118. 舞踏会
コロナEXにて、『祖父母をたずねて家出兄弟二人旅@COMIC』の第二話が本日配信されました。ぜひお読みください!(本文下のリンクから、コロナEXの作品ページに遷移できます)
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※ 次回更新は4月6日月曜の予定です。
厳かだった授爵式が終わると、続きの大広間に移動してそれはそれは盛大な祝宴がはじまった。
乾杯が済んでしばらくすると、音楽隊の生演奏とともに国王陛下や王妃殿下が踊り出す。続けて、王族らしき男女や本日の主役たる授爵者たちも後に続いた。
足の悪いおばあちゃんは踊るというより、音楽にのって体を揺らすといった感じで、会場の隅っこでおじいちゃんと幸せそうに微笑みあっている。
僕はというと、 お目付け役(仮)のプレーリー前子爵に知人を何人か紹介してもらい、その奥様やら娘さんやらと無難にスクウェア・ダンスを集団で踊って、やっと壁の花ならぬ壁のシミに落ちついた……と思ったら、絶賛困った状況に陥っていた。
「まあ、あのヴァレー男爵の……? 次の曲のパートーナーは決まっておいでで?」
「踊り疲れていらっしゃいません? 涼しいテラスの風にあたるのをおすすめ致しますわ」
「来週、わたくしの家で演奏会を開きますの。招待をお送りしてもよろしくて?」
と、同じ年頃の女性やそのお目付け役らしき年配のご婦人から、ひっきりなしに声をかけられるのだ。
ダンスは男性から女性を誘うのが不文律。
だから、あからさまにならないように、けれど絶対に獲物《僕》は逃すまいと、あの手この手で誘われようと躍起になっているのがわかる。
僕と同じように壁のシミになっている男性は数多くいるのに、一体なぜ。
(ひえええ〜。目が本気だ……!)
舞踏会が一種、集団お見合いを兼ねた場であることは事前に聞いていたけれど、肉食獣の群れに裸で放り出された草食獣のような気持ちだ。僕はガクブルと震えることしかできない。
恨めしそうに僕を睨む男性陣の目つきもさることながら、自惚れでなければ僕にアプローチしているらしい女性陣のギラギラと飢えた目つきも恐ろしい。
(た、助けて……!)
プレーリー前子爵の姿を探すと、白や淡い色のふわふわしたドレスの壁の向こうで親指を立ててニカリと笑っていた。『幸運を祈る』という幻聴が聞こえてくるようだ。
(そ、そんな……!)
万事休すだ。
そもそも、僕はペアダンスがそんなに好きじゃない。前世でも、マイム・⚪︎イムですら気恥ずかしかった記憶がある。
そんな僕だから一向に練習してもなかなか腕前は上がらず、足の悪いおばあちゃんに代わってパートナーしかも女性役を務めてくれたレミーに、しこたま扱かれたものだ。
だから、衆人環視のなか初対面の女性と二人で踊るなんて、絶対に足を踏む。
それに、迂闊についていったらまず間違いなく狩られて、美味しく食べられてしまう未来しか見えない。
(どうしよう……。断る……は無理そうだから、なにか理由をつけて逃げるしか……!)
『先約がある』と見え透いた嘘をつく機会を逃した僕は、奥の手である『お花を摘みに』を繰り出すか逡巡する。と、そこに天の助けが訪れた。
「失礼、美しいお嬢様方。こちらにヴァレー男爵のご令孫はいらっしゃいますかな」
「あ、僕です……!」
二つに割れたドレスの合間から、格式高い制服に身を包んだ壮年の男性が姿を現した。授爵式でも見かけた制服から、王宮の侍従かなにかだろう。
「ルイ・ヴァレー様でいらっしゃいますかな。お伝えしたいことがあるため、僭越ながら私めが別室にご案内させていただきます。ヴァレー男爵夫妻もお待ちですよ」
「は、はい」
伝えたいこと? と内心首を傾げつつ、僕はこれ幸いと女性陣の囲いを抜け出し、侍従の後をついていく。
侍従は賑やかなダンス曲で溢れる大広間を抜け、どんどん人通りの少ない通路を進んでいった。
(方角的に、王宮の奥まった場所に向かってる……?)
よくよく考えると、僕が呼ばれる理由がわからない。
不安になった僕は「あの、どうして僕が呼ばれたのでしょう?」と恐る恐る侍従に問いただす。すると、侍従は周囲に人がいないことを確認すると、やや声を潜めて告げた。
「陛下ならびに妃殿下がお呼びです」




