表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移の英雄譚 ~悩み多き英雄さま~  作者: 北山 歩
第2部 第3章 謎めく古代遺跡 編
102/147

102話  カオスコントロール (3)~白き世界編~

※当作品の登場人物名称(対象はフルネームの完全一致および酷似した名称)、貨幣の名称と特徴、特有の魔法名称と特徴、理力眼といった特有の能力(スキル)における名称と特徴、国家・大陸名称、魔力導線の構造及び魔石と魔力導線を使用した発明品・兵器の構造等の内容ならびにテキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

 クリスフォードによる予知能力者(プレコグ)の未来予測は第三者により操作可能であるという説明が終わりを迎えようとしていた。


 「……よって【魔力増幅器の使用】あるいは【巨額の貨幣から魔力を吸収】することで得た膨大な魔力を使用し第三者にとって″都合の良い事象″を数値化し……」


 「……その数値を映像に変換した後、初期値として予知能力者(プレコグ)の脳に与え続けることにより、第三者にとって都合の良い未来を予知能力者(プレコグ)達に予知させることが可能となるのです……」


 クリスフォードの熱弁と反比例するかのように議会は静まり返っていた。


 議員の半数がクリスフォードの説に懐疑的かあるいは理解できない状態であり、残り半数は証拠がなければ説の信憑性にかかわらず認めないという姿勢だったためである。


 ロランは、現在の議員達の反応を予測していたためクリスフォードを演説台から下がらせると、自らが演説台の前に立ち議員達に訴えかけた。


 「……御列席の皆様…今からアルベルトを犯罪者に仕立て上げた首謀者を証人として連れて参ります……しばしお待ちを……」


 ロランは発言後、突如として【繋門(ケイモン)】を使用し空間を大きく切り裂く。


 切り裂かれた空間からはMRSIS長官である『ゲーリー・ブライトマン』がチェーン付きの首輪をつけられ、大鋏を肩に担いだバレンティナにチェーンを引かれて登場した。


 突如現れた『ゲーリー・ブライトマン』をよく見ると、その両手・両足には熱した鉄製の手袋と靴が装着されさらには先端がつぶされていた。


 議会中に″肉が焦げる独特の臭い″が充満し議員達が騒ぎ始めると切り裂かれた空間から魔道迫撃砲とバイパーT31拳銃を装備したファビアンが現れ、バイパーT31拳銃を天井に向けて構えると空砲を発砲し議員達を黙らせる。


 ロランは眉一つ動かさずに『ゲーリー・ブライトマン』に質問をする。


 「……お久しぶりです長官……随分変わり果てた御姿ですね…」


『ゲーリー・ブライトマン』からの返事はないがロランはお構いなく質問を続ける。


 「……予知能力者(プレコグ)に真実と異なる未来を予測させアルベルトに罪を負わせるよう計画を企てた張本人は……貴方ですね……『ゲーリー・ブライトマン』……」


『ゲーリー・ブライトマン』はなおも返事をせず首を縦に振ろうとしなかったため、ロランはバレンティナに目配せをする。


 するとバレンティナはゆっくりと大鋏を『ゲーリー・ブライトマン』の喉元に近づけゲーリーに発言するよう促した。


 『ゲーリー・ブライトマン』は渋々重い口を開ける。


 「……このような拷問で得た証拠などメッサッリア共和国では証拠にはならんぞ……」


 ロランは『ふっ…』と微笑むと闇属性魔法【漆黒のマリオネット】を使用し【ドラウグル】をエーテル体として召喚すると【ドラウグル】を使って『ゲーリー・ブライトマン』の首を縦に振らせる。


 「……御列席の皆様……只今『ゲーリー・ブライトマン』は自らの罪を認め首を縦に振りました……これにてアルベルトの無罪が示されました……」


 自国の長官である『ゲーリー・ブライトマン』を拷問したうえ、強引に首を縦に振らせるロランの行為に議員達は強く反発し誹謗中傷の言葉が飛び交った。


 「……スタイナー卿……ブライトマン長官に拷問をし首を縦に振らせるなど言語道断……どんな意図をもってこの行為に及んだのか釈明をお聞かせ願いたい……」


 この場にジグムンドの姿が無いことにも苛立っていたが、この議員の発言が引き金となりロランは暴走する。


 「……拷問ですと……我らがゲーリーに行った行為はゲーリーがアルベルトに行った行為と全く同じですが……何か問題でも……」


 「……そもそもアルベルトは国防大臣であり不逮捕特権がある……ならびに予知能力者(プレコグ)達の未来予知による逮捕は政治犯には適用されないはず……」


 ロランの発言に議員達は返す言葉が見つからず黙り込む。


 だが、別の議員がまたも余計な発言をしてしまう。


 「……メッサッリアでは政治犯も一般犯罪者に対しても拷問は認めていない……」

 

 ロランの瞳が紅玉に染まり、議会に冷気が充満する。


 「……実際に牢獄に行きアルベルトの姿を見たのか……もう、茶番は終わりだ……」


 「……仮に政治犯として身柄を拘束された者でも大臣と政府高官の3名以上が釈放を要求すれば身柄は釈放されるという法に則り、アルベルトを釈放してもらう……」


 「……私および『チェルシー・ミラー』国務大臣と『マシュー・オルコット』統合軍司令がアルベルトの釈放を要求しているからだ……いいな…いいよな……」


議員の誰一人発言をしない。


 「……メッサッリアは法と正義を重んじる国家だと思っていたが思い違いだったようだ……これまで国家の為に命をとして戦場を駆け巡った英雄であるアルベルトの名誉を穢した罪に対する罰を受けてもらう……」


 ロランは竜現体の姿となりマルテーレ海上空に『アルクトゥルスチャリオット(恒星の戦車)』を発動させ大量の水蒸気を発生させる。


 さらにロランは『理力眼』で【光の守護者】であり【審判の天使】であるルミールから取得した気候操作の能力を使用し、上空10㎞のジェット気流の流れを変え水蒸気を多量に含む空気ごと北上させる。


 その後ロランはスティオンから取得した【限りない絶対零度(アンリミテッド・アブソリュートゼロ)】を使用し上空5㎞の気温を冷却することで、大気を急速に不安定にし首都『エクサリオス』の上空を厚い雲で覆いつくした。


 周囲が暗くなり豪雨と雷が発生するとロランは雷魔法最上級の【ケラウノス】を発動させる。


 幾千もの雷が発生し議員達は恐怖で言葉を失い、かがみ込む。


 だが、これからが本当の恐怖の始まりであった。


 恐怖に怯える議員達に向かいロランは静かに語りかける。


 「……今より真の恐怖を経験してもらう……」


というとロランは(いにしえ)に封印されたとされる光属性魔法【白き世界(ヴァイスヴェルト)】を発動した。


 議員達だけなく『エクサリオス』の市民は眩い光に包まれ白き牢獄ともいえる空間に取り込まれていく。


 【白き世界(ヴァイスヴェルト)】はあらゆる魔法攻撃と物理攻撃を無効化し全ての音を消し去る空間を形成するうえ、個々人は隔絶された各々の空間に閉じ込まれるため会話をすることもできない。


 かつて、ツュマは地下に存在する古代遺跡の中で似た経験をしているが、人は完全に音が遮断された白い空間に閉じ込められると数時間で精神に異常をきたす。


 信仰心があつく【光が正義、闇が悪】と決めつけ自らの目で真実を確認しようとしない人々に対し考えを改めるよう、ロランはあえて光の恐怖を罰として味合わせたのだった。


 時間にして30分……


 ロランは【白き世界(ヴァイスヴェルト)】を解除する。


 議員達の目には回復した天候と元の姿に戻ったロランが映り込んでくるのだった。


 ロランは再び議員達に語りかける。


 「……アルベルトは無罪…計略の首謀者『ゲーリー・ブライトマン』はMRSIS長官の任を解き刑に伏させるでよいかな……」


 議員達からは異論を唱える者はいなかった。


 ロランは議員達から異論がないことを確認するとバレンティナに『ゲーリー・ブライトマン』の鉄製の手袋と靴を外させ、治癒魔法最上級の【スプレマシー・ヒール】で完璧に治療を施すと議会を後にした。


 議会の外に出るとロランは再び【繋門】を使用し皆を伴いアルベルトが拘束されている牢獄へと移動する。


 ロランの目の前にはやつれ果て、拷問によって手足の先端が潰され、焼きごてで両目を焼かれたアルベルトの姿がそこにあった。


 『千里眼で見てはいたが、肉眼で見るとこうも惨いものとは……』


と思いつつロランはアルベルトに声をかける。


 「……貴方の魔法力と戦闘力があれば拘束されずに済んだものを……頑固な人だ……」


というとロランは牢を腕力で破壊し【スプレマシー・ヒール】でアルベルトを元の健康体に回復させた。


 アルベルトの臭いがきつかったのでロランはアルベルトに『身体洗浄(ボディクリーン)』の魔法かけ洗浄した後【繋門】を使用し『チェルシー・ミラー』宅のリビングに移動した。


 チェルシーとアルベルトの感動の再会を邪魔しないようロランは短めにアルベルトに用件を伝える。


 「……今回、ほんの少しばかり強引に君を釈放させたので、あとのフォローは任せます……」


 「……それと今回の件でフォルテア王国に対し【神の矢】とICBMを撃ち込まれないよう8割のミサイルサイロに我が諜報部隊の者が細工を施しているから気をつけるように……」


 「……チェルシー殿、今回の件でフォルテア王国に損害賠償を請求しないよう外務大臣である『ダニエル・ウォーカー』殿に口利きを……あぁ……一応特使として来ているのでこの親書をジグムンドに渡してください……では……」


用件を伝え終わるとロランは【繋門】を使用し皆を連れ邸に帰還した。


 邸に戻るとロランは通常は顕在化していない額の『理力眼』に魔力と霊力を集結させ『理力眼』の禁忌能力である【未来で獲得する能力】を発動する。


 本質的には『理力眼』が未来のロランにアクセスし同一次元体としてロランの身に宿る『ロード・ウォッチャ―』である『アマデウス・アマルティア・クロノス』の時空間制御の能力を引き出している。


 時空間制御の能力でロランは【カオス】上に水平時間軸と垂直時間軸を設定し各時間に存在する無限ともいえる未来からアルベルトが他者の行為によりヴィルハラに送られる可能性である数億の未来を消滅させた。


 概念的には無限に広い壁に掛けられた無限の絵画から自分が受け入れられない数億枚の絵画を消去する行為を行ったのである。


 急にロランの額と両目から血が流れだしたため、リビングに集まった一同は心配したがロランは左手で皆を制すと詳細に指示を出す。

 

 「……ルミールは天候を操作し東クリシュナ帝国における日照時間を2週間ほど″0時間″とするように……」


 「……はい……厳令賜りました……龍神さま……」


 「……次にフェネク……パルム公国を取り囲むように高さ30mの炎の壁を1週間ほど展開せよ……」


 「……御意のままに……」


 「……アルジュは王国とプロストライン帝国の国境である『シェオル山脈』で眷属達を使用し精神感応魔法によりプロストラインの兵が越境しないよう幻惑を1週間ほど展開してほしい……」


 「……はいダーリン!……私はダーリンと離れたくないので眷属に任せますね……あとケロべロス数百体をおまけにつけておきます……」


 ロランはアルジュの返事を聞き深いため息をつくとさらに指示を続けた。


 「……バルトスは西クリシュナ国に大使として赴任し東クリシュナ帝国とケトム王国の監視を任せる……1ヶ月宜しく頼む……」


 「……御任せ下さい……」


 「……クロス……君にはメッサッリア共和国大統領選挙において『ジグムンド・シュミッツ』の対抗馬である『エミット・シーン』候補が有利になるよう工作を行ってもらう……」


 「……畏まりました…次期魔王陛下……」


クロスの言葉にルミールとポルトン、ピロメラの顔が曇る。


 ロランは咳ばらいをすると『マー二・エクス・ディアナ』を冥界から呼び寄せる。


 「……ディアナすまないけどラミアを連れて次回の商会連合会議に僕の代理として出席しほんの少しばかり皆に恐怖を与えてほしい……一部の商会が今回の件に関与しているからね……」


 「……賜りました……旦那様……」


というと足元に闇を作りディアナは冥界へと戻っていった。


 『ふぅ……ディアナが来ると緊張するな……』


と思いつつロランは『ピロメラ、ボルトン、レイチェル、ジェルド、ツュマ、ブリジット、リプシフター、ルディス、オム・マーラ、ミネルバ』に対して現状の体制強化を指示するとクリスフォードをねぎらいソファーから立ち上がる。


 『……これで世界が大きく変動するような種は大方刈り取ることができた……』


 『それにレクトリオンが次期魔王候補のゴディアスを倒した戦利品としてサブコードである魔剣【バルムンク】を取得してくれたからサブコードを探す必要もなくなった……』


 『……これで、やっと次の段階に移行することができるな……その前に……』


とロランはこの場にいないアリーチェとロベルトに会いに行こうとした瞬間、アルジュが興味本位から行き先を尋ねてきた。


 「……ねぇ…ダーリン…これからどこに行くのですか……」


ロランはアルジュに微笑み、皆を見渡した後に


 「……アリーチェの説教を受けてきます……」


という言葉を残しリビングを後にした。


 『『『『『……長い御説教になりそうだ……』』』』』


一同は同情する目でロランの後ろ姿を見守るのだった……


2022/11/20 大鎌を大鋏に修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ