122. しわ
コロナEXにて、『祖父母をたずねて家出兄弟二人旅@COMIC』の第四話 ② が本日配信されました。ぜひお読みください!(本文下のリンクから、コロナEXの作品ページに遷移できます)
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王家直々の打診を誰が断れるだろうか。いや、断れない。
動揺を押し隠し、何食わぬ顔で残りの祝宴を乗り切った翌朝……というよりも、すでに昼も近い頃。
ブランチを摂った僕たちは、居間で寛ぎながら保留にしている婚約の返事をどうするか、額を寄せ合っていた。
「じいじ、こわいおかおよ?」
「ククク?」
事情を知らないリュカが不思議そうに呟く。
すると、常になく厳しい表情のおじいちゃんにも臆することなく、よじよじとおじいちゃんの膝を登った。
子どもというのは、座った大人の膝を椅子だと思っている節がある。
なにをするのかと見守っていると、リュカは小さな指でおじいちゃんの眉間の皺を伸ばしはじめた。ついでに、メロディアもおじいちゃんの頬をツンツン。……恐れ知らずだ。
「しわ、できちゃうから、にらんじゃ、めっなの。にいに、いってた!」
「ククク!」
「……やめなさい、リュカ、メロディア。いまさら伸ばしたところで、私の皺はもうなくならん」
「あのね、でもね、にこーってわらう、しわはいいのよ?」
「ククク?」
(ひえ〜〜〜! リュカ〜〜〜!)
両手の人差し指を頬に当て、にこーっととびきりの笑顔を炸裂させたリュカに、僕は内心冷や汗がダラダラだ。
成長とともに、リュカは自我が強くなった。ダメなことはダメと嗜める場面も多くなり、むくれたり不貞腐れたりすることも最近ではしょっちゅうだ。
その度に僕が言い聞かせていた言葉を、リュカはしっかりと覚えていたらしい。
でも、それはかわいいリュカのつるもち柔軟肌の成長を思ってのこと。よりによっていまここで、引き合いに出してはほしくなかった。気まずい。
「ふふふ。リュカの言う通りですわ。喜び上手は幸せ上手と言いますもの」
「……皺だけに、か?」
てんてんてん。
僕もおばあちゃんも思わず耳を疑ったあと、顔を見合わせて笑う。まさか、おじいちゃんが慣れない冗談を口にするとは思わなかった。
おじいちゃんは大袈裟なほど咳払いをすると、真面目な顔で切り出した。
「外戚だからと、今後無茶な口出しも多くなるやもしれん。……だが、イネスは賛成なのだろう?」
「ええ。領地は管理人任せで王都暮らしが当然、と思っている貴族の娘が多いのに、王女殿下はヴァレーでの暮らしを覚悟されていらっしゃいましたから。それに、ルイの良さを見抜くなんて、見る目のある方だわ」
もともと、王都で僕の婚約者を探しては? と勧めていたおばあちゃんに否やはないようだ。むしろ、歓迎らしい。
この場合、嫁姑……じゃないけれど、なんと言うのだろう? ともかく、衝突とは無縁そうだ。
「ルイは?」
「僕は……」
この春、貴族社会をほんの少しだけ垣間見て、僕には無理だと早々に悟った。マナーに厳しくないお国柄とはいえ、それでも要所要所で押さえておくべき規定はある。
だから、不慣れなマナーや貴族社会で支えてくれるお嫁さんは、正直言って心強い。
その代わり、普段はヴァレーでのんびり過ごしながら、治療に専念してもらったら良いと思う。
「……お受けする方向でお願いできれば、と。ただ……」
「ただ?」
僕はちらりとリュカに目線を落とす。
ユヴィさん──王女殿下には失礼かもしれないけれど、リュカを義弟として本当に受け入れられるのか、リュカも義姉として慕えるのか、それだけが気がかりだ。
なにぶん、まだ出会ったばかりでお互いのことを知らないから、そこだけは慎重に見極めたい。
そう僕が話すと、おじいちゃんは少し呆れたようにため息を吐いた。
「……あい、わかった。王家には、一定の親交を深める期間をいただきたいと、文を送ろう。その上で問題がなければ、此度の申し出をお受けすると」
「おじいちゃん、ありがとう……」
わがままを言っている自覚のある僕は、殊勝に頭を下げた。
そうと決まれば、あとはどうやって見極めるか、だ。ちょっと食事でも……なんて王女殿下を気軽に誘うわけにはいかないし、そもそも王都には詳しくないからぴったりな外出先も思い浮かばない。
頭を抱えていると、おばあちゃんから頼もしい申し出があった。
「あらあら。それなら、まずは子どもたちだけで親睦を深めるお茶会を開くのはどうかしら? リュカも、冬の間に学んだマナーを実践する良い機会だわ」
「おちゃかい! ぼく、いーっぱい、れんしゅうしたから、だいじょうぶだもん!」
「ククク!」
「ふふふ。今回は特別なお客さまですもの。おさらいは致しましょうね」
「あい!」
「クク!」
ふんすと、リュカとメロディアはやる気十分だ。
その隣でにこにこと上品に笑うおばあちゃんから、『リュカがこんなに張り切っているのだから、ルイが手本になってあげなくてはいけませんよ』という気迫を感じたような気がした……。
(マ、マナーの鬼がいる……!)




