↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/58

第18話 仕事に行く朝

 翌朝、拓也が目を覚ますと、ノエルはもう起きていた。ベッドの横で伏せたまま、拓也が身体を起こすのを見ている。


「おはよう」


「おはよう」


 返事はしたが、いつものようにすぐ近くへ寄ってくることはなかった。


 拓也は顔を洗い、朝飯の用意をした。ご飯を温め、卵を焼いて二人分を並べる。


「いただきます」


「いただきます」


 二人で食べ始める。ノエルは普通に食べているが、いつもより静かだった。食べ終わってもすぐに何かしたがることもなく、拓也が食器を片づけるのをじっと見ている。


「どうした?」


「今日、仕事行くの?」


「ああ」


「行かなきゃだめ?」


「今日は行かないと」


「……休めない?」


「昨日も休んだからな」


 ノエルは何も言わなかった。


 拓也が寝室へ行き、仕事用の服へ着替える。戻ってくると、ノエルはさっきと同じ場所にいた。


「タクヤ」


「ん?」


「仕事、何時まで?」


「夕方まで。終わったら帰ってくるよ」


「遅い」


「しょうがないだろ」


 ノエルの耳が下がる。昨日みたいに脚へしがみついてくることはないが、行ってほしくないのは見れば分かった。


「今日は一人じゃないから」


「一人じゃない?」


「母さん来るよ」


「お母さん?」


「俺の母さん」


 ノエルが顔を上げた。


「タクヤにもお母さんいるの?」


「いるよ」


「どこにいるの?」


「もうすぐ来る」


 そう言った少しあとで、玄関のチャイムが鳴った。拓也が玄関へ向かうと、ノエルも後ろからついてくる。


 ドアを開けると、母が立っていた。


「おはよう」


「おはよう。朝からごめん」


「いいわよ」


 母の視線が拓也の後ろへ動き、少し離れたところにいるノエルで止まった。


「この子がノエル?」


「そう」


 母が靴を脱いで家へ上がる。


「こんにちは、ノエル」


「こんにちは」


 ノエルは母を見上げたまま、少し首を傾げた。


「タクヤのお母さん?」


「そうよ」


「ほんとに?」


「ほんとに」


 母が笑った。


「かわいい子ね」


 ノエルの耳がぴくっと動く。


「かわいい?」


「うん。真っ白でふわふわね」


 母が近づくと、ノエルは逃げずにその場にいた。


「触ってもいい?」


 ノエルは少し考えてから、拓也を見る。


「嫌なら嫌って言っていいぞ」


「……いいよ」


 母がしゃがみ、ノエルの頭を軽く撫でる。


「ほんとにふわふわ」


 ノエルは撫でられながらも、目だけは拓也の方へ向けていた。


「母さん、悪いけど今日一緒にいてやって。まだこっち来て数日だし、一人にするのちょっと心配で」


「分かった。任せて」


「助かる」


 ノエルは拓也の鞄へ目を向けた。


「タクヤ、もう行くの?」


「そろそろ行かないと」


「……そっか」


 拓也が鞄を持って玄関へ向かうと、ノエルもついてきた。母もその後ろから玄関まで来る。


 拓也が靴を履いて立ち上がる。


「ちゃんと帰ってくる?」


「帰ってくるよ」


「仕事終わったら?」


「終わったら帰る」


「寄り道しない?」


「しないよ」


 ノエルはしばらく拓也を見上げていた。


「……分かった」


「じゃあ行ってくる」


「いってらっしゃい」


 声は小さかった。


「母さん、頼む」


「はいはい。行ってらっしゃい」


 拓也は家を出た。


 会社へ着くと、そこからはいつもの朝だった。自分の席へ座ってパソコンを起動すると、昨日休んでいた分だけメールや連絡が溜まっている。


 近くの席の同僚から「昨日、大丈夫でした?」と声をかけられ、拓也は「もう大丈夫です」と返した。そのまま届いている連絡を追い、必要なものから順番に返していく。


 午前中は仕事をしているうちに過ぎた。


 昼休みになり、拓也は椅子へ背中を預けた。


「……疲れた」


 まだ半日しか働いていない。


 机の端に置いたスマートフォンを見る。昨日、Dランクダンジョンで受け取ったのは五万円だった。


 昨日は入口の近くを少し歩いただけだった。素材が出たのは一回だけで、毎回同じように稼げるとは限らない。


 それでも、五万円だった。


 拓也はパソコンの画面を見る。朝からずっと座って仕事をして、夕方までまだ何時間もある。


「……ダンジョンの方が楽だったかもな」


 昨日も帰る頃にはかなり疲れていた。オークも怖かったし、自分一人なら行こうとは思わない。


 けれどノエルがいれば、戦闘はほとんど一瞬だった。拓也がやったことといえば、歩いて、マップを見て、残った魔石や素材を拾ったくらいだ。


 何回か行って、それでも昨日と同じくらい稼げるなら。


「会社辞めるのも、考えていいかもな」


 昼休みが終わる少し前、拓也はスマートフォンを机へ戻した。パソコンの画面を開き直し、午後の仕事に戻った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。