泥沼に沈むオークキング
「マークさん、エリックさん!」
エリックの後を追うように、俺たちも大急ぎで先程オークキングが姿を現した場所へと戻ってきた。
マークたちが対峙しているオークキングに目を向けると、僅かながらだが傷を負っている。
だが、それ以上にマークやエリックの消耗の方が酷いように見える。
「ツバサくんたちか。ここは危ないって言ったじゃないか! どうしてここに……」
俺たちが戻って来たことに気が付いたマークは、強い口調でここに戻ってきた理由を問い詰めてきた。
それもそのはず。マーク自らが身体を張って、時間稼ぎのために対峙しているのに、俺たちが戻って来たら本末転倒だからな。
「そんなの、加勢するために決まってるじゃないですか」
「馬鹿を言うな! それより、さっきのゴブリンキングはどうした?」
マークの問いかけに答えると、それを聞いていたエリックまでもが強い口調で俺たちを咎めてくる。
そして、俺たちが対峙していたゴブリンキングの顛末が気になっているらしく、そのことについて問い詰めてきた。
「それだったら倒しましたよ。――ツバサがね」
「何だって? ――わかった。加勢を頼もう。どうせ、お前らは逃げろと言っても聞かなそうだしな」
エリックの問いかけに対し、リオンが俺の一歩前に出てきて意気揚々と答える。
俺たちがゴブリンキングを撃破することは予想外だったのか、エリックは酷く驚愕している。
しかし、言っても無駄と諦めただけかもしれないが、俺たちの加勢を認めてくれた。
「良いか? ゴブリンキングをどうやって倒したかは一旦置いておくが、オークキングもゴブリンキングをごつくしただけで、ほとんど同じようなものだ」
「そういうことなら、ツバサ? また、さっきのやつを使えば良いんじゃないか?」
「あぁ。俺たち4人なら、時間だって十分に稼げそうだしな」
俺たちの加勢が決まると早速、エリックからオークキングの情報が簡潔に展開された。
話に聞く限りだとゴブリンキングと大差ないように聞こえるが、ゴブリンキングとランク差があることから相当硬い相手と見て良さそう。
同じく、エリックから情報を受けたリオンは、真っ先にゴブリンキング戦のときと同じ作戦を企てる。
カイルもそれに賛同する姿勢を見せており、普通であればこれで作戦が決まるだけの勢いはあった。
ただ、俺の魔力の戻りが不十分という理由から、リオンが企てる作戦が使えそうにないことを伝える。
「――ごめん。ポーションの効用で多少の魔力は回復したけど、アースバリスタが撃てるほどは回復できてないんだ」
「そっか……。じゃあ、仕方ないな」
「あぁ、どれだけの魔力を使ったのか計り知れなかったからな」
ゴブリンキング戦で使用したアースバリスタは、絶対的な威力を誇っている魔法であることは間違いない。
試したことはないから根拠はないが、オークキングだって倒せる自信は大いにある。
だが、その反面で大きな欠点を抱えている魔法でもある。
その一つが魔法の溜め時間。ただ、この欠点は俺一人では成し得ないが、パーティ行動をする今において、仲間の協力によって解消できている。
実際、さっきも格上であるゴブリンキングを仕留めることにも成功した。
そして、もう一つの欠点が魔力の消費量。まさに今、問題になっている欠点がこれに当たる。
絶対的な威力の魔法を作り上げるため、ほとんど全魔力をこの魔法の一撃に注いでしまう。
その結果、この魔法を一回でも使用すれば、たちまち俺の魔力はガス欠といっても過言でない状態に陥ってしまうというわけだ。
「オークキングの攻撃が来るぞ! 準備は良いな?」
「「はいっ!」」
エリックの掛け声で俺たちも武器を構え、オークキングを取り囲むように分散する。
これにより、オークキングに一瞬の迷いが生じたようだったが、俺を最初の標的に選んで攻撃を仕掛けてきた。
俺は攻撃が当たる寸前のところでしっかりと回避すると、その攻撃を空振りした隙を狙って、他のメンバーが次々と攻撃を仕掛けていく。
俺たちが一方的に攻撃をする展開にはなっているが、どの攻撃も致命打とはならず長期戦に発展している。
既にみんなの疲労の色も濃くなってきており、流石のエリックやマークもそれを気にしているようだ。
「みんな大丈夫か!」
「はい。――ですが、このままじゃキリが無いですよ」
「分かってる。どうにかして、やつの動きさえ止められれば良いんだが……」
エリックがみんなの状態を確認するため、みんなに呼び掛ける。
たしかに、エリックが言うようにヤツの動きを止められる手段があるなら、それに越したことはない。
動きを止められないにしても、もう少し作戦が立てられる地形であれば良かったんだけどな……。
んっ? 地形……、そうか! もしかしたら、何とかなるかもしれないな。
今、即席で思い付いた魔法であることから、結果までは保証できない。
ただ、上手くいけば、恐らくオークキングの身動きを封じることはできるはず。
残っている魔力も心配だが、これくらいの魔法であれば辛うじて大丈夫だと思う。
それに、オークキングから受ける重圧でみんなも疲れ切っているし、やるなら今しかない。
「皆さん! オークキングの周りから離れて!」
思い付いた魔法はそれなりの範囲があるため、下手すれば仲間たちをも巻き込みかねない。
そのため、俺は早急に人払いを行いながら、同時に魔法を放つ体勢を作る。
そして、オークキングの近くからみんなが離れたことを確認して、俺は即席で思いついた魔法を発動させる。
「マッドスワンプ!」
この魔法は初めての試みだったが、俺の思い描いていた通り、瞬く間にオークキングの立つ周辺の地面が泥沼へと変化した。
それと同時に、オークキングは少しずつ泥沼に沈み始めており、沈むことを拒んで必死にもがき始める。
しかし、それが沈むことに拍車をかける結果となり、気が付けばオークキングの下半身は完全に泥の中に沈み切っていた。