119. 打診
コロナEXにて、『祖父母をたずねて家出兄弟二人旅@COMIC』の第三話 ① が本日配信されました。ぜひお読みください!(本文下のリンクから、コロナEXの作品ページに遷移できます)
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※ 次回更新は4月13日月曜の予定です。
神話かなにかなのだろう、天井や壁一面に宗教画が描かれた白亜の一室に通され、待つこと十数分。
ノックの音とともに、おじいちゃんとおばあちゃんが別の侍従に案内されて部屋へと入ってきた。
「ルイ、先に来ていたのか」
「おじいちゃん、おばあちゃん……! よ、良かった……」
「あらあら、情けない顔」
王宮ということもあってか、普段はあまり見ない澄まし顔の二人の表情が少しだけほころんだ。見慣れたその笑顔に、ガチガチに緊張していた僕の体からガクッと力が抜ける。
なにせ桁違いの価値だろう骨董品の調度品で誂えられた室内に、壁際には直立不動で佇む無言の侍従。そんななかに一人で放置されたのだ。
場違いすぎて、呼吸ひとつするにも神経を尖らせる。おかげで、ほんの短い待ち時間だったのにもかかわらず、フルマラソンを完走した並みに疲れてしまった。
(国王陛下と王妃殿下がわざわざ僕たちを呼び出してまで、一体なんの話だろう……? 早く帰って、リュカに癒されたい……)
心当たりは「古樹の涙」くらいしかないけれど、あれはおじいちゃんと陛下たちとの間ですでに話がついているはず。それなら、僕まで喚ばれる理由がわからない。
不安そうな僕に、おじいちゃんとおばあちゃんはまるで「仕方ないな」と言うかのように微笑んだ。
「どんな話かは見当もつかないが、私たちに任せなさい」
「ええ、そうね。ルイはただ胸を張って、堂々としてらっしゃい」
「うん……」
そのとき、侍従が先触れを告げた。僕たちが深く一礼した姿勢で待つなか、国王陛下と王妃殿下がしずしずとソファに腰掛ける。
前世も今世も庶民生まれ庶民育ちだったはずなのに、なんの因果か貴族になってしまったばかりか、王家と謁見まで!
思えば遠くへ来たものだと、思わず遠い目になる。小市民の僕にとっては、ひたすら胃が痛い。
「良い。面を上げよ。此度は非公式の謁見である。其方らも掛けよ」
「……御意」
おじいちゃんとおばあちゃんはさすが堂に入った仕草で、僕もぎこちないながらもマナー通り腰掛けると、国王陛下が口を開いた。
直視は無礼とされるので、目線は口元から胸元あたり。近衛兵に背後を守られた両陛下は、授爵式で感じた思わず平伏したくなるような威厳が和らぎ、代わりに気さくな雰囲気が漂っていた。
「かようにめでたき日に、急に呼び立てた。この折をおいてほかに時間が取れぬものでな」
「滅相も御座いません。身に余る光栄に存じます」
こちらから「それで、お話とは」とズバッと本題を切り出すわけにもいかず、国王陛下が問うままにおじいちゃんが答える。
のらりくらりといくつかの話題を話したあと、つと国王陛下の視線が僕へと注がれた。
思いのほか強いその視線に、僕は身構える。
「年頃とあれば、家格に見合う良縁を得るのが喫緊の課題であろう。此度の社交で、これはと見染めた女人はおるか? 包み隠さず申してみよ」
(国王陛下がなんでそんなことを……?)
質問の意図がわからない。僕は内心首を傾げつつ、かすかに咳払いをしてから正直に答える。
「いえ。恐れながら、社交に慣れることに手一杯でして……」
「それは重畳」
国王陛下は小さく手を叩くと、満足気に頷いた。よく見れば隣に座り王妃陛下も、心なしか嬉しそうに見える。
僕に婚約者や恋人どころか、ちょっと良いなと思う女性がいないことがなんだと言うのだ。
(……なんだか、嫌な予感がする)
なぜ当たってほしくない予感ほど、大当たりするのだろう。
国王陛下の次の言葉に、僕だけではなくおじいちゃんとおばあちゃんも息を呑んだ。
「其方、王女を娶る気はないか。無理にとは申さぬ。気が進まぬのであれば、辞しても良い」
「……恐れながら、陛下。我が孫に王女殿下を降嫁なさると?」
「そうだ。ひとまずは内々の婚約といたそう」
寝耳に水で、おじいちゃんが珍しく血相を変えている。その横で、僕は頭を抱えた。
(こんにゃく……じゃない。こんやく……婚約!? えええええええええ!? 僕が、王女さまと婚約!?)




