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24話

「……で、何か用あるの?」


 俺たちではどうにもならないので、諦めた。ちょっと反省していたアケミさんも、俺からの許可を貰いモフっていて幸せそうだ。なんだかやってることが女児っぽい。


「あなたに求婚するために来たの!」

「……本当は?」

「本当よ?」

「え、マジ?」

「まじ卍」


 え、普通に嫌だ。気持ち悪い。


「え、普通に嫌だ。気持ち悪い」

「心の声が漏れてるわよ?」

「声に出さないと伝わらないことってあるかと思って……」

「でもあなた好みの女の子に変身できるわよ?」

「それって『でも』になるの?」

「フワフワできゃるんきゃるんの女の子よ?」


 きゃるんきゃるんとは?


「見た目が全てじゃないので」

「でも見た目は大事よ」


 正論ではある……。


「俺じゃなくても良いじゃん。俺よりも歯ごたえのある冒険者とかの方が良いでしょ」

「そう思っていた時期が私にもあったわ……」


 遠くを見つめ潤んだ寂しそうな瞳。捻り潰してやりたい。


「デクル狩りが盛んな時があったでしょ?」

「うん。あー、そういう?」


 真っ先に思い出すのは狂気的な冒険者だ。


「トラウマよあんなの。怖くてたまらないわ。あなたの胸の中で慰めてくれない?」

「嫌だけど」


 そのせいでポッキリ折れちゃったからの共生だもんな。トラウマというのはわりと納得できる。


「あの、痛いのだけど?」


 アケミさんが兎を思い切り抱きしめている。アケミさんもトラウマになってそうだ。人間側の味方だったのにね。


 全然離そうとしないのを見て兎は諦め、話を続ける。どうせ本当は痛くなんてないだろうし。


「克服するために余所に出かけたりもしたのだけど、ダメね。強い人間が怖くてたまらないの。遠くで沢山遊んだだけになっちゃったわ」


 遊びはしてるのね。遊ばれた人達が浮かばれない。


「でも、か弱過ぎたら何にもならないって最近気付いたの。しっかりしてそうでも、全然遊んでくれない人もいるってことにも」


 教授たちのことかな?あまりにも呆気なく死んじゃったみたいだもんね。こいつ流では本当にただの挨拶のつもりだったんだろう。聞いた感じ俺だって逃げるしか無かったと思うけどね。


「そしたら、いっつも構ってくれるあなたの大切さに気付いたの。怖くなるほど強くなくて、遊べないほど弱くない。私のことを想ってくれる存在」


 その想い、負の感情ですよ。


「デクル同士でくっ付けよ」

「嫌よ。私からすればみんな子供なんだもの」

「俺からするとお前はお婆ちゃんだけど?」

「人間なんて見た目の年齢が全てでしょ」


 それはそう。見た目若くて普通にしてれば年齢がバレることなんてないし。


「お前から見て俺は他のデクルと同じで子供なんじゃないのかって話なんだけど」

「あなたが仲間を先導する姿、すごく格好良いもの。好き。……きゃっ、言っちゃった」


 室内で指示してるだけだし見る機会なんてあったのか?


「もうお前の感情はどうでもいいから、種族を率いるために森に引きこもっていてくれません?」

「私は仕事よりあなたを優先するから安心して!」

「……引っ越すしかないか。今までありがとうマルエス」

「付いて行くから安心してね♪」

「えっと……本気?」

「冗談でこんなこと言わないから安心してねっ。私は誠実な女よ~」

「いつまで逃げれば良いのやら……」

「私が死ぬまでかしら?」


 一生追いかけ回すという宣言。軽く言ってくれるが、俺の人生に大きく関わる。


「……うおおおおおおぉぉ!」


 ミサキさんからクソ兎を引き抜き、そのままドアを開け飛び降りる。着地時には掴んだ兎の顔面を地面に押し付ける。と、消える。


「お客さん!?」


 御者が飛び降りたことに気付き驚く。


 背後に出現していることを察知しステッキを振りぬく。耳に掠ったがしゃがんで避けられた。鉄串を投げる。が、兎の下の地面が無くなっていたらしく下に姿が消える。すかさず小瓶を投げ入れる。そしてもう一本を。


 次の瞬間、俺とクソ兎の場所が入れ替わる。俺の手作り爆弾を嫌がり入れ替えた。だが最初投げたのはブラフ。宙に浮かせるようにその場に軽く投げておいた本命の小瓶が爆発する。


 数本まとめて鉄串を穴の壁に刺し自重を支え底の刃に触れることなく落下を止め、ステッキを穴の縁に引っかけて力を入れ勢いよく穴を抜け出す。

 焼け焦げ倒れた兎の姿が目に映る。鉄串を投げる。刺さるとポンと耳心地良い破裂音が鳴りハズレと書かれた札が出現する。その札と周囲に鉄串を投げると、ハズレ札が走り出し避ける。


 走り始めた札はすぐにクソ兎の姿に変化していき、俺の追加の鉄串を避ける。地面に刺さった鉄串は、まるでその地面が発射台だったかのように俺へ射出された。ステッキで弾く。一瞬俺の視界上で兎とステッキが重なった瞬間に兎の姿が消えた。


 鉄串がさらに発射される。俺の投げた分以上の数だ。足元ではまた落とし穴が生成されそうな気配。大きう跳躍しながら逃げるが、そこをまた鉄串の射出に襲われる。


 空中だが手の平を爆発させ、爆風を利用し姿勢を変え避ける。何とか地面に足が届いたかと思ったが、異様に滑る。足での着地を諦めそのまま低空でステッキの頭を地面に刺し、引っかけて横に大きく移動する。


 進行方向にこちら側へ飛び出している岩の槍があるのを見て、再度ステッキを使い急制動。しようとしたところその一帯が落とし穴になっており落ちそうになるのを……


「ドーン!」

「ぐはっ」


 落ちるのをステッキで防ごうとしたところで下からクソ兎が飛び出してきて、鳩尾に頭突きを食らい弾き飛ばされた。


「はい勝ちー!いえーい!」


 ダメージに苦しむ俺の横で小躍りする兎。



「……えーと?」

「多分、気にせず乗せれば良いだけなので御者台に戻っていただければ良いと思います……」

「そうですか……。分かりました」

「すいません……」



「仕方ないわねぇ」


 とクソ兎に運ばれる俺。せめてアケミさんに運ばれたい。




 ガタゴトと、車のタイヤが上下しているであろう音が聞こえる。衝撃は吸収されてるのであまり揺れることはない。


「負けちゃいましたねぇ。でも、格好良かったですよ。本気で戦ってるとこ始めて見ました」


 アケミさんに膝枕されながら慰められる。


 クソ兎は放り出された俺の腕を勝手に動かして抱きかかえられてる形にしようとしている。そのまま首を絞めるどころか引きちぎる勢いで力を入れる。が、「そういうプレイが好きかしら?」となんともないように言われたので諦めた。


「本当に強いんですね……」

「そうでもないわよ?便利だけど規模が小さければ強度も弱いもの」


 どうにもならなかった俺の前で謙遜するな死ね。


「それにサンケタはシマと組んでこそって感じするわよ?あ、今後は私とでも良いかも♪」

「嫌だよ先に俺が殺されるじゃん」


 シマはあれでいて一度した約束は結構守るし、共通の敵がいれば信頼できる。


「シマちゃんと一緒に戦うんですね」

「サンケタも小狡い戦い方するから、噛み合うのよねきっと。今みたいに周りに何も無いところだとそれでも難しいけどね」


 俺の代わりに説明して、しかも合ってるのがなんか嫌。


「せめて帰ってからにしろよ……」


 折角の旅行が。


「そしたらあなた逃げるじゃない」


 ……仕事とアケミさんの関係で逃げられないタイミングを狙ったのか。


「でも向かう先はユグロコだぞ?ミルスがいるが良いのか?」


 こいつだってミルスたちには敵わないはず。受け入れられるわけもないだろうし。


「私一人なら平気よ?昔約束したもの、こっちから手を出さない限りは手を出さないって。共同戦線のためのやつだけど、終了条件を指定しなかったから継続よ。ミルスが約束破るわけないから安心」

「即殺されなかったのか?」

「南西軍なら距離を保ってれば逃げ切れたのよ。筋肉馬鹿の集まりだったから」


 軍とか知らんが。年の功なりの知識はあるんだな。


「デクルと約束とか苦肉の策だったんだろうな、可哀そうに」


 敵と戦ってるのにこんなやつが歩いてたら集中できない。鬱陶しくて仕方なかったんだろう。


「おかげでこうして一緒に旅行も出来て、嬉しいわね?」

「それでも会ったら殴られたりしないの?」

「ヤバいのには近寄らないわよ」


 殴られるんだな。こいつが喧嘩を売るようなことをするんだろうけど。


 一応仕事もあるんだけど、大丈夫かな?今言うと絶対付いてきそうだから言えないけど、なんとか仕事には連れて行かないようにしたい。目的が謝罪なのにこいつがいたら終わりだろう。アケミさんと一緒に待機してもらうか?ちょっと怖いが、今殺されてないなら殺されはしない感じはする。


「一応言っておくけど、アケミさんに害加えたら絶対許さないからな」

「そんなことしないわよ。あなたのことは理解してるから、安心して頂戴?」


「……本当の本当に、俺に付き纏うつもり?」

「あなたの女になるつもり。ポッ///」


 罵詈雑言も純粋な殺意も流された上でこれだもんな……どういう神経何だか。


 俺にはどうにもならないことが分かっているから、もはやどれだけ拒否しても意味がない。

 これまでも殺そうとしたことは多々ある。交渉の席じゃなくとも、チャンスがあればやれるだけのことはやってきた。


 実は、こいつを殺しても統率を失ったデクルの多くは荒れてしまう可能性がある。本当にそうなればデクルの殲滅が必要になるかもしれないし、そうなればマルエスの町も意味を失う。

 でも俺はデクルがそんな好きなわけでもないから、別にいいやと殺害チャレンジをしてた。


 しかし今は、アケミさんがいる。アケミさんはデクルが好きだから、デクルが消えたら悲しむだろう。そう思ってからは、あんまり挑戦することがなくなっていた。


 特別訓練を積んでいたわけでもないから好転するわけもないが、久しぶりにやったがやはり刃が立たなかったなぁ。


「兎さんって、なんて名前なんですか?」


 そういや知らないな。知りたくもなかったからだけど。


「おちゃめで可愛い子猫ちゃん三世おにぎり上から四番目だけどなんか白いねうふふ二世七番三から五」

「……?」


 ……?


「サンケタに名前付けて欲しいなーって」

「お、おう」


 ちょっと意味が分からなさ過ぎて、上手く罵れなかった。

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