66話 ご馳走、歓迎、パーティーです
「ありがとうございます、皇女様。このようなこととなり、なんとお礼を言ってよいのか。今少しでこの領都は滅ぶところでした」
白髪交じりの老人、檜野辺境伯が正座をして深々と頭を下げてきます。
「いえ、これも御子息の私への願いがあったゆえ。たいしたことはしておりません」
天頂の領主の間にて、畳が敷かれた大きな広間にて、上座に座り皇女レイちゃんはオホホと笑います。皇女らしく鷹揚に優雅に手を振ると、出された茶菓子を上品にパクリ。
「羊羹ですか。ここには羊羹があるんですね」
懐かしい和風のお味。う~ん、羊羹も良いですね、この柔らかいあんこのほっとする甘さはケーキなどでは感じられない優しい甘さです。
あくまでも上品な所作にて、羊羹を薄く切って食べていきます。なにせ上品な皇女ですから。威厳は必要なんです。
「おいちーでつ!」
「一本丸ごとかじりゅと、食べ甲斐があるでしゅ」
「おかわりもらえまつか?」
「お茶もおいしーでりゅ」
お友だちたちがハグハグと豪快に丸ごと羊羹を齧っています。むむむ、分かります。早くも究極の食べ方を知りましたね、お友だちたち!
私も丸ごと羊羹を齧ってみたいです。贅沢な夢の食べ方、羊羹をもっとも美味しく食べる方法。ソワソワして、ちらっとキオへと視線を向けて、丸ごと羊羹を食べる大会をしてくれるようにお願いします。アイコンタクトですよ、キオ。
「レイ姫はお疲れのご様子です、父上。お休み頂いたほうがよろしいかと」
惜しい、キオ。そうではありません。ですが、この場を去れるのなら、貴賓室にて一旦疲れを取ります。もちろん羊羹が置いてあることを期待します。
「おぉ、そうであったな。気が利かずに申し訳ありません。魔の浄化という奇跡と精霊ユグドラシルを召喚するというお力を拝見して、我を忘れていたようです。どうぞ、ご容赦を」
元気ハツラツな老齢の辺境伯は、ワハハと笑う。神術にて浄化され、ユグドラシルの雫にて回復したので身体は完全に健康体となっています。
「では、夜は歓迎と感謝の宴をしたいと思います。ダンス大会も開きますので、ご期待くだされ」
「よしなに」
ダンス大会? なんですか、ダンス大会って?
「ユグドラシル様への感謝の気持ちを込めて、創作ダンスをお見せしなければ」
「おう、今までのダンスを超える究極のダンスを見せてやる」
「ふっ、ならば私は至高のダンスをお見せしよう」
部屋の隅でなにやら不穏なる話が聞こえてきましたが………。まぁ、いいでしょう。好きにしてください。
そして、やけに筋肉ムキムキな人たち。そこら中にいるんですけど? 女性は普通ですが、男性がマッチョです。冬なのに暑苦しい。
『なぁ、ユグドラシルの雫のパワーは手加減したのか? これほどの大木から生み出したんだから、効果は手加減したよな?』
『もちろん皆が元気になるようにって、フルパワーです。おぉ、なるほど、これは私のせいでしたか』
おったんの呆れた思念で、現状を把握しました。そっか、これは私のせいですね。アフロ兵士に続き、マッチョを創造してしまいました。
『とはいえ、大丈夫ですよ。見せる筋肉を作る練習は普通よりも面倒くさい。すぐに筋肉は落ちると思いますよ』
ボディビルダーは魅せる筋肉を維持するために地獄の節制をして、死ぬほどの筋トレをしているのです。なので大丈夫。
『だといいんだがなぁ。アフロって結構簡単に元に戻らなかったっけ?』
『そう言えばそうですね? なぜにアフロが解けないのか……もしや、神の力?』
有り得ます。その者の健康を十年維持するほど効果の続く神術。アフロが十年維持されてもおかしくない。
なんと、神術には恐るべき副作用がありました。その時の身体を維持するために、アフロが直らない! とするとマッチョたちも元に戻らない。
………周りを見渡すと、ボテッビルダー選手権のように、皆が楽しげに筋肉を見せ合ってます。
『……特に問題はないでしょう。マッチョだらけでも私は困りません』
『ほんとかぁ、暑苦しいぞ! 見ろよ、この地獄絵図!』
なんだか肌がテカっているマッチョたち。熱気が靄となって空中を漂うのが、たしかに少し気持ち悪いです。
『でも、すぐに帰りますし。特に気にしないで良いでしょう。冬ですし、暖房代も節約できて良きかな、良きかな』
『どこらへんが良いかはわからないが、放置して帰っても良いか。わかった』
おったんも渋々ですが了承して、私たちは美味しいものを食べたら、すぐに帰ろうと心に決めるのでした。
はい、私もマッチョな人達の間に挟まれたくありません。地球にいた時にはちょっかいを出してきたムキムキマッチョのアレスを海に放り込んで、ダゴンにタコ殴りさせていたくらいですので。
◇
辺境伯の領都はとても豊かだと感じました。
旅館みたいなお部屋で一休みしたあと、現在はイビルラシルのせいで混乱しているため、歓迎パーティーは3日後ということになったのですが━━━。
「レイ姫、よろしかったら、僕と観光をいたしませんか? それとパーティーのためのドレスをプレゼントしたいと思います」
のんびりと浴衣を着て、ぐで~と寝ていたらキオが迎えに来ました。
「申し訳ありません。少し疲れたのでお休みしたいと皇女様は仰っておりまして」
丁寧にお辞儀をして、ヒナギクさんがお断りをしてくれます。こういうとき、貴族は便利です。本人に会わないで断ることができるので。
観光も良いですが、到着した日は畳の上に寝そべりゴロゴロするのが一番の贅沢だとキオは理解していないようです。
お友だちと一緒にゴロゴロして、疲れをとっています。お友だちがわざとぶつかってくるので、それも楽しくてキャッキャッと遊んじゃいます。
ん〜、こうやって遊んでいるとイザナミちゃんとも遊びたくなります。少し寂しいですね。今は彼女は何をしているのでしょう。私の隠し財宝を強奪していなければよいのですが。少しホームシックなレイちゃんです。
「そうですか……領都でも有名なパティシエのスイーツ店や、半年先まで予約でいっぱいのレストランをなんとか予約できたのですが………」
「もちろん、キオの心遣いを無駄にはできません。さぁ、すぐに出かけましょう」
ムクリと起き上がると、てこてこと部屋の出口に向かいます。
やっぱり、初日からグルメツアーが最近の流行りですよね。最先端をゆく私はグルメツアーに行きますよ。
「では姫様。お支度をなさりませんと。お手伝いをいたします」
早く行いましょうと、キオへと近づこうとすると、ガーベラが腕をガッチリと掴んできました。ぬぬぬ、しっかりもののメイドさんです。たしかに上品さを魅せないといけませんし、言い分は分かります。
「それでは、領都で人気の服飾店に参りましょう、レイ姫。お見かけしたところ、ドレスはあまりお持ちでないご様子。今回のお礼に是非にプレゼントさせてください。宝飾店や靴、ケーキなどもその店に運ばせます」
「よしなに」
そこまで言われては仕方ありません。私はホイホイついていきます。
そっと手を差し出すとエスコートをしてくれて、いざ観光へ出発です。
「大変ですよ、ガーベラさん。皇女様の弱点が見抜かれてます!」
「わかりやすいほどにわかりやすいですからね。反対にこれで気づかない鈍感な相手はこちらとしてもお断りです」
ヒナギクさんとガーベラがなにか話してますが、私には弱点なんかありません。強いて言えば、世界平和を乱されるのが嫌ですかね。
木の葉のヘリで移動して、下層のヘリポートに着陸して、エスカレーターに乗り、吹き抜けのデパートみたいな所を通過すると、服飾店に到着。
「というか、エスカレーターが木の中にあるんですね。電気とかどうやっているんですか?」
さすがに少し驚きました。これは幹は弱くなってません? いえ、そのように作られたのだから大丈夫ですか。
「始祖に感謝というところですね。僕はこの領都が常識だったので、他の街に行って木の中に住んでいないと知って、驚いたものです」
「ところ変われば品変わるというところですか、たしかにそう感じるのが普通でしょう」
たしかに自分では常識だと思ってたのに、他の地域では普通ではなかったなんて、驚きますよね。北海道に住んでいる人は黒い虫を知らないので上京してきて、この虫なぁにと手で掴んで尋ねて驚かれたりとか。
それにしてもファンタジー感を打ち消す光景です。これ地球のデパートと比べても、近未来的で勝っているかも。
だって服飾店の扉は自動ドアですし。自動ドアがダンジョン以外であったんだと驚くヒナギクズと、帝都では当たり前でしたよと、得意げなガーベラズを横目に私はキオと共に店内に入ると━━。
「いらっしゃいませ、レイ皇女様、キオ様!」
ずらりと並んで待ち構えていた店員さんたちが一斉に頭を下げてきました。
「あぁ、今日はレイ姫のパーティー用のドレスを買いに来たんだ、彼女に合うドレスを用意してくれないか」
「畏まりました。光栄にも皇女様のドレスをご用意できるなんて感激ですわ」
「それとレイ姫に似合う宝飾品と靴、ケーキもよろしく」
「はい、もちろんですわ。ドレスに合った物をご用意いたします。ケーキ?」
最後で首を傾げる店主さんでしたが、ハンガーにかけたドレスを持ってきます。その横には箱に入れた宝石類と上等そうな靴。
━━━以上。
「この最初のドレスに決めま」
「わーっ! あ、ほら、すぐにケーキが来ますよレイ姫」
「決めるのはどうかと思うので、じっくりと色々なドレスを見たいと思います」
人の心遣いは大事にしないといけません。慌てるキオの後ろにケーキの箱を持った爺やが来ましたしね。その箱には何個入ってますか?
そうして、私は着替え人形のようにドレスを次々と着ました。清楚なのから、豪華なもの。肩を丸出しにしたのとか、胸を強調したもの。
「はぁ………領都では色々あるんですね、正直驚きました」
「どちらが気に入りましたでしょうか、皇女様」
「この生クリームの挟まったドーナツが気に入りました」
着ている最中にケーキが食べられないという致命的な弱点が判明したので、爺やさんがドーナツを買ってきてくれたのです。どれも美味しくて甲乙つけがたいですが、これにします。
「………マダム、これらのドレスの中で清楚な物だけ全てください。宝石類も靴もです!」
ドーナツが良かったのに、キオはドレスを買ってくれました。頑張りましたな若様と爺やさんが拍手していますが、なにか頑張ったのでしょうか。わかりませんが私も拍手をしましょう。パチパチパチ〜。




