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ヤングポテト・セカンドフライ4

ヤングポテト・セカンドフライ4


 倒れたままのはる子とアフロマネキンに再びスポットライト。アフロマネキン、倒れたはる子の頭を膝枕して優しくなでる。アフロマネキン、知的で温和な声で話し始める。


J「春子。今から君の脳髄の最深部まで(ジャック)してあげる。そう、ここは電脳第四層。抵抗してもいいけど、僕には君の脳を強制開放できる力があるってことを忘れないで。そしてできれば無理矢理はしたくない。だから、心と眼を、開いて」

は「あーうー」

J「うん、素直でよろしい。それではまず大泉くんと菅山くんについて。彼らは部長候補から外れてもらいました。残っている候補者は田中春子、君だけです」

は「あぶう?」

J「ふふ。君の脳内に僕がいるという感覚にまだ戸惑っているね。そのうち慣れてくるさ。まだ君は聞くだけでいい。話を続けよう。僕はね、第二層からずっと君たちをモニタしてたんだ。まず大泉くん。彼はね、ジャックという人間への個人崇拝に傾倒しすぎだ。思考停止、オリジナリティの欠如、よって失格。そして菅山くん。彼の方がまだマシだね。ただそれでも科学技術信仰に視野狭角気味に偏執的にオタク的に囚われ過ぎている。科学技術は万能だが、あくまでもそれは人間によって使役される道具に過ぎない。でも彼は利権目的だったかつての十字軍も恥じ入るくらいファンダメンタル科学技術クルセイダなんだね。そして本気で宗教戦争をしたいみたいだ。科学技術の奴隷に堕してしまった上に、やろうとしていることもつまらないので彼も失格」

は「じゃが、あだじぎゃ、ぶちょにゃの?」

J「うん、君が部長になれるかどうかはまだわからない。だからここからは君にも答えてもらうよ。まず君の『負け犬になったあたしを見てくれる人なんて誰もいない』という発言について。君はあれだけ大泉くんや菅山くんに協力要請するのをためらっていたインディビデュアリストなのに、自らの価値を他者による評価に求めてしまっている。それは何でだろうね」

は「わがらにゃい。わからにゃいの」

J「ふむ。聞き方を変えよう。君は首席入学するくらい優秀だ。そして優秀であることに自覚的だし、圧倒的大多数の優秀でない人間を見下している節があるように感じているんだけど、どうかな?」

は「うにゅ、あってみゃす」

J「OK、続けよう。君は優秀で選民思想的な優越感を心に抱いており、そこに君のアイデンティティがある。違うかな?」

は「…そう、です」

J「優越感というものは人という種を個体進化させるのに必要な感情だ。賢い奴は優越感を感じていたいからもっと勉強するしね。ただこれには比較対象が必要だ。だから変な言い方になるけど、絶対に相対評価になってしまう」

は「そう、です、あいてがひつようです」

J「うん、だいぶ慣れてきたね。これならしっかり君の話も聞けそうだ。ええと、相対評価の話。例えば君は大泉と菅山をイモ呼ばわりして見下していたね。そして自分は優秀で選ばれた人間であの二人とは違うと考えている」

は「…はい、そうです。あたしは、あの二人とは、ちがう」

J「うん、僕も君はあの二人とは違うと思うよ。だからこそ今ここで僕は君と二人で会話しているんだけど」

は「…あり、がとう、ございます」

J「いえいえ、どういたしまして。さて、そんな優秀で選ばれし者である君は常に勝ち負けを気にして、他者から評価されないといけないと考えている。何故、そう思うんだろう」

は「負けぐみは必ようとされないから」

J「ちょっと大袈裟な言い方だけど、世界から必要とされなければいけないのは何でかな?」

は「それは、せ界から必要とされなければ、あたしが生きていられないから」

J「優秀で選ばれし人間になって始めて、君は世界から生きることを許されている、ってこと?」

は「そうです。例え選民思想的ゆうえつ感によって育まれたゆう秀さであったとしても、それこそがあたしの生存許可証なんです」

J「生存許可証、か。君は随分と生に対して消極的な考え方をするんだね。現実の君はとても積極的に生きているように感じていたけど」

は「あたしにしかできないこと。あたしにしかない能力。それによって世界にあたしを必要だと認めさせ、あたしは生きることを許されてる。だからあたしは勝ち続けないといけない」

J「ふむ。君の生に対する基本姿勢は『生かされている』という受動的な発想に基づいているみたいだね。生に対するパッシブシンキングから現実のアクティブアクションが生まれているというのが面白い。この一見するとアンビバレンツな生に対する考え方と行動はどこから出てきたんだろう」

は「それは、たぶん、怖い、から、です。あたしは死ぬのが怖い」

J「死への恐怖にこそ君のレゾン・デートルがあるってことかな? だからこそ、君はいつ裏切られるかわからない仲間に頼るよりも、自分だけで身を処すことができるよう徹底的にインディビデュアリストたらんとしたわけなんだね。そしてそこにレゾン・デートルがある限り、自らの価値を相対評価に委ねなければならなかったわけだ」

は「怖い。あたしは誰からも必要とされず、お金も稼げず、ご飯も食べられなくなって、惨めに死ぬのが怖い。だから、生存許可証が欲しい。ジャック、さん、あたし死にたくない。死ぬのが怖い」

J「大丈夫。君のレゾン・デートルが死への恐怖にあったとしても、僕には君が必要で、僕は君を裏切ったりしない。だから君は勝たなくても、生きていいんだ」

は「ジャック、さん? あたしは死ぬのが怖くて、恐怖を感じているこの生が怖くて、だからあたしは誰かに許して欲しくて」

J「僕が、僕だけが、君の生を許す」

は「じゃっく、さん? 何であなたはあたしに優しくてくれるの?」

J「君が、必要、だから」

は「じゃっ、くさん? あなたに勝てないあたしでも、何であなたは必要としてくれるの?」

J「君が、好き、だから」

は「じゃっ、く? 死にたくないから生きているだけのあたしに、何であなたは好きだと言ってくれるの?」

J「君を、愛して、しまったから」

は「あたしを、愛して、しまったから?」

J「春子、僕は、君を、愛してる」

は「ジャックが、あたしを、愛している?」

J「春k


 アフロマネキン、突然こと切れてはる子に覆いかぶさるように倒れる。はる子、顔を上げてアフロマネキンを覗き込む。


は「ジャック、さん?」

は「どこへ行ったの?」

は「…」

は「あたしはあなたを信じていいの?」

は「何で返事をしてくれないの?」

は「やっぱりあなたもあたしを裏切るの?」

は「…」

は「ジャック、ジャック、急に消えた。ジャック、ジャック、それは何で? ジャック、ジャック、どこに行った?」

は「…」

は「ジャック、蜘蛛の巣、囚われの蝶、あたし一人。ここはあたし一人。だからあたしが羽ばたいても、バタフライ効果は得られない。何も変わらない。誰も影響されない。あたしは一人のまま」

は「…」

は「だから、現実に」

は「だから、あたし、帰る」


暗転。


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