101話 カオスコントロール (3)~変革編~
ロラン達一行は首都『エクサリオス』の中心に存在する大統領府近傍に建設した大使館に到着すると応接間へと向かった。
応接間には、既に不安と疲労が入り混じった表情の『チェルシー・ミラー』国務大臣と『マシュー・オルコット』統合軍司令が待機していた。
ロランは会談の前にバルトス、マルコ、クロス、SilentSpecterのファビアンとRedMaceの副隊長であるパイロンならびに常時ヴァルハラ送りを許可している血の豪雨所属のバレンティナに指示を出していく。
「到着早々すまないが、バルトス、マルコ、クロス、フェネクは各々部屋の隅に立ち、会話により生じる極微小な壁の振動を消滅させるように……」
「外部から壁の振動を読み取られ、会話の内容を盗聴されては困るからね……」
「「「「……はっ……仰せのままに……」」」」
「それと万全を期すため【思念壁】を展開し【千里眼】による透視も遮断するように……」
「今回に限り【千里眼】を仕掛けた能力者に対して、精神感応魔法を用いて精神を崩壊するを許可する……」
ロランの思いがけない言葉にバルトス、マルコ、クロス、フェネクは喜びを隠しきれず口元を緩ませる。
バルトス達の高揚など敢えて気にすることなくロランはファビアンとバレンティナにも指示を出す。
「ファビアンとバレンティナには謀略の首謀者であるMRSIS長官『ゲーリー・ブライトマン』の身柄を拘束してもらう……」
「……なお、ゲーリー・ブライトマンの身柄拘束には協力を仰ぐことができたトロイト連邦共和国情報保安局の精鋭部隊【黒い目】と共に実行してもらう事とする……」
指示を出し終わるとロランはファビアンに黒い目との接触先を記した地図を手渡すと2人を応接室から退席させた。
『……この際、2人には他国の諜報手段を学んでもらおう……』
と考えつつ、ロランはパイロンに指示を出す。
「……パイロン……君と君の部下には大使館の追加警護を担ってもらう……敵にはあらゆる武装と攻撃を許可する……この意味がわかるね……」
「畏まりました……閣下……」
ロランの命を受けたパイロンは日頃の枷を外され本能の趣くまま戦闘を行えると認識し、体から闘気を溢れさせ凍てつくような鋭い眼光を光らせながら警護強化のため部屋を退室した。
一連のロランの指示を目のあたりにした『チェルシー・ミラー』と『マシュー・オルコット』はただただ固唾を飲むしかなかった。
ロランは一息深呼吸をするとクリスフォードを横に座らせ2人に声をかけた。
「……お待たせしました……明日の議会で我が盟友アベルトの無実を証明し、釈放と名誉回復を勝ち取る算段をご説明いたします……」
と言うとロランは何事もなかったかのように冷静に淡々と説明を行っていく。
盟友の名誉を穢され怒りが頂点に達したこともあり、ロランは僅かではあるが体から冥界の王の冷気がこぼれだし、瞳はたびたび紅玉のように赤く染まったため、2人は恐怖心から半分以上、説明を聞き逃してしまった。
説明が終わるとロランは2人を優しく気遣いながら退室させ、クリスフォードに"明日は頼む″と目配せをすると退室させテレパスで駐在大使である『ギルバート・レイルロード』子爵を応接間に呼び寄せた。
「……久しぶりですね……レイルロード子爵……いや、能天使『レクトリオン』と呼ぶべきかな……」
ロランは部屋が崩壊しない程度に冥界の王のオーラを発散するもレイルロードは顔色一つ変えることなく挨拶を行う。
「……お久しぶりです……ロラン様……貴方様は龍神であり、かつ神の門でもある御方……」
「天界の扉の開閉を司り、我ら能天使の指揮権を持つ御方なのですから……もう少しご自重いただけますと幸いです……」
天界よりレイルロードが、自分が天界に弓を引かないよう監視役として送り込まれた事を認識しているロランはレイルロードの皮肉を聞き流し、明日の算段と今後の世界の統治手法について話し合うのだった。
翌朝、ロラン達はベースが純白で縁とアクセントに赤色を使用したまるで儀仗隊のような制服に身を包むと純白の大型馬車に乗り込んだ。
馬車は統一美と荘厳さを演出するため2頭の純白のユニコーンに引かせメッサッリア共和国議会議事堂に向け出発した。
出発直後、馬車の前後にユニコーンに跨った神々しい武具を身に纏った天使の隊列が出現する。
既に沿道では旧クリシュナ帝国よりホワイトヴィル湖南岸地域を奪還した英雄であるロランの姿を一目見ようと多くの市民が集まっていた。
ロラン一行を間近で見た『エクサリオス』の市民は、ユニコーンと神話の武装をした天使の隊列の美しさと金銀の細かい粒子を輝かせながら通過する一行の荘厳さに心を奪われ、一時的に声を失い、中にはその場に倒れこむ者が続出した。
馬車の中ではバルトスが珍しくロランに話しかけていた。
「……ロラン様……我ら魔王軍の現役の将軍が天使に護衛されるなど前代未聞……むず痒くて落ち着かないのですが……」
ロランは『ふっ…』と微笑むと親近感を抱いたのか、ほんの少しバルトスをからかった発言をした。
「……無敵のバルトスでも落ち着かなことがあるんだね……」
ロランの返しにマルコ、クロス、フェネクは苦笑してしまったのだがバルトスが不機嫌になり黙り込んでしまったため、それ以降馬車の中は無言となった。
議会議事堂に到着したロランは天使の隊列を解散させるとバルトス、マルコ、クロス、フェネクに警護を行うよう命じ、クリスフォードを連れ議会へと向かった。
議会は異様な熱気で満ちていた。
他国の者が議会で演説を行うことが5年ぶりであるとともに、大統領首席補佐官でありながら一部の高官しか謁見が許されないロランが目の前に現れるからであった。
ロランは議会の入り口でバルトス、マルコ、クロス、フェネクに待機を命じるとクリスフォードと共に拍手喝さいの中、中央の演説台まで進んでいく。
クリスフォードは演説台横の椅子に腰かけ、ロランは演説台の前に立つ。
「御列席の皆様、この度はかくも熱烈なエールをいただき心より感謝申し上げます……本討論は我が盟友である『アルベルト・スペンサー』の無実を証明することを主旨としております……」
とロランは上院、下院の議員の前で予知能力者の未来予測は第三者により故意に操作できると概要を説明する。
概要を説明し終えるとロランは、詳細はカント魔法大学教授である『クリスフォード・ド・モンパーニュ』が行うと告げ議員達にクリスフォードを紹介した。
「只今、ご紹介に預かりましたクリスフォード・ド・モンパーニュでございます……結論から申し上げると予知能力者の未来予測は強大な魔力を使用すれば第三者により故意に操作できます……」
と説明を始めた。
ロランはクリスフォードの演説中、テレパスでファビアンとバレンティナに対し何度も『ゲーリー・ブライトマン』をヴァルハラに送らないよう指示を送る。
『……我が盟友であるアルベルトを牢獄に追いやった者達には相応の恐怖を与える……何も恐怖は闇だけではないことを思い知らせる好機である……』
こののち、ロランは予知能力者達の深層意識や能力を理力眼で分析する中でアリーチェ・クロエが恐れていた【カオス】をコントロールする力を取得してしまう。
さらに議会に証人を連れてきた直後、ロランは英雄であるアルベルトを信用できずに牢獄行きを許してしまった『エクサリオス』の市民と裏で謀略に加担したパルム公国と商会連合の一部の者達に対し怒涛の如く恐怖を仕掛けていく。
あまりにも巨大な力と友を想う一途な心がロランの精神を変革させていく……