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30話

「戻ったぞー」

「おか……なんか仲良さそうね?」


 俺とアケミさんが二人ともデクルを持っている状態なので、他所から見ると面白い状態かもしれない。


「おかえりなさい。その様子だとシマちゃんから話は聞いたのでしょうか?」

「おかえり。あれ、それ腹黒兎じゃねぇのか?」

「聞いた聞いた。んでもってこいつは兎で合ってるよ。干されたんだってな」

「兎は危険だって聞いているがいいのか?」


 ちゃんとした質問をしながらもスススッとアケミさんに近付きパウラサを撫で始めているアルマン。


「雰囲気丸くなってはいる。でも四桁選手なのは忘れんなよ」

「四桁選手?」

「殺害数」

「……間違いなく指名手配するべきデクルですね」


 マサルくんはまともな感性を持ってくれていて助かる。安全なデクルと暮らしているから感覚が狂わないのかもしれない。


「お前って町の住人殺してる?」

「誰が誰なんて知らないわよ。でも私は町で活動してないのよ?」

「そういやそうか」


 デクルの森ではデクルに殺されても仕方ない。他のモンスターもいる以上、デクルも遠慮なんてするわけにはいかないからだ。……という体裁で嵌めるんだけどな。


「意外としっかりしてるの?この子」


 リオンさんもアルマンと一緒にパウラサを構い始める。


「意外とも何も、れっきとしたデクルの元長だぞ。嫌らしい部分はしっかりしてる。あと、今の発言をそのまま受け取るのは間抜けだから気をつけろ。さっきはシマを泣かせてたし」

「泣いてないにゃ」


 非常に悔しそうだっただけで泣いてはないっけ?


「あとサンケタさんがこてんぱにやられてましたね。すごく強いんだと思います」

「サンケタ泣いてたにゃ」

「見てすらいないだろうが」

「こんなに可愛いのに強いのか……ミルスみたいだな」


 正解。


「で、新しい長と会ったんだろう?どんな感じだった?」

「可愛かった」

「どんな感じだった?」


 他の奴に話を振る。


「ふっくらした三毛猫で、ふてぶてしい感じが可愛かったわね」

「……」

「ええぇっと、偉そうな感じにしてましたけど頭は良さそうでしたね。デクルの管理は大変だと言っていて、苦労もしてそうでした。演技かもしれませんけど」

「良い気味ね」

「ということは本当に大変なのか?」

「うるさいのよね。ああしたいだの、こうするべきだの。私にとってどうでもいいのに」


 部下を持つ上司の悩みだな。


「マンタスじゃ、ねじ伏せるだけの力も足りないだろうから見物ね」

「大丈夫なのか?」

「知らないわよ。私はもう関係ないもーん」

「真面目な話、統率しきれないし純粋な力も足りないというなら、森からモンスターが来る可能性は上がるか?」

「かもしれないわね」


 簡単に言ってくれるなー。西からのモンスターをあまり気にしないでいい状態ってかなり良い話だったんだが。

 俺みたいな特別デクルが好きなわけじゃない者にとっては、森の脅威を防ぐ代償にデクルと共生しているみたいな面があった。それがなくなってしまえばもう見返りがない。


「折角北からの襲撃を防いだというのに、今度は西か」

「しかも西からは防げるか分からんぞ」


 北より西のモンスターの方が弱いが、戦場が整っていない。城壁上から弓矢を射ることは出来ても、真っすぐ突っ込んできたモンスターを撃ち抜くチャンスは少ない。


「北と同じようにもう一つ壁を作るか?」

「あれは天然ものだから強固なんだ。魔法で作ったら強度が持つのは精々一週間だろう。常設するものじゃない」


 魔法はあっという間に色んなものを作れるが、強度の点で言えばあまり優れてはいない。特に継続的に強度を維持するのは非常に難しく、ちゃんとした素材を用いて建築する必要がある。


 そしてモンスターの攻撃に耐えうる素材で町の一面を覆うのは非常にコストがかかる。


「とりあえずは塹壕だな。アケミさん、土魔法使える人の手配お願い」

「えーと、分かりました」

「流石に今すぐじゃなくて良いんじゃない?今日明日で襲撃来たりはしないでしょ」

「見るからに旅行帰りだしな。今日は休んどけ」


 それもそうか。素直に帰るとしよう。


「さっきまで、祝勝会どうするとか話してたのにねー」

「ですね。でもやることはやりましょうよ。英気を養っておくは大切だと思います」

「うむ、そうだな!」


 役に立つと思ってデクルたちを連れてきたが、水を差しちゃったかもしれないな。この感じだと襲撃に関することも特に問題ないみたいだし、聞かなくとも平気そうだ。




 さて。


 家の前に着き立ち止まる。前と言ってもまだ五十メートルはある。


 パウラサがついて来ているので不機嫌なシマだったが、今は和らいでいる。


「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」


 眼の前の自宅に行くだけのはずなのにね。不思議。



 ◇



「おはようございます」

「おはよ……」

「暗いですね。どうかしました?」


 翌朝出勤すると、マサルくんに聞かれた。


「先に町長室入ってくれない?」

「ああ、そういうことですか。もちろん嫌ですよ」

「そっかー」


 昨日家に入るのは、結構大変だった。なんせ数日分の猶予があったのだから、シマがやりたい放題である。襲撃のせいで一日は手を付けられなかったとほざいていたが、十分酷い有り様だった。

 家に入るだけでなく俺の寝室がゴールとされていて、少しだけとはいえ久しぶりに家を壊された。おかげでパウラサが入ってきた際に「汚い家ね」と評価された。実際に壊れた個所や焼け焦げた跡があるのだからその通りだ。

 

 そうした格闘を経たわけだが、まだこの部屋が残っている。気も滅入るというものだ。



 なんとか仕事を始めると、気になる西側の防衛関係の前に、溜まっていた仕事をすることになる。


 特に目を引くのはやはり、北からの襲撃の報告書だろう。

 予定通りに壁と罠を上手く使い、弓兵と東側にいた冒険者が活躍し少ない被害で撃退した。ほぼ完璧と言っても良いだろう。ただし、あくまで少なかっただけで犠牲者はいる。


 亡くなった冒険者は三人、衛兵が一人。


 冒険者については、何もない。今回はこちらから依頼を出したわけではないからだ。


 冒険者はモンスターを狩り、その死体を売って金にする。風俗街の住民が上手く乗せたのかもしれないが、自分でも活躍できそうだと踏めば金稼ぎのために自分から狩りに行く。

 衛兵が上からバンバン倒しているのを見れば、美味しい狩り場だと思って自然と行くだろう。ここら辺が上手く回らないほど敵が強いのならば、どっちにしろというものだ。


 しかし死んだ衛兵については、殉職と言うことになる。町を守るために死んだ、英雄だ。


 ただこの扱いというのは難しいもので、正解と言うものが存在しない。普段、食料確保のために働いている狩人にも死者は出るのだ。


 冒険者が活発的に働いているわけではない村や町にとって、狩人の存在は重要だ。食料の供給はほぼ狩人によるもの一本となり公務同然となり、町から手当も出す。


 つまりこちらも公務のために死んでいるも同然なのだが、この場合は主に当人の実力不足、注意不足という形で処理される。手当を除けばほぼ冒険者と同じ形の歩合給になるため自己責任だからだ。


 貢献度が高いのは、むしろ衛兵よりも狩人などの食料確保をしてくれている方。中には今回の襲撃でも戦ってくれた者もいる。

 逆に衛兵でも狩人として働こうとする者がいるが、そういう人は衛兵としてのシフトに穴を空けることになるため、基本的には臨時の衛兵という扱いになりメインは狩人になる。


 狩人の方が貢献してくれているにもかかわらず、衛兵は英雄で狩人は何もない。


 これだけ聞けば、間違いなくおかしい。


 しかし狩人は冒険者と同じようなことをしており金を稼げる。対して衛兵は時間を町のために使い副業も難しいので、金を稼げず多くのことを町の判断に任せることになる。

 この金と時間の違いが大事なわけだ。だからこそ町としては最大限、殉職者には名誉として英雄扱いをする必要がある。


 うちの町の衛兵は普段サボっているような者も多いが、有事の際にしっかり動いてくれているのなら俺としては文句はない。しかし、普段から頑張ってくれている狩人より上かというとそんなことはなく……。


 おかしな話だし理不尽なのだが、おかしくない。

 死が近いせいで、死に対する価値基準、判断が分からない。


 しかも今回の犠牲者はたった一人。遺族もいる。


 死者が一人で済んだのなら万々歳なのだが、当人と遺族にとってはたまったものではない。むしろ、何故うちの家族だけが死ななければならなかったのかと、嘆くことになるだろう。


「さっさと終わらせるかー」


 もともと今日は黒い服を着て来ておいた。こちらの世界では何の意味もない風習だが、転生者はその無意味を求めることもある。合わせるだけ合わせておくのが吉だ。


「ちょっと行ってくる」


 事務所に一言だけ声を掛け、速足で出て行く。変に気を使われて代理を申し出られても面倒なのだ。何せ相手は英雄の遺族。一番町で偉いのは俺なのだから、俺が行くのが早い。ユグロコに向かったのと同じ理由だ。



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