↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドの受付でチート持ち主人公の噛ませ犬にされた男の一生  作者: 雨宮ヤスミ
マッコイ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/222

76.女神官クロエ

 

 

 カタリナの妹だという女神官はクロエと名乗った。大祭司セシル聖の娘であり、今の「戦の神殿」の大祭司代理の地位にあるという。


「とは言え、父の代理ですので……。名目上のことです」


 ザゴスとエッタはクロエを伴って、話を聞くために広場の片隅にあるベンチへと移動した。


「……そうですか。お二人は、姉とお知り合いで」

「おう……まあな」


 実際知り合いなのだから何も問題はない。とは言え、「設定」を語ったザゴスは若干の罪悪感を覚える。


「姉の最期は、どんなものでしたか?」


 「天神武闘祭」に出たことは話さないことになっていたので、ザゴスは言葉を選びながら語った。決勝戦では懸命にダンケルス家の従者――ザゴス自身のことだが――と戦っていたこと。惜しくも敗れた後、突然勇者に首を落とされたこと。


「だけどよ、そのク……偽勇者のことをずっと本物だって信じててよ……。騙されてるとは言え、その尽くす姿勢は立派だったと思うぜ」


 それだけは、ザゴスの正直な気持ちだった。だからこそ、哀れにも思えるのだが。


「姉も、本望だったと思います」


 クロエは目尻を人差し指で拭った。


「勇者と信じていた彼の力になれたのだから」


 その「彼」に殺されたんだがな。ザゴスの分厚い胸板の奥が痛むようだった。


「あなたは、偽勇者のタクト・ジンノという少年と面識はあるのですか?」


 一通り話し終わったと見て、エッタが口を開く。どこか突っかかるような言い方にも聞こえたが、クロエは穏やかに応じた。


「いえ……。でも、お告げがありましたから、わたしも姉も彼が勇者だと信じていました」


 まっすぐにエッタを見据えてそう言って、「それが、あんなことになるなんて……」と瞳を伏せた。


「待ってください。あなたもお告げを聞いたのですか?」

「ええ。あれはちょうど姉が帰ってきた時のことでした」


 今から2か月ほど前のことだ、とクロエは回想する。


「わたし達の父である大祭司セシルは、この5年ほど病に臥せっているのですが、あの時容体が悪化して……。わたしはアドイックへ文を送り、姉を呼び戻しました」


 幸いにもセシル聖は持ち直し今も存命であるが、その際に姉妹にお告げが下ったという。



「これより14日の内に、私はアドイックの片隅に少年を召喚する。この少年こそが『ゴッコーズ』を受け継ぎし、次代の勇者である」



 職業柄か、お告げの文面をクロエは一字一句諳んじているようだ。


「お告げは、他には何と?」

「わたしが聞いたのはこれだけです。もしかすると姉は、それ以上のことを知っていたかもしれませんが、今となっては確かめる術もありません……」


 カタリナはすぐにアドイックへ戻り、タクト・ジンノと出会った。それからの流れは、かつてビビが語った通りであろう。


「では、何故『戦の女神』は魔王のいない今、勇者を呼んだと思います?」

「おい、エッタ」


 矢継ぎ早に質問を繰り出すエッタを、ザゴスはたしなめるような目で見やる。


「構いませんよ」


 クロエはそう笑顔を作って応じる。


「でも、それは……難しい質問ですね」


 首を傾げながら彼女は続けた。


「そもそも、今や勇者は『偽物だった』ということになっています。わたしも姉も勇者が本物だと信じていましたが、真実はどうだったのか……」


 イェンデルの話していた通り、神官たちの側は偽勇者の烙印を受け入れているようだ。


「『戦の女神』以外が、勇者を召喚した可能性は?」


 エッタの問いかけに、クロエは一瞬だが目を見開いた。


「それはどうでしょうね……?」

「何かご存知なのですか?」


 その様子を目ざとく見つけ、エッタは更に踏み込む。


「いいえ……。召喚というのは神の所業です。人の身でそれを成すことなど、あまりにも発想が飛んでらっしゃるというか……」


 さすがは「七色の魔道士」ですね、とクロエは言い足した。


「それとも、何かそういう理論をお持ちなのですか?」

「構想中、とだけ言っておきましょう」

「待て、何だその妙なハッタリは……」

「できません、とは言えない学者の性というものです」

「学者でもなんでもねェだろ、お前……」


 胸を張るエッタに、ザゴスは呆れたように肩をすくめた。その様子を見て、クロエは口元に手を当てて笑った。


 少し雰囲気の和んだそこに、「おい」と粗野な声がかかる。


 金属のぶつかり合う音と、複数の足音が近づいてくるのを聞き、ザゴスは警戒するようにそちらを見やる。


 円柱形の大兜(グレートヘルム)と胸当てを身につけ、長い棍を手にした集団――武闘僧(バトルモンク)だ。十人ほどはいるだろうか。顔を覆う兜の隙間から注ぐ視線からは、強い敵意のようなものが感じられる。


「キケーロ……、それにパブロも……」


 ベンチから立ち上がったクロエが、きゅっと身を固くしたのが見て取れた。


「よう、大祭司代理様。ご機嫌麗しゅう」


 先頭にいた、兜を被っていない二人組の内、赤い長髪を束ねた方――キケーロが慇懃に礼をする。


「そんな連中を連れて、何の悪巧みだ?」


 青い短髪の方、パブロがねっとりとした視線をクロエへ向ける。


「よそ者を招いて、妙なこと企んでるんじゃねえだろうなあ?」

「違います! この人たちは姉さんの冒険者仲間の方で……」

「カタリナの? はん! あの役立たずの犬死女のお仲間かよ」


 赤毛のキケーロは鼻で笑う。それに応じるように後ろに控える武闘僧(バトルモンク)の一団から笑い声が起きる。


 その声の嘲笑の色に、思わずザゴスの足が動いた。大股で進み出て、キケーロを険しい視線で見下した。


「役立たずだ? 犬死だ?」


 ふざけるんじゃねェぞ、とザゴスは拳を握る。


「テメェらがカタリナの何を知ってやがる!?」


 あぁん? とキケーロはザゴスを見上げ、首をかしげる。


「何だお前は?」

「いやいや、俺らはよーく知ってるぜ」


 横からパブロが口を挟んでくる。


「せっかくの勇者を導けなかった役立たずだってなぁ!」


 またも武闘僧(バトルモンク)の一団から笑いが起こる。うつむくクロエを横目に、ザゴスは怒鳴りつけた。


「テメェらの身内じゃねぇのか!? よくそんなこと言いやがるぜ……!」

「はん! あんな無能な女、身内じゃない方がよっぽどよかったぜ!」


 違いねえぜ、とキケーロはニヤニヤとうなずく。


 ザゴスの目には、この二人と「天神武闘祭」でのタクト・ジンノの姿が重なって見えた。


(ここの遅れた文明じゃわからないかもしれないけど、『怠け者の味方が一番の敵』ってオレの世界じゃ言うんだよ。ザコのくせに口出してきて、ホント邪魔――)


「テメェらァ!」


 遂にザゴスは腰の斧に手を伸ばした。あんな死に方をした彼女を、ここまで嘲笑われて我慢できるものではない。


 得物を抜き放とうとしたとそこに、ザゴスにすがりついてくる者がいた。


「やめてください!」


 クロエであった。ザゴスの正面に回り、腰にすがりつくようにして大男を押しとどめる。


「いいんです、いいんです……!」


 いいわけあるかよ、とザゴスは奥歯を噛みしめる。


「おいおい、デカブツよぉ。威勢がいいのはいいが、マッコイの街中で武器を使っていいのは、俺たち武闘僧(バトルモンク)隊だけだぜ?」


 そんな二人を見ながらも、パブロは意に介した風もない。その隣、同じくニヤニヤを消さないままのキケーロが、無造作に棍を振り上げた。


「こんな風になぁ!」


 キケーロは鋭い突きを繰り出した。その瞬間、クロエがザゴスから体を離す。


「危ない!」


 身を翻し両腕を広げ、クロエは棍の前に躍り出る。その切っ先は止まることなく、彼女の喉元を突いた。


「クロエ!」


 突かれた衝撃でクロエの身体は宙に浮き、背中から広場の石畳に落ちていく。口から吐き出された鮮血が舞う。


 それらが何故だかゆっくりと見え、ザゴスは腕を差し伸べて彼女の体を受け止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。