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第1話「ナルシストはほどほどに」

 



 僕の名前は 風祭 千早(かざまつりちはや)(22)。


 高学歴・高身長・高収入(予定)


 そして、顔もいい。いや、かなりいい。


 この顔に産んでくれた両親には感謝しかない。


 子供の頃から、モテる人生を歩んできた。


 今までは“告白される側”だった。


 だが今日――

 僕は人生を賭けた告白をする。


 その相手は、隣を歩く 姫野 凪沙(ひめのなぎさ) だ。



 清楚で上品。

 まるで少女漫画から飛び出してきたような、ヤマトナデシコ。

 正直、彼女の隣に立てる男は僕くらいだと思っている。



 ……うん、今ちょっと自分でも引いた。




 ◇ ◇ ◇



「風祭さん! 見てください!」


「ん?」


「このペンギン、可愛いですよー!」


 水槽の前ではしゃぐ凪沙 さん。

 その姿すら絵になる。


「ほんとだ。姫野さんみたいで可愛いね」


 決まった。


 今のは自然だった。

 爽やかで嫌味がなく、それでいて好感度も高い。


 完璧だ。


 心の中でガッツポーズを決める。

 すると彼女は、少し困ったように笑った。


「もう、からかわないでください」


 照れてる。

 これは間違いなく照れてる。


 ……いける。


 今日の僕は完璧だ。

 そう確信した、その時だった。




 ◇ ◇ ◇




「カーーーーット!!」


「……え?」


 突然、背後から怒号が飛んできた。

 驚いたペンギンが一羽、ズサーッと腹滑りする。

 ごめん、ペンギン。


 振り向くと、そこには見知らぬ男が立っていた。


 黒いキャップ。

 サングラス。

 無駄にデカいメガホン。


 どう見ても“クセ強監督”である。

 だが問題はそこじゃない。



 顔が――僕だった。




 ◇ ◇ ◇




「俺?!!」


「はいNG〜」


 “僕監督”は面倒臭そうに台本をめくる。


「今の冒頭のナレーションみたいなやつ、なに?」


「え?」


「爽やか気取ってるけどさ」


 監督はため息を吐いた。


「ナルシスト漏れてるから」


「うっ」


 図星だった。


「あと、姫野さんへの台詞。アドリブ禁止」


「アドリブ?」


「台本には『そうだね』しか書いてないから」


 監督は僕を指差した。


「なにあのキザな台詞」


「え?」


「“姫野さんみたいで可愛いね”って。あれ引いたよ」


「引いてないだろ!」


「何人かブラウザ閉じた」


「ブラウザってなんだよ!」


 監督は深いため息をつく。


「いい? ナルシストは用法用量を守らないと事故るの」


「薬みたいに言うな!」


「というか、台本って何なんだよ!」


「え、主演なのに持ってないの?」


 監督がパンッと手を叩く。


「スタッフー! 主演に台本!」


 するとどこからともなく黒子が現れ、スッ……と僕に台本を差し出した。


「そこは黒子なんかい!」


 なんでそこだけ演劇スタイルなんだよ。




 半信半疑のまま、僕は台本を開く。


 すると次のページには――


『テイク2』


 とだけ書かれていた。




 怖い。




 雑なのに圧がすごい。




「次は台本通りにやること。はい、よーい……アクション!」




 強引すぎる。




 ◇ ◇ ◇




「風祭さん! 見てください!」


「このペンギン、可愛いですよー!」


「……そ、そうだね」




 台本通りに返す。


 すると凪沙 さんは、ぱあっと顔を輝かせた。


「あ! あっちには風祭さんみたいなペンギンがいます!」


 目線を向ける。


 そこには、水面に映る自分を見ながら、首の角度をキメているペンギンがいた。


「いや!あれ絶対ナルシストだろ!」


 思わず素でツッコむ。


(しまった。)

(やってしまった。)


 しかし、凪沙 さんは目を丸くしたあと、


「ふふっ」


 と吹き出した。


「風祭さんって、面白いですね」


「……思わず素が出たよ」


 凪沙さんは一瞬きょとんとして、それから柔らかく笑った。


「そんな風祭さんも、好きですよ?」


 ドクン、と心臓が跳ねた。


 思わず監督を見る。


 監督は無言で頷いていた。


 ……まさか。


 嫌な予感がして、僕は震える手で台本を確認する。

 そこにはしっかり書かれていた。



『そんな風祭さんも好きですよ』



「台本通りなんかい!」




 ときめきを返せ。




 ◇ ◇ ◇




 僕は観念して、最後の台詞を口にする。


「姫野さんが笑ってくれるなら、良かった」


 数秒の沈黙。


 そして――


「カーーーーット!!」


 監督が勢いよく立ち上がる。


「いいねぇ!! 今のは良かった!!」


「疲れたんだけど……」


「はい次回の台本」


「え?」



 渡された表紙には、こう書かれていた。




 ---




 第2話


『ナルシスト、遊園地で死す』




 ---




「待て待て待て待て!!」


「僕、死ぬの?!!」


 監督はニヤリと笑う。


「この通り演じないとね」


「失敗するよ?」


 その笑顔だけが、 なぜか少し寂しそうに見えた。



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