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35話


「マルエスの勝利を祝って乾杯!」

「かんぱーい!」


 食事処を貸切るわけでもなく、役所に料理を持ち込む祝勝会。偶然にでも被害者遺族と遭遇すると面倒だからと、この形に落ち着いた。

 料理自体は持ち込みもあるが、基本的には依頼して作ってもらったものなので味も量も良いものだ。


「うまいにゃー」

「ほら、シマちゃんこっちも食べな!」


 これにはシマも大満足。専属の給仕係もついている。


「パウラサちゃんもこれどう!?」


 当然と言えば当然、パウラサも大人気だ。


「パ、パウラサたん、ぼぼ僕と結婚しよう!」

「キモいのよ?」

「ほら、パウラサちゃん嫌がってるじゃない。パウラサちゃんは私と住むよねー?」

「リオンは部屋を片付けてから言おうよ……」

「パウラサちゃんが来るってなったら頑張るわよ!」

「ゴミと一緒に住んでるのね?家族がゴミなら、きっと貴方もゴミね。近付かないで頂戴な」

「僕の部屋は綺麗です!」

「大きなゴミが一つは落ちてるじゃない。嫌よ」


 普段あまり喋らない職員もアピールを頑張っている。

 そいつは碌なもんじゃないから近付かない方が良いぞ、とかパウラサが困ってるから手加減してやれ……とはあまりならない。仮にも俺を選んだ相手がモテモテなのは優越感で満たされる。そいつ、俺を選んだんですよ。


 散々俺から拒否ってることなど今は気にしない。


 しかしこうなると、今パウラサに「やっぱなしで」って言われると少しショックに思うのかもしれない。……それはそれとして、すごくホッとするけど。


「サンケタさん、今日はデクルの定期調査やってくれてたみたいですけど、うちのとこに調査来てませんよね?」


 と言うのはマサルくん。


「ん?あー、そういやそうだ。昨日話したからやった気になってたな。まあでもいいよ」


 問題あると思ってないし。罠も仕掛けるのではなく解除する方だ。


「そういうわけにもいきませんよ。それに、表面だけじゃ分からない部分を確認するための調査なんですから」

「じゃあマサルくん自分でやっといて?」

「身内がやってもしょうがないですって……」

「いいって。それ言ったらシマやってるのだって俺なんだし、変わらん変わらん」

「えぇ……」


 シマは俺の知らないところでは殺してなさそうだったので問題なし。

 パウラサは聞いてない。意味ないから。



 各々が好き勝手に喋り、楽しみ、ストレスを発散し終えた頃。

 腹が膨れてきて手が鈍り、喋り付かれて静かになってきた。そんな中、ポツリとこぼれる声。


「こんな宴会も、最後ですかね……」


「そうならないよう、頑張るんじゃないか」

「そうね。まだ調査すらまともにしてないのに、その結論は早すぎ」


 リオンの言う事は全くその通りで、まだなにも始めていないのに諦めるのはおかしい。


 ただ、俺も含めてそうなんだが「村や町は数年で捨てるもの」とエベナで育った者たちから散々言われている以上、そう遠くないうちにそのタイミングが来ると思ってしまっている。


 中には固執し町を守ろうとしてしまったばかりに、町ごと皆殺しにあった者たちもいる。

 そうならないためにも「早めに逃げないと」という意識がどうしても産まれてしまうのだ。


 それからもうひと盛り上がりすることはなく、しんみりとした雰囲気の中で祝勝会は幕を閉じた。





 次の日の調査の際、特にすることもなかったので顔を出してみた。


 ザックリと穴を掘る人と護衛で別れている。そこにはいつかの肉体労働くんもシャベルを持って参加していた。全然深くまで掘れないせいで、魔法を使うまでもないと思われる場所では魔力を節約しているようだ。


「あれ、サンケタさん。何か用ですか?」

「おつかれさん。見に来ただけ―」


 アケミさんがこちらに気付いたので、軽く挨拶だけする。仕事の邪魔をしても仕方ないし。


 調査隊とは距離を置きつつ、森へ近付く。


「何するにゃ?」

「んー、暇つぶし?」


 答えを濁しながら、森の入口の木を触る。なんとなくの固さと生え方を把握する。

 そしてリュックから斧を取り出し、振る。


 ガッ!


 ……一発でスパッと出来れば格好良いのだが、途中で止まった。


「かったいなぁ」


 使いやすそうな細めのやつを選んだのに。


「なんか作るのにゃ?」

「前教えてもらったやつ、どんな風になるのかなぁって」

「あれかにゃ。つまらんにゃ」


 拒馬ってやつだ。

 まだ開拓村だった時には似たような物があったはずだが、こんな固い木だったのか?それとも、森の奴とそこら辺のは違うのか。


「森の木ってこんなに固いものなの?」

「固いやつと柔らかいやつがあるにゃ。そんなことも知らんのかにゃ」

「所詮は役人だからね」


 この森で狩りをしたこともあるが、木を切ろうなんて思わないしな。


「そんなんじゃ罠を作れないにゃ」

「デクルには必須の知識そうだなー。ま、とりあえず出来るだけ硬くて重い方が良いだろうし頑張らんと、だ」


 再び斧を入れ、切り倒せるように削っていく。


「護衛のやつなら一発だったにゃ」

「そういうの得意そうな奴だったしな」


 護衛と言うか殺し屋っぽい感じだったし、切るのは得意そうだ。

 俺には切る技術もなければ、単純な筋力でもアルマンとかの方があるだろうし。俺向きの仕事でないことは確かだ。

 あくまで娯楽の一環だし、どうでもいいけど。


 そうして木を倒して、丸太をゲット。これを半分にして交差させて……あれ、そうすると六本くらい欲しいな。

 もう少し加工しなきゃいけないことを考えると、気まぐれにしては面倒なことに手を出してしまったかな?



「あら、こんなとこにいたのね」


 気付けば時間が経ち、パウラサもやって来た。 

 切り倒したはいいが、良い感じに加工するのに手間がかかり、さらにはどうやって組むのが良いか分からず手こずっていた。目指したい形はあってもデカくてロープを回すのが大変。一人でやるもんじゃない。シマはざまぁみろという風に見ているだけで、手伝ってはくれなかったし。


 一度ある程度組み自立させられるようになってからは、一気に進んだのだが。


「うん、下手くそ」


 形にはなったものの、結び方とか適当だ。簡単に緩むかも。


「先に言われちゃったかしら」

「ロープワークはやったことなかったからしょうがないだろー。念動力系の人がいたら絶対そっちに任せるべきだし」

「これくらい出来なきゃ話にならないにゃ」

「デクルじゃないんでな。このサイズってお前でも作れるの?」

「無理にゃ」


 無理なんじゃねぇか。サイズ差考えればそうだろうとは思ったけど。

 それでも木を一本支えるくらいは出来ただろうから、手伝って欲しかったところ。


「こんなデカいものスマートじゃないにゃ。器用であってこそデクルにゃ」

「だってよ元トップ」

「私はそもそも手作りしないもの」

「デクルの風上にも置けないゴミにゃ」


 デクルとしては真っ当な用で実は滅茶苦茶だよな。まあ本人にとって不要な工程を踏む意味なんてないんだろう。下手に手を汚さないところは長っぽいっちゃ長っぽいのかな?元なんだけどさ。


「これって使い物になるのかしら」

「作ってみると、微妙そうだなって思った。ある程度デカいやつだけなら良いんだけど、小さいと刺さりゃしないよな」


 本来の用途なら障害物としてそこにあれば良いだけなんだろうけど、傷を嫌がって止まってくれるようなやつらじゃないし。

 その強引さを利用して尖らせた先端に突き刺されば良いと思ったものの、小さいやつがぶつかって突き上げればあっさり弾き飛ばされて無駄になりそう。


 小さければ膂力も小さいし、とかも思ってたが、流石にこの程度の重さならチョトスは動かせる。

 最低限俺が本気で押しても動かせないくらいの重さは欲しい。しかしそれは結局地面に突き刺さなきゃ俺には出来ないことで、突き刺せてれば穴を掘れるってことだからそもそも困ってないんだよな。


「相手によって上手く行く罠が違うのが難しいところにゃ」

「その通りだなぁ」


 いかに北側の防衛ラインが都合良かったのかを思い知らされる。


「この城壁を棘だらけにでもすればよかったのかな」


 城壁は最初に専門の上級冒険者を雇い生成してもらい、それを加工したものだ。そのため強度が落ちていても、かなり丈夫。とはいえそれでも重量級のモンスターに繰り返し体当たりされればそれほど持たないだろう。


「どうかしら?尖っている先端は脆くなるものよね。一点に力が集まるのも良くないかもしれないのよ」

「じゃあ石じゃなくて金属とか」

「それこそ魔法で生成すると問題が多いんじゃなくて?」


 分からんが、まあそう都合よくは行かないんだろうな。


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