幕間 昔話と大人の思惑 3
「ワハハハ!!」
いきなり、お父様の笑い声が響いた。
「ナンテン医師、さっさと受け入れろ、と申されるか!
いやはや、噂には聞いていたが、センバ一族に見初められたら逃げられない、だったか?
なかなかの圧で迫りますな!これはふつうの令嬢であれば逃げられないであろうよ。
だが、我が娘はこれでも魔物を倒して来た身であるからな。
セイラー、どうする?
前にも言ったが、アイシア家からセンバに名を連ねる者が出れば、我が家は非常に助かる。
が、今までキチンと公爵家としてやって来た。これからも、センバの名が無くても特には困らん。
セイラー、お前がどうしたいのだ?
嫌ならば断るぞ」
お父様が、私の意思を確認してくれていることに、本気で驚いた。
「…正直に申します。
ニワトコ様、私は貴方の事を何も知りません。
アイシア家の娘であることに価値を見いだして近寄って来」「それは違う!貴女が良いのだ、例えアイシア家から勘当されても、平民でも、貴女が良いのだ!!」
スパーーーーーン
テン爺のスリッパが炸裂する。
「ぼっちゃま!
こんなに愛されてるお嬢様に対して、家から勘当などと、縁起でもない事を!!」
「うむ、ニワトコ殿、少々不愉快であるな」
「すまない、御当主殿!そう言う意味ではないのだ、ただ、家ではなく、セイラー嬢、貴女の、貴女でなければダメなのだと伝えたかっただけなのだ!!」
「……話が進みません。
そこまで、私を求めて頂けるというのは、嬉しい気持ちもあります。
が。
あと2年学園もあります。
ニワトコ様の事もよくわかりません。
本当に好きにして良いとお父様がおっしゃるのであれば、学園の卒業までお互いの事を知る時間を頂きたいです」
「知ってくれ、いくらでもなんでも喋るぞ!
テン爺、俺も学園に通うぞ!!」
「無理に決まっているでしょう!
ぼっちゃまは3年前に卒業されております!!
ダメですよ!公爵家に護衛として雇ってくれとか言わないですよね?!
2年も領地をほったらかしにして、王都に留まるおつもりですか?!」
「しかし、俺の女神が!!どっかの誰かと出会ってしまったら!!」
テン爺に詰め寄るニワトコ様に向かって
「仕事や義務を放棄する人は嫌いです」
「俺は領地を守るぞ!!!これから帰って魔獣を殲滅する!!!」
クルっとこっちを向いて、拳を天に突き上げ宣言するニワトコ様。
「…手のひら返しがすごいな」
お父様も若干引いています。
「お嬢様!!すでにセンバの扱い方を心得ていらっしゃる!!
ぼっちゃま!!
この方は逃がしてはいけません!全身全霊を持って、お仕えしてください!!」
「もちろんだ、テン爺!!さぁ、俺の女神、なんでも言ってくれ!!」
「いやいやいやいや、次期辺境伯様ですよね?
私に仕えるのではなく、領民のために仕事してください」
「うぉぉぉ!!俺の女神はなんて慈悲深い!!さすが女神!!」
膝をついて私に向かって拝むの、止めてもらえます?
「……無駄にアツイな。
では、こうしよう。
普段は手紙のやり取りを。そして、学園が長期休暇の時に、セイラーは辺境へ行ってみればいい。
そこで、辺境伯へ嫁ぐ意味を感じて来なさい。
実際に辺境の暮らしをして、大丈夫そうなら婚約を結ぼう」
「長期休暇の際は、この領地の魔物退治を!
……私は必要ないということですか?」
やっぱりお父様から期待されてないのですね…
「そうじゃない、そうじゃない、セイラー。
確かにお前がしてくれていた領地の魔物討伐は非常に助かっていた。
でも、これはお前の一生の問題だ。
これでも私は、娘の幸せを願っているのだよ」
伝わっていなかったようだが、と、お父様はポツリとつぶやいた。
そして始まった私とニワトコ様の交際期間。
千切れんばかりに尻尾を振る大型犬よろしく、長期休暇の度に迎えにくるニワトコ様にキュンとしたり
ニワトコ様のご両親に会うたび抱き締められたり
私に声をかけた兵士にニワトコ様がすごい勢いで割り込んできたり
張り切って魔の森を駆け回るニワトコ様に付いて行けなかった私の身が危なくなったり
そんな私の姿に焦ったニワトコ様から火柱が上がり、魔の森をグランド一面分黒焦げにしたり
ハチャメチャな日常だけど、溢れんばかりの愛情を受けた。
その頃にはもう、愛情に飢えて、ひねくれていた私はいなかった。
ニワトコ様が愛している領地を守るため、
センバの一族を守るため、
武力ではセンバに貢献できない私は、在学中、燻っていた人材をスカウトして辺境に連れていってみたり、
学園卒業後、2年待ってもらって、社交界でセンバの地位を高めた。
魔物討伐に必要な武器、薬品に使う薬草、センバ産なのよ?
田舎貴族だなんて侮辱するなら、ご自分のところで全部賄ったらいかがかしら?
王家の騎士団こそ、討伐で民衆の支持を集めないとねぇ?
センバの価値を、センバが狙った人材を逃さないのを植え付けてから
やっと、私はニワトコ様の求婚を受け入れた。
こんな私でも待って下さったニワトコ様とセンバの民たちに感謝しかない。
私はここに骨を埋めるわ。
ウフフ。
ねぇ、エアトル家の双子は、センバが見つけたの。
……例え、王家でも横槍は許さないんだから。
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