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25話

「シロモモ」

「なし」

「マフラー」

「なし」

「えーと、モモマフ」

「……フマキラーとかどう?」

「なんかアケミが笑ってるけど?」

「くそっ」


 マフラーの流れで行けるかなって思ったのに。

 アケミさんが言ったこと以上のものは俺も思い浮かばない。縞猫にシマと名付けたんだぞこっちは。アケミさんも同レベルみたいだけど。


「モモヤマ」

「なし」

「……はうらさぐぎろ」

「何ですかそれ」


 はらぐろうさぎ。


「濁点は嫌ねー」

「はうらさくきろ」

「もっと可愛く」

「ぱうらさくきろ」

「……悪くないかしら?」

「パウラサちゃんですかね?」

「パウラサ、うん、素敵な響きね」

「え、そうなの?」


 適当言ってたら決まった。


「パウラサちゃん、よろしくお願いします」

「こちらこそ不束者ですが」


 ……よろしくお願いしたくはないかなぁ。今更無駄な抵抗かもしれないけど。




 一波乱あったせいで一泊しながらの移動時間もあっという間に感じ、無事ユグロコに着いた。ずっと雑談していた気がする。


「ありがとうございましたー」

「ではまた帰りの際に」


 御者もここでゆっくりして、同じタイミングで帰ることになっている。


「俺は先に仕事済ませちゃうから、先に宿行ってゆっくりしながら予定でも決めてて」

「分かりましたー。じゃ、行きましょうパウラサちゃん」

「はーい」


 自然に別れて、俺はユグロコの町長のいる方へ。


 しばらく歩いて後ろをチラッと確認し、ついて来ていないことを確認する。


「……ふぅ」


 まあ、こっちに付いて来るより向こうの方が楽しいだろうしね。何なら俺だって仕事せずに済むのなら交代して欲しい。


 目的の場所へ着き、ドアをノックする。マルエスと違って役所ではなく、個人宅兼事務所といったところ。町の特性に応じてこういうのはバラバラだ。


「はーい!こんちには!」

「こんにちはー。サンケタです」

「サンケタさん、お久しぶり?ですよね?」

「そうですね。アイリスさんお久しぶりです」


 耳と尻尾が揺れ動いている元気な女性。人化した珍しいミルスで、町長のお付きとして働いている。


「ではこちらでお待ちくださーい」


 玄関横に続けて設けられている待合スペースに座る。

 アイリスさんは玄関でサンダルを脱いで戻っていく。プライベートと仕事を土足かどうかで分けている形だ。待合スペースの前には扉があり、そこが町長の仕事場。


 息をついたタイミングで、アイリスさんが戻ってくる。


「どうぞー」

「ありがとうございます」


 良い香りの紅茶だ。移動手段としては快適な旅だったが、それでも疲れるものだし邪魔も入った。人心地着いてとても良い感じだ。うん、美味しい。


「着いたばっかりなんです?」

「そうですね。今回は先に仕事を終わらせて、その後に少し観光でもするつもりです」

「ではお茶菓子も先に持って来ちゃいますね。今お持ちいたします」

「わざわざありがとうございます」


「召使かしら?不様なものね」

「えっ?」


 ……泣きたい。


「ミルスが人の下でせっせこ働いてるとか、落ちたものよね。ああごめんなさい、ミルスじゃなくてあなた個人が下等なだけだったかしら」

「……デクル?」

「あら、覚えてないの?流石ね。体だけデカくなって肝心なところは退化したみたい」

「クソ兎!」


 お、呼び方が同じだ。ミルスは兎みたいな見た目も結構いるって話だけど、「クソ」を付ければこっちになるのかね。この世界で最初の「兎」は何なのかも気になるけど。


「私にはパウラサって素敵な名前があるから、そう呼んでくれないかしら?」


 俺の方をチラッと見てから、ドヤ顔でアピールしている。


「いや帰れよクソ兎」


 邪魔だよ。


「ミルスのくせに人型になってる危篤な個体がいるみたいだから、気になっちゃうじゃない?」

「知らねぇよ。こっちは人間だぞ、人型で何が悪い」

「ミルスは誇り高い種族なの。ほかの種族に魂を売るような真似、同族にどう思われているのかしら?さぞ忌み嫌われているのでしょうね?だから地位のある人間の元で媚び売りメイドさん?面白いわねぇ?」

「マジで帰ってくれ……」


 頭を抱える。

 ライン越えしまくってるだろこれ。


「ねぇねぇどうなの?詳しく教えてくれないかしら?」


 アイリスさんは涙ぐみながら、唇を噛み、すごくやるせない顔をして引っ込んで行った。

 殴りかからないだけ偉い。ここで騒動を起こすわけにもいかないんだろうな。ちゃんと周りを気遣ってる。


「人の心とかないの?何で喧嘩売るの?」

「デクルの心しかないわね」


 一番いらないやつだ。



 そのままアイリスさんは戻って来ない。当たり前だけど。


「お前のせいでお茶菓子がなくなったんだが」

「アケミを置いてお腹膨らませるようなことがなくて、良かったじゃない」


 何度も溜息を吐きながら待っているとガラッと目の前の扉が横に開き、OLっぽい女性が出てきた。互いに軽く会釈をする。OLさんは俺よりも隣のパウラサの方を珍しそうに見ながら、そのまま外へ出た。

 OLさんを見送ると同時に、再び扉が開き中から”できる女性”といった風貌の方が顔を覗かせる。


「こんにちはミサキさん」

「あらサンケタさん、どうも。アイリス知らない?」

「勝手に着いて来たこの害悪のせいで泣いてます。よければ俺も助けて欲しい」

「……デクル?」

「例の腹黒兎です。殺していいですよ」

「あまり物騒なことを言うな、そっちの町とは違うんだ。それにアイリスが泣き寝入りするくらいなら私でもどうにもならん」


 アイリスさんが泣いたのは言葉で心を抉ったからだけどね。


「……とりあえず、先に仕事を済ませるか」

「そうしましょう」


 こいつがいる以上、時間が掛かればリスクが増える一方だ。


 立ち上がってミサキさんへ続いて部屋へ入る。サッと扉を後ろ手に閉じてパウラサを閉め出すが、その引き戸の真ん中をパカッと押戸にして開けて入ってきた。


「……厄介だな」

「とても」


 このやり取りだけでも多くを感じ取ってくれたようだ。


「実際どれくらいの強さなんだ?」

「真っ当な上級冒険者くらいあるかと」

「ミルスの戦闘員ほどということか。確かに私やアイリスでは足りないな」

「アイリスさんって戦闘はあんまりなんですか?」

「私の元で働いてくれるような優しい子だからな。そもそも暴力が好きじゃない」

「素敵ですね。交換しません?」


 シマとセットでどうぞ。


「死んでも断る」


「そもそも腹黒兎とはデクルの長ではなかったのか?なぜ森を出て単独でお前について来ている」

「こっちに来る道中に脅迫されました。今後付き纏うそうです」

「結婚するの!祝って!」

「……大変そうだな」

「とても」


 なんかちょっと涙が溜まってきた。なんで俺こんなことになってるんだろう。


「……すまない、仕事の話に戻ろう」


 ミサキさんからすればアイリスさん泣かされて文句の一つでも言いたいだろうに。申し訳ない。


 本題の風俗の話については、やはり中々の迷惑を被っているようだった。

 なんでも、マルエスの町で密度が高い状態にも関わらず町の拡張を行わないからと、こちらにも風俗を出店しようとした輩がいたらしい。

 何の確認も許可も取らず営業を始めようとしたところで事態に気付き拘束。マルエスではこれが普通だと喚き、自分は悪くないと主張していたとのこと。


「風俗街である東地区の中なら風俗を開くのは自由ですね。営業後に上納金さえ納めれば問題ありません」

「どちらにせよユグロコにはユグロコの法がある。こちらで裁くことにはなるが、そうか。一応そちらでは自由なのか」


 この世界での町は国と言い換えても良いほど個々で独立している。ルールもそれぞれだ。


「あくまで東側の風俗街の中だけですけどね。どうせそいつら、うちのも含めて法令の確認なんて最初からしていやしませんよ」


 西側では勝手に始めたら普通に問題だ。もっとも、デクル蔓延る中に出店しようとは思わないみたいだが。


「そういうものかもしれんが……それほど民度が低いのか?」

「あれ、そいつら反冒険者にも捨てられた哀れなゴミですよ。知りません?」


 かなりの大移動だったはずだし有名だと思ってた。


「知らん。反冒険者はうちにも邪魔しに来たし、最近あちこちで活発に動いているというのは知っていたが……まさかこんな近所に集まっていたのか」

「もう反冒険者ではないですけどね。多少地位のありそうな反冒険者も死にましたし」

「殺したのか?」

「いえ、こいつが勝手に」

「……なるほどな」

「あー、これに関しては本当に事故ですよ。俺は何も企んでません」

「そうか。こちらとしてもうんざりしてた面があるから、どちらでもいい」


 信じてくれない。俺もどっちでもいいけどさ。


「しかし治安の低下をこっちにも波及させるのはやめてくれ」

「その通りですね。見張りでも立てるようにします。……あ、それか令状みたいなのくれません?それを見せて『お前らはこの町から出てもゴミ扱いされるぞ』って思わせたい」

「そんな上手くいくか?」

「少なくともユグロコ行くことは減りそうだし良いじゃないですか。家賃渋ったり税金渋ったりと調子乗って来てるんで、ちょっと引き締めてるところなんですよ。いかにマルエスがあいつらにとって良い場所が教えてあげようかと」

「犯罪者の温床にはするなよ?」

「それくらい箔が付くようなら、ルディにも助けてもらえますよきっと」


 知らんけど。


「私がどう思おうと、場合によってはミルスが勝手に動くこともあるかもしれないと言っておく」

「そうならないよう、誠心誠意対策に励もうと思います。申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げる。下げられる頭は下げるに限る。


「はぁー……。まあ気を付けてくれるならなんでもいい」

「ミルスとの関係は良好なんです?」

「私たちはともかく、仲人は良好だな。長と結婚するというのなら、そちらには負けるかもしれないが」


 全然嬉しくない。


 でもこの話を外から聞いたら結構なことだよな。真っ当な相手なら完璧な友好関係を築いたと言えそう。弱小種族な上に害獣だから意味ないけど。



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