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リナリアの幻想~動物の心はわかるけど、君の心はわからない~  作者: スズキアカネ
この恋に気づいて

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もやもや気分と口喧嘩


 休暇中に遭遇した変な事件に関しては完全に私を関わらせないという、ブレンさんの強い意志のせいで全く情報が入ってこなかった。さりげなくキューネルさんに探りを入れたけど、こっちも口が固く。私は第一発見者なのに何だろうこの仲間外れ感。

 もやもやしながら迎えた休み明けに再会したルーカスは更に身体が大きくなっていた。


 女性的な彼の美貌には男性らしさも含まれるようになり、女の子達から熱い視線を投げ掛けられることも増えた。綺麗な顔立ちをしたルーカスはもともと鑑賞用として影から見つめられることも多かったけど、ここに来て恋愛対象として注目されるようになったのだ。

 それを前にした私は更にもやっとした。それは彼に色目を使う女の子達に対してである。

 今の今までそんな素振りなかったのに、これまでずっと彼の魅力に気付かなかったのになんなのだと面白くなかったのだ。


「クライネルト君、ちょっといい?」


 お昼休みに教室前までやって来たその女性はバッチリ化粧をしており、色を含んだ笑顔をルーカスに振り撒いていた。ルーカスはそれに応じて二人でどこかへと消え去っていく。

 私は彼らを視線で見送ってため息をひとつ吐き出した。

 

 新学期が始まってからは時々こうして、彼が女子生徒に呼び出されることが増えた。

 なんの用かと言えば告白だ。みんなルーカスに恋心を寄せて、恋人になって欲しいとお願いしている。

 ──だけどどの娘もあっさりふられているそうだ。


 ルーカス本人に聞かずとも、女子寮に戻ると誰かが噂しているのだ。先週彼に告白したのは一学年上の先輩だ。美人で明るい女の子だと評判だった。そんな人でも振られたのだ。

 ルーカスのことである。きっと理想が高いに違いない……


 ……ルーカスは男女交際とかには興味ないのだろうか。どんな女の子が好きなんだろうと想像して胸がもやついた。


 もしも、彼に恋人が出来たらきっと私たちの友情は遠ざかるにちがいない。誰だって恋人の側に別の異性がいたら嫌に決まっているもの。

 ルーカスの邪魔をする気はないけど、もうしばらくは彼女を作らずにいてくれたらいいなぁと私は自分勝手なことを考えていたのである。



「ブルームさん」

「え…? はい、なんでしょう」


 廊下の窓枠に肘をついてぼけーっとしながら休み時間を過ごしていると、突然声をかけられた。

 いかん、考え事していて人の気配に全く気付かなかった。

 目の前には見知らぬ男子生徒。はて、3年生の中にこんな人いたかな。キャラメル色の髪したその青年は私を見下ろすとポッと頬を赤らめた。落ちつきなく視線をあちこちにさまよわせながら、照れ臭そうに話を切り出した。


「あ、あのさ、俺5年のケイモスって言うんだ。その……森の中に綺麗な湖があるんだ。よかったら今週の日曜、一緒に出かけない?」

「……えぇと」


 先輩だった。

 しかも話したこともない相手から休日のお誘いをされてしまった。

 私の頭の中には疑問符が湧く。

 何故? どうして? 親しくもない後輩と湖行って楽しいことなんてなにもないでしょう。


 私は困惑したまま先輩を見上げる。なんて言って断れば角が立たないだろう。


「──リナリア、先生が呼んでいたよ」

「えっ?」


 お断りの返事に迷っていると、別の方向から先生による呼び出しを伝言されて私はギクリとした。

 先生……? もしかしたら古代語学の先生かもしれない……こないだの小テストの点数が良くなかったからな……もしかしなくても追試? それとも例文書き取り?


「ほら行こう」

「ちょ、ちょっと!」


 思い当たる節があって冷や汗だらだら流している私の手首を掴んだ相手は有無を言わさずに引っ張っていく。こんな強引な事をするのは誰かといえば、不機嫌そうにムスッと顔をしかめているルーカスである。

 ……あれ、さっき告白の呼び出しを受けたのにいつの間に戻ってきていたんだろう。


 すれ違う際に先輩が「おい」と咎めるように声をかけていたが、ルーカスはじろりと睨み返していた。

 せ、先輩に対してなんという態度を……!


「ルーカス! 引っ張らなくても歩けるから…」


 その場から一刻も早く離れたいとばかりに彼が早歩きで引っ張って来るものだから、つんのめりそうになる。

 手を離してくれと言おうとしたら、逆に握られている手首を更に強く握られた。別に痛くはないけど、簡単には振りほどけそうにない。絶対に離さないという意志を感じ取れた。


 仕方なく引っ張られるまま後をついて行くと、ルーカスの足はぴたりと立ち止まった。

 そこは特別塔と一般塔の境目となる中庭だ。そこには壁などは存在せず、開放されている。そこでお昼休憩をしている生徒たちもいるけど、所属塔のテリトリーは侵さないよう、お互い距離を持って各々休憩時間を過ごしていた。


 ここに先生がいるのかな? と思って周りを見渡したけど、先生の姿なんかどこにもない。

 今の時間なら職員室に行かなきゃいけないんじゃないだろうかと思ってルーカスを見上げるが、彼はこちらに背を向けたままだ。


「ねぇ、先生は……?」


 呼び出されたなら早めに行った方が良いと思う。ていうか自分一人で行けるんだけどな……

 恐る恐る声をかけると、彼は言った。


「誰も呼んでないよ。あれは嘘」

「……は?」


 ネタばらしをされた私はマヌケな顔を晒していたことだろう。

 振り返ったルーカスは不機嫌そのものを隠さず私を見下ろしている。

 いやいや、なんであなたはそんなに不機嫌なんですかね。


「ちょっとなんで嘘つくのよ!」


 流石に意地悪が過ぎるだろう!

 私はてっきり先生からお叱りを受けるのかと思ってヒヤヒヤしていたというのに、なんでそんな嘘をつくのか!


 怒りが湧いてきた私はルーカスに怒って見せた。

 普段冗談を言わないから、ここへ来てお茶目な一面を見せようとしたとか? 冗談にしてもしていい嘘と悪い嘘があるでしょうが!


「君は変なところで無防備だから、怪しい男から引き離してあげただけだよ」


 私は怒っているのに、ルーカスは反省の色もなく偉そうにのたまった。

 いろいろと突っ込みたかった。先輩に対して失礼だとか、別に私は無防備じゃないとか、そんなことまで面倒見てもらう謂れはないとか。 


「あなたは私のお父さんじゃないんだから、そんなことしなくていいのよ!?」


 ルーカスは私をなんだと思っているの?

 私はそこまでマヌケじゃないし、さっきだってお断りするつもりでいたのにそれを妨害したのはそちらじゃない。

 私が反論すると、ルーカスの秀麗な眉がぴくりと震えた。厚意を無下にされたとでも思ったのだろうか、ルーカスはますます機嫌が悪くなった。


「君は見ず知らずの男の誘いに乗るつもりだったのか?」

「なにその嫌な言い方!」

「森の中なんかに連れ込まれたらなにされるかわかったもんじゃない。なにをされても君は文句言えないんだよ、それをわかってるの?」


 心配しているんだか、私のことが尻軽に見えているのか、お説教モードに入ったルーカス。

 カチンときた私は黙っていられなかった。


「ルーカスだって最近、女の子に声をかけられては鼻の下伸ばしているじゃないのよ! そんなひとに偉そうに言われたくないわ!」


 私はルーカスの手を力いっぱい振り払うと、胸の前で腕を組む。そしてぷんっと顔を背けた。

 なんなの偉そうに! 私が何したって言うの! 

 呼び出しに応じては愛の告白を受けまくっているルーカスに尻軽扱いされたくない!


「僕がいつどこで女性に鼻を伸ばしたって言うんだ」

「今度女の子に告白されたときに鏡で自分の顔を確認してみたら? 今日の相手も可愛い子だったよね、付き合うの?」


 我ながらチクチクした物言いだと思う。

 まるで入学当初の反抗的な自分に逆戻りしたみたいだ。

 だけど口が止まらない。言ってやりたくてたまらないのだ。

 

「それは……君には関係ないだろ」


 私の意地悪な言い方にむっとしたのだろう。ルーカスは突き放すような言い方をした。

 それに胸の奥がズキッと痛んだ。目の奥が熱くなってじんわりしてきたけど、それを堪える。


「なら、さっきのことだってルーカスには関係ないでしょ。私個人の問題なんだから!」


 完全にへそを曲げた私はくるりと方向転換すると、校舎内へ逆戻りした。

 ルーカスに追いかけられて、捕まった後もしばらく口喧嘩していたけど、見かねたイルゼとニーナに仲裁されて、強制的に仲直りさせられた。


 中庭のど真ん中で喧嘩していた私たちは大層目立っていたらしく、その後しばらくルーカスへの呼び出しが大幅に激減したとかなんとか。


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