッドメイス)の参謀であるスティオンを派遣させ治安維持と監視役にあたらせていた。


 『……スティオンは人だけどグリーンアイズであり、【天宮開放ヒメールテンペルオッフェン】や【限りない絶対零度アンリミテッド・アブソリュートゼロ】といった固有魔法を使用できる……』

 

 『……何よりむやみに人をヴァルハラに送るような性格ではないからな……』


 ロランが予定より1週間早くバルトスを帰還させた理由はバルトスが【堕天使の抱擁ゲファレナー・エンゲル・ウムアルムング】を使用し西クリシュナ共和国と東クリシュナ帝国におけるあらゆる生命を消滅させようとしたからであった。


 『……あの命令には絶対のバルトスが怒りで【堕天使の抱擁】を使用しようとするほど醜い手段を使用するとはルドラ・クリシュナ……どこまでも救われない男だ……』


 バルトスを帰還させた直後、ロランは【至高の門番】達が使用する魔法について制限を加えることを検討していた。


 『バルトスの【堕天使の抱擁】、ルミールの【審判の光翼】、アルジュの【久遠の歌姫】、マルコの【世界を滅ぼすヴェネヌム・ペルデレ・ムンディ】、クロスの【壮麗なる赫焉】、フェネクの【小さなレグルス】といった魔法は一撃で数国の全生命を奪ってしまうからな……』


 『……僕の【破滅の咆哮】やケラウノスを転用する【ガンマ線バースト】それに【恒星の戦車】(アルクトゥルスチャリオット)もだが……』


 『…地上では広範囲ではなく限定した範囲に有効な魔法の開発が必要だ……』


【断腸の思い】でこの世界を選択したのに多くの生命を消滅させてしまったら意味がなくなってしまうとの考えからであった。


 5ヶ月という期間は、ロラン個人に対してもさまざまな変化をもたらしていた。


 メッサッリア共和国はロランが『エクサリオス』の市民に対し恐怖を与えたことを理由に【第一等大統領名誉勲章】と【大統領首席補佐官の地位】を剥奪し10年間の入国禁止措置をとり、さらにフォルテア王国に対し公爵の地位を剥奪するよう親書を送りつけていた。


 同様にパルム公国もモンパシエが帰国した直後にフラヴィオ五世がロランの行動は目に余るとして【大聖功労勲章】と【大評議会首相の地位】を剥奪し、メッサッリア共和国同様フォルテア王国に対し、ロランの公爵の地位を剥奪するよう親書を送っていたのだ。


 両国より親書を受け取ったレスター国王は『アルベルト・スペンサー』の件より2ヶ月経過したアゼスヴィクラム暦736年12月にロランを王宮『謁見の間』に呼び寄せある質問を行う。


 「……スタイナー公爵……メッサッリア共和国とパルム公国より親書が送られ、そなたの公爵の地位を剥奪するよう要求しているのだが、何か申し開きの弁はあるか……」


 「……いえ、ございません……」


レスター国王は動揺した。

 

 いつものロランであれば自分の正当性を延々と述べ【勝利】を勝ち取っていたからである。


 それが今回は一切の弁明を行わず、いつもの高圧的ともとれる威勢はなく憔悴しきった表情で返答をしてきた。


 ロランのこの姿がレスターの心にある変化をもたらす。


 「……ロランよ……全てを失う事になるかもしれないことを知りながら何故の行為であるか……」


ロランは迷うことなく返答をする。


 「……友ゆえに……そして世界の安寧を継続させるためです……」


謁見の間に集められた貴族達はロランを排除できる好機とばかりに声高に罵声を浴びせる。


 「「「「「……フォルテア王国の恥さらしが……」」」」」


罵声を浴びても片膝をつき首を垂れるロランの姿を見、レスターは『はっ……』とする。


 『目の前にいるのは12歳の少年ではないか……しかもこの少年は王国のために孤児院や高齢者施設、交通網整備といった数々の事業を行い……』

 

 『……【アヴニール国家連合】成立の立役者でもある……その者を……』


レスターは玉座から立ち上がると声を高らかに宣言する。


 「……スタイナー公爵は我が王国の誉れである……これからも公爵として我が国を支えるように……よいなロラン……」


 「……ただし両国を納得させるため国土交通大臣は罷免とする……」


 「……仰せのままに……」


 ロランは公爵の地位ばかりか貴族の地位も剥奪されると予測し、()()()()()試験に合格しカント魔法大学に入学するため、邸で謹慎している期間、猛烈に勉学に取り組んでいたからであった。


 そして現在、ロランは()()()()()試験に合格するとともにカント魔法大学の入試試験にも合格し1ヶ月後にキャンパスライフを控えていた。


 時間に余裕ができたためロランはリンデンス帝国におけるロストシップの亡霊殲滅作戦以降テレパスで話はしていたもののデートに行くことができなかったエミリアと毎週光7日(日曜日)にデートを行うようにしていた。


 デートは午後からなのでロランは庭園テラスにジェルドを誘いチャイを共にする。


 「……ジェルド…RedMace(レッドメイス)部隊は1,000名を超えたが装備は足りているかな……」


 「……十分すぎるほどに……軽量魔道装甲車は500輌、魔弾を放つ大砲付きの魔道戦闘車が300輌であり、携帯型魔導大砲が1,000門、バイパーT31拳銃が10,000丁、ラグナⅡ型対物ライフルが100丁、タイムボム50,000個、暗視ゴーグル3,000個、ボディーアーマーが3,000セットに光学迷彩シートが5,000枚ですので……」


 「……ではロンギヌスの使用も可能かな……」


 「……ロンギヌスに関してはもう少し時間が必要でございます……」


 ロンギヌスとは、ロランとレイチェルがメッサッリアの【神の矢】に対抗する兵器として開発した超電導磁石による加速を利用し砲台内の飛翔体を音速の20倍であるマッハ20で射出し物理攻撃で敵地を破壊する兵器であった。

 

 無論、ロンギヌスをむやみに使用できないよう使用時にはロランがケラウノスで発生する電力を使用する構成としていた。


ロランはチャイを飲み一息つくとまた話を始めた。


 「……RedMace(レッドメイス)部隊は今後年間200名づつ増員し2,000名を上限としよう…ミネルバが率いる狙撃部隊であるRedBullet(レッドバレット)は現在300名だが当面は現状維持と考えてるがジェルドの意見が聞きたい……」


 「……今後、大戦は考えにくいですがRedBullet(レッドバレット)部隊はラグナⅠ型対人ライフルとラグナⅡ型対物ライフルの命中度が非常に高く……5㎞先でも命中させる強者も複数いると聞いておりますので500名は必要かと……」


 「……ジェルドがそう言うならそうしよう……」


するとロランは庭園にある青い薔薇を指でさすと感想をジェルドに聞くのだった。


 「……ジェルド……庭園にある青い薔薇は美しいかい……」


青い薔薇は自然界に存在するものではなくこの世界でも遺伝子操作を行わなければ決して存在する代物ではなかった。


 「……私は美しいと思います……」


 「……そうか…青い薔薇はこの歪んだ世界を象徴しているとしても……」


 「……ロラン様が選んだものですので……」


ロランは満足げな表情をしながら静かに空を眺めている。


 『……ふぅ……この束の間の平和を作り出すのに約8年かかった……』

 

 『……今は【時を操作】する魔法は使用できないがいずれ克服する……』


 『……最大の敵となるであろう時間を操作する者との対戦を想定しアカシックレコ―ドに手を加え、【冥界の王】の重力を操作する能力で対抗する手段も用意した……』


 『……時間と空間は密接な関係があるからだ……僕は誰にも負ける訳にはいかない…』


と考えているといつの間にか午後になっており、庭園テラスにエミリアがやってきた。


 「……ロラン……待たせてしまったかしら……」


 そこにはアリーチェやルミール、アルジュとはまた違う活発で明るく吸い込まれそうな青い瞳を持つエミリアが満面の笑みで自分を待っている姿があった。


 ロランは立ち上がると笑顔で返事をする。


 「……時間通りだよ……今日はパーチェ通りに新しく出来た植物園にいく予定だけど…どうかな……」


 「……色とりどりの美しい花が見られるらしいよ……」


ロランの話に笑顔になるエミリアを見てロランは思う。


 『……この笑顔があれば……僕は……それだけで満足だ……』


アリーチェ、ルミール、アルジュの冷たい視線を背中に感じながらロランはエミリアとデートに向かうのだった。

・2019/10/05 誤字・脱字・改行について修正

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