事態収束
「ど……どうなってやがるんだ」
突如、出現した泥沼にオークキングが沈んでいく瞬間を目の当たりにしたエリックさんが驚愕の様子を見せる。マークさんも言葉を口にはしていないものの、エリックさんと同じく開いた口が塞がっていない。
俺は水魔法でオークキングが沈んだ状態のままの泥沼と化した地面から水分を取り除き、元の固い土に戻す。初めての試みではあったが、俺の思った通りオークキングの身動きをある程度は封じることに成功した。しかし、なおも腕を豪快に地面に叩きつけるなど可能な限りで暴れることをやめない。
「マークさん、エリックさん! オークキングの動きを封じましたので、あとはお願いします!」
「う、うん……わかったよ」
「あとは任せろ!」
今の俺にオークキングにトドメを刺せる手段までは思いついておらず、ここから先はマークさんたちに託す。すると、すぐさまエリックさんが剣を固く握り直してオークキングの背後から一直線に飛びかかり、心臓を一突きする。
「ぐわぁ……」
エリックさんの一突きにより、上半身だけで暴れ散らかしていたオークキングの動きも徐々に弱まりを見せた。
「マーク! 今だ! 思いっきりやってやれ!」
「うん、これで……最期だぁ!」
エリックさんに続き、マークさんも剣をしっかりと握り直す。そして、オークキングの真正面に立ち、雄々しく吠えながら風をも切り裂けそうな速さで剣を振るう。その一振りでオークキングの首はあっけなく斬り飛ばされ、オークキングの動きも完全に静まった。
「「よっしゃー!」」
オークキングの絶命が確認されると、カイルとリオンのハイタッチを交わす音がこの場に響き渡った。それから、まもなく二人が笑みいっぱいの表情で俺のところに駆け寄ってきた。
「やったなツバサ!」
「ツバサなら、また何かやるとは思ってたぜ!」
「えっ? あっ、ちょっ……うわっ!」
俺は駆け寄ってきたカイルとリオンから称賛の声を浴びせられながら揉みくちゃにされる。もちろん、称賛されるのは嬉しい限りだが、俺はオークキングの動きを封じ込めただけにすぎず、俺ばかりが持て囃されていることに歯痒さを感じる。
俺たちがじゃれ合っている中、マークさんとエリックさんも少し遅れて俺たちの近くにやってきた。
「一時はどうなることかと思ったけど、君たちに助けられちゃったね」
「あぁ、そうだな。さすがに今回ばかりは俺ら二人だけじゃ、辛かったからな。俺たちからも礼を言わせてもらうぜ」
「い……いえ、そんな、お礼なんてとんでもないです。俺は、オークキングの動きを抑えるだけで精一杯で――」
カイルたちからの称賛だけでも歯痒さを感じてるというのに、エリックさんたちのお礼の言葉に耐えられるはずもなく、さすがの俺も否定に走った。
「だけでって――十分すぎるぜ、まったく」
「ところでツバサくん。さっき使っていた魔法のことだけど、少し聞いてもいいかい?」
「あぁ、それは俺も気になってたんだ。土魔法――とも違うように見えたが、あの魔法は何だったんだ?」
オークキングとの戦闘が終わって一息ついたところで、マークさんたちから魔法のことを聞かれた。そら、少なくともオークキング戦は俺の魔法がきっかけで戦況が大きく変わったのだから、気になって当然か。
カイルやリオンも同じように気になっていたようで、マークさんたちの質問を機に俺はじゃれ合いから解放された。
「えーと……あれは咄嗟の思いつきですが、土魔法と水魔法を混ぜて発動したもので、強いて言うなら――泥魔法? ってところでしょうかね?」
「何? 二つの魔法を混ぜるだって? そんな魔法の使い方は聞いたことねぇぞ。なぁマーク?」
「う、うん。――でも、僕らが魔法職じゃないから、知らないってだけかもしれないけどね」
「まぁ、たしかにそれもそうか」
俺はオークキング戦でやったことを包み隠さずに話す。そうは言っても、オークキングが立っていた周辺の地面を土魔法と水魔法で再形成しただけで、もっと言うなら土と水を混ぜ合わせただけと単純明快で大したことはしていない――のだが、エリックさんからは初耳だと返され、他のみんなもまた呆れた様子となっていた。
俺的にはむしろ、形状を整えたり、当てるために狙いを定めたりといった細かな操作を要求されたアースバリスタの方が神経を集中させる必要がある分、難しいと感じるまである。まぁ、何がともあれ、咄嗟の思いつきで放った魔法だったが、上手くいってよかった。
そんな中、当初、オークキングを引き連れてきた冒険者たちが二人の援軍を連れてこの場に戻ってきた。
「ここか? お前ら、無事か! オークキングが出たって知らせを聞いて応援に来たぞ。――って、何なんだこれは……」
彼らは到着するなり、目の前にある半身が地面に埋まったオークキングの亡骸を見て、驚きの声を上げた。
「あっ! レックスさんとクリフさん」
「おぅ、ツバサ。ゴブリンキングやらオークキングやらで大変なことになってるって聞いて急いで駆けつけたんだが、どうやら一足遅かったみたいだな?」
「久しぶりだねツバサくん、それにカイルくんも」
応援に駆けつけたのはいつか、俺とカイルが二人でポロッサを目指して平原を横断していたときの道中で縁あって出会ったギルドの護衛隊のレックスさんとクリフさんの二人だった。




