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祖父母をたずねて家出兄弟二人旅  作者: 泉 きよらか
第5章 アグリ国王都ニュシャの光と闇

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94. 冬の決意

【第4章のあらすじ】

 自然豊かなヴァレーでの生活も、一年が経ったルイとリュカ。

 前世の知識や社会人経験はあれど、所変われば品変わる。今世では通用しないことも多かった。間違え、自信を失いながらも、今自分にできることを精一杯がんばるルイ。

 一方、徐々にやんちゃさも見せてきた元気なリュカは、保育園にも通い始め、のびのびと成長中だ。


 そんななか、ルイが「葡萄の涙」を鑑定したことで、平穏で裕福な庶民生活は終わりを告げる。実はとんでもない代物だった「葡萄の涙」のせいで、爵位をもらい貴族となったヴァレー家。

 葡萄の涙・葡萄の新芽茶・白トリュフといった特産が増え、貴族となったことで騎士団も設立された。そして、植物学者のテオドアさまを迎え、神殿も代替わりし、発展の勢いが止まらないヴァレーに闇がかげる。


 それは、ルイの十六歳が間近に迫った頃。跡継ぎ問題に終止符が打たれるのか……と思った矢先に、あのベルナールが逃走をして行方不明だと報せが舞い込んだのだ──

「きゃははは、たのしい〜!」

「クククー!」


 庭から、元気なリュカとメロディアの笑い声が響く。雪が止み、束の間の曇り空が見えた午後。いの一番に外へと飛び出したリュカは、非番の騎士に相手をしてもらって、雪遊びに(きょう)じていた。



(子どもは風の子っていうけれど、良くこの寒いなか、平気で遊べるよなあ……)



 あまりにも楽しそうな声に、一度作業の手を止めて窓から外を覗くと、僕に気づいたリュカが満面の笑みで手をぶんぶんと大きく振った。

 そのほっぺはりんごのように真っ赤になっていて、吐く息は凍りそうなほど真っ白だ。



「にいに〜!!」

「リュカ坊ちゃん、隙あり!」

「きゃあ〜! ずる〜い!」



 僕が手を振り返した瞬間、隙を見逃さなかった騎士が、リュカの背中に雪玉を見事命中させた。

 リュカはそれが悔しかったのか、むくれたように言い返して、また一生懸命投げ返す。

 去年はへろへろの球しか投げれなかったけれど、騎士に教えてもらったのか、今年はちゃんと腕を大きく振りかぶって腰の入った良い球を投げられている。



「おお、ナイスピッチング……!」



 思わず呟いて、うずうずと僕も外に出て遊びたい気持ちをグッと堪える。リュカが傍にいない時間は貴重なので、途中になっている作業を終わらせてしまいたい。


 というのも、年が明けて本格的な冬を迎えたこの時期は、リュカの五歳の誕生月だ。今年のプレゼントは、悩みに悩んで「カルタ」を作ることに決めたので、当日まで内緒にしておきたかった。


 僕は細工師に切り出してもらった板を二つにわけ、読み札と絵札……ならぬ一文字だけの文字札をそれぞれインクで丁寧に書く。

 今世の文字は前世のひらがなをアルファベットに置き換えたようなものなので、僕にとっては習得が楽だった。これが全く異なる言語・文字だったら、きっと無理だった。



(喜んでくれるかなあ)



 保育園はちょうど冬休みで、リュカはずっと室内で過ごしている。……のだけど、元気いっぱい、暇を持て余したリュカが大人しくしているはずもなく。(やしき)のあちこちに忍び込んでは、みんなに相手をしてもらっていた。

 それは、家族のみならず、使用人や騎士、果ては食客のテオドアさまにまで、だ。



(本当に邪魔をしてはいけない紋章官さまや、事務員にはねだらないのがちゃっかりしているというか、良く人を見ているというか……)



 特にリュカが懐いているテオドアさまは、人に教えることが好きな方だ。身近な物を使って、リュカにも簡単な文字や計算を教えてくれるようになった。

 そのおかげで、リュカは「これ、なあに?」と身の回りの物の名前を知りたがるようになったのだ。特に寝る前に絵本を読むと、わからないことに興味がいってしまって、なかなか寝てくれないくらいだ。



(カルタで遊びながら簡単な単語を覚えられたら、冬の暇つぶしとしては一石二鳥だよね)



 そんなことを目論みながら、もくもくと手を動かす。手を動かしている間は、余計な感情から少し離れられた。


 年の終わりに、僕はベルナールの行方がわからなくなったことを、おじいちゃんから聞いた。

 そのあとすぐ、ヴァレーは雪で国境が閉ざされてしまったので、結局ベルナールの足取りがどうなったのかはわからないままだ。



(ヴァレーはある意味で天然の要塞(ようさい)と化したから、春まで僕たちの身に危険が降りかかることはないはずだけど……)



 一番心配なのは母さんだ。時期的に、誰かを(つか)いに出す猶予もなかった。

 かろうじて、おじいちゃんが修道院長に手紙を(したた)めて、注意喚起と警備強化のための寄付をしてくれたらしい。それでも、僕の心はまんじりともせず、心配が降り積もる。


 ベルナールが逃げたと聞いた時は、僕は気が動転して「どうしよう。なんで」ばかりが渦巻いた。

 でも、それからしばらく時間が経って気持ちが落ち着いてくると、今度は理不尽な状況に沸々と湧いてくる感情(もの)があった。それは、怒りだ。



(なんで、僕たちが怯えて暮らさないといけないんだ……!)



 十三歳の僕は、あの時、逃げることしかできなかった。全身で頼り寄りかかれる大人もいないなか、幼いリュカを守るためには最良の一手だった。


 でも、今は違う。


 ベルナールが何を考え、どう動くのかはまだわからない。それでも、もしまた僕たちに何かしようとするのなら……。



(逃げたって、逃げたものは後から追いかけてくる。……それなら、次はもう、僕は逃げない)

■ お知らせ

 二週間ほど本編の更新をお休みしておりましたが、本日から再開します。

 ただし。大変申し訳ありませんが、しばらくは毎日更新ではなく不定期更新となります。目安は一週間に二回〜三回更新です。

 GW中に諸々が終わらず、ストック準備までできませんでした……。

 落ち着いたら、どこかのタイミングでまた毎日更新に戻せるよう、頑張ります。

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