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012 毒にも薬にもなるんだよ

本日も例の如く3話投稿いたします。(1/3)



◆ファート 教会


ファート北の森で猿に殺されたアルマがリスポーンするとそこは知らない建物の中であった。

荘厳な雰囲気漂うその建物は大きなステンドグラスと女神像が特徴的な所謂教会のような場所だと感じた。


(確か死に戻るとリスポーン地点に設定した町に送られるんだよな。ファートだとそれが教会なのか。)


そう思いはしたものの特に興味をひくものはなかったのかアルマはすぐにその場を後にした。

外に出るとファートの中央広場であった。

外から見るその建物は屋根の上に十字架を掲げており予想通り教会であった。

そんなことを頭の隅で考えつつも先ほどの猿との闘いで感じた絶望感は拭えなかった。


「はぁーーーー。」


アルマは大きなため息をするも気持ちは切り変わらなかった。

すぐには北の森にリベンジする気になれず広場に備え付けられたベンチに腰を落とす。


(あ、そうだデスペナルティ。)


一息つくとそんなことが頭に思い浮かび急いでステータスを表示する。


(確かMSOのデスペナルティは一定時間のステータス減少だったよな。)


ステータスを確認すると「状態」の項目に「デスペナルティ 11:57:31」と表示されていた。


(ぐぅ。そうかリアル時間で1時間のステータス減少だからこっち時間だと12時間になるのか。)


その表示に愕然としていると不意にステータスのスキルの欄に目が言った。


「あれ?『初級短剣術』と『投擲』が伸びている?あぁ、さっきの戦闘で勝てなかったけど行動による経験値は入ったのか。」


アルマがスキルを確認すると『初級短剣術』『投擲』『探索』スキルがあの一角で薬草採取を始める前より上がっていた。

それは猿との戦闘で負けたまでも最後までアルマが粘ったことを証明するかのようであった。

その数値を少し誇らしげに眺めたアルマは次いでインベントリの確認をする。


(MSOではデスペナルティでアイテムのロストが無いことが救いだよな。)


インベントリの中には兎のドロップ品以外に「石ころ×17」と「謎の薬草×41」が入っていた。


(さて、この「謎の薬草×41」の中にチアニ草が20個あればグルナラさんのクエストは完了なんだが………。でも、「角兎の肉」が足りないから少なくともあと1回は町の外に行く必要があるな。)


そんなことを考えながらステータスの「デスペナルティ」の文字を思い出す。

少なくとも12時間はステータスが減少しているから戦闘は控えたい。

そんな思いがひしひしと伝わってくるようであった。


(とりあえず、グルナラさんのところに行って薬草を見てもらうか。)


そう思うとアルマは腰を上げて、グルナラの家に向かって歩き出した。


--



(うぅ、正直、気が重い………。)


意気揚々と北の森に向かったのに負けて帰ってきたこと思うとどこか申し訳なさがこみあげてきた。

グルナラのクエストは採取が目的だから別にモンスターとの勝ち負けを気にする必要はないのだけれど、それでもアルマは恐る恐るといったふうにドアノッカーを叩いた。


「………入りな。」


しばらくすると中から声がした。

その声に導かれるまま静かに扉を開いた。


「失礼します。」


ツンと鼻にくる薬の臭いが漂ってきた。

グルナラは部屋の奥の椅子に深く腰掛けていた。


「おや、薬師見習いかと思えば負け犬の坊主かい。」


「う、ぐぅ。」


開口一番こちらの胸を抉るような言葉をグルナラは発してきた。

アルマはたまらず立ち止まる。


「全く情けないね。で、何にやられたんだい?猪か?猿か?まさか兎ってことはないよね?」


「えっと………、猿です。群れにかち合いまして………。」


「ふん、上手く立ち回れば猿なんて敵ではないだろうに。まあいい、それでもここに戻ってきたことはある程度薬草が集まったんだね?ほれ、見せてみな。」


「はい。」


グルナラにそう言われるとアルマはインベントリを操作して『謎の薬草』×41を机の上に出した。


「ほう、結構集められたじゃないか。感心感心。」


グルナラは机の前まで来るとそう言いながら薬草を机に並べていく。

その手つきに迷いはなく、薬草の山は次第に3つのグループに並べられていった。


「これはラコフ草だね。22株ある。次にこっちがチアニ草じゃ。12株、依頼した20株には足りないね。最後にこれはザルゾ草と言ってな。これが7株あるのう。」


「ザルゾ草?」


チアニ草が足りなかったことに肩を落としつつも聞いたことがない薬草があったことに驚きアルマは聞き返した。


「そうじゃ。いわゆる毒草じゃな。うまく使えば薬にもなるが、今はいいじゃろう。興味があるなら、『調薬』のレベルを上げて自分で試してみるんじゃの。」


「そう、ですか………。」


グルナラは薬草の説明を終えると先ほどと同じように椅子に腰かけてしまった。

アルマはそんな様子を見ながら教えてもらったことを頭の中で反芻する。


(ザルゾ草………毒草………。)


静寂だけが室内を包み込んだ。


(毒草?って、ことは毒薬が作れるってことだよね?毒、状態異常。)


アルマは思考を整理しながら先ほどの猿との戦闘を思い浮かべていた。


(俺の筋力じゃあナイフで猿の肉を両断することはできなかった。でも、傷つけられなかった訳ではない。なら、そこに毒薬で状態異常を引き起こしたら?)


戦闘で得られた情報から今持っている技術でどう対抗するかを考える。


(いや、そもそも毒薬自体を投擲してもいいのか。経口摂取させても状態異常にできる可能性はあるよな。)


考えがまとまるとアルマはグルナラに向き直り、問いかける。


「あの、質問いいですか?」


「ん、なんだい?」


「ザルゾ草からとれる毒は猿に有効ですか?」


「ほう、ほう。」


その問いかけにグルナラは嬉しそうに顔に笑みを浮かべた。


「よく気が付いたね。ああ聞くとも。猿と言わず兎、鶏、猪、狼。この辺のモンスターには程度の差こそあれザルゾ草の毒は有効さね。」


その言葉に希望を得たアルマは満面の笑みでグルナラに詰め寄った。


「じゃあ、俺でも猿に勝てますか!?」


「落ち着きな。勝てるかどうかはおまえさん次第さ。され、それならザルゾ草から毒薬を作る方法でも教えてやるとするかの。」


そう口にするとグルナラは椅子から腰を上げて机の方へと近づいてきた。

机の上に並べられた薬草からザルゾ草だけを取り分ける。


「後はしまっておきな。」


グルナラのその言葉にラコフ草とチアニ草をインベントリにしまう。

ラコフ草とチアニ草をすべてしまい終えるとグルナラが口を開いた。


「毒薬を作ると言っても方法はHPローポーションと大差はないね。単にラコフ草で言うところの薬効がザルゾ草では毒というだけさ。」


そう言いながらグルナラはザルゾ草を1つ手に取る。


「このままでは使えないからまずは乾燥させる。普段は面倒じゃから適当に干して乾燥させるんじゃが………【乾燥促進】」


手に取ったザルゾ草1つを机の上に置くと両手を掲げてそう唱えた。

すると机の上に置かれたザルゾ草が映像を早回しでもしているかのようにみるみる水気が失われていく。


「さて、これを薬研でひいて粉末状にする。」


グルナラは口で説明しながら手元では慣れた手つきで薬研をひきはじめた。

数分ののちに乾燥したザルゾ草が完全な粉末状になると次の作業に取り掛かる。


「そしてこれを小鍋に入れて煮立たせれば完成じゃ。HPローポーションと違って必ずしもろ過する必要はない。簡単じゃろ?」


そう言うと机の上の小鍋に粉末を入れてぐつぐつと煮込んでいく。

時折、鍋の中を混ぜながらその出来を確認している。


「ほれ、おまえさんもやってみなさい。」


そう口にするとグルナラはアルマが作業できるように机の前をあけた。

その所作に呼応するかのようにシステムメッセージがクエストの発生を告げる。


<クエストが発生しました。>


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


クエスト:『調薬』の番外1


達成条件:

 ザルゾ毒の水薬1つ以上の作成


制約条件:

 なし


報酬:

 ザルゾ毒の水薬

 該当スキルの経験値


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


アルマはクエストの内容を確認すると「クエスト開始」のボタンを押した。


(えっと、まずはザルゾ草を乾燥させて………。)


グルナラの作業を真似するようにアルマはザルゾ草を手に取り作業を始めた。


「………【乾燥促進】」


『調薬』スキルの【乾燥促進】アーツを使用すると体から何かが抜けていく感覚を覚えた。

【分解】アーツの時にも感じたMPを消費する感覚だ。

それを証明するかのように視界の端に映るMPゲージは微減少していた。


(………次は、薬研でひいて………。)


その後も丁寧に1つ1つの工程を進めていく。

10分、20分と時間は過ぎていった。

グルナラはその間アルマの手順に間違いがないか部屋の隅で腰かけながら目を光らせていた。

おぼつかない手つきではあったが、ザルゾ草7株分の毒薬が完成した。


「できた。」


最後の毒薬を瓶の中に入れ一息つくとでき上ったことを知らせるようにクエストクリアのシステムメッセージが表示された。


<クエストクリア>

<『調薬』スキルがレベルアップしました。>

<『生産成功率向上』スキルがレベルアップしました。>


アルマはでき上った薬の1瓶を手に取りながら注視した。


薬液【消耗品】

 液体状の薬



『鑑定』を持たないアルマにはただ「薬液」としかわからなかったが28個の毒薬を作成することができた。


「できました。」


でき上ったものを確認するとアルマはグルナラに向けてその旨を告げた。

グルナラは人の好さそうな表情をして大きくうなずいた。


「おうおう。ようできたの。」


「はい、ありがとうございます。あの、これで猿にも勝てますかね?」


「勝てるかどうかはおまえさん次第さね。薬はあくまで道具。うまく使えれば勝てるし、うまく使えなければ負けるだけさ。」


「そうですか。」


「まあ、おまえさんは異邦人だろ?なら、色々と試してみるんだね。さぁ、それじゃあ早速残りのチアニ草を取りに行きな………。と言いたいところじゃが、今日はもう遅いからの明日にでも行ってきな。」


「は、はい。」


グルナラのその言葉につられて窓の外に目を向けると日が傾いて辺りは暗くなりだしていた。

その様子にアルマは思った以上に集中して作業に没頭していたことに驚いた。


「さぁ、もう今日は帰りな。チアニ草が手に入ったらまたきな。」


「はい。わかりました。」


そう言うとアルマはグルナラの家を後にした。


--


(さて、この後どうしよう………。ゲームの中で休むなら宿屋に行けばいいんだよね………。)


そんなことを考えながらアルマは暗くなった町の中を歩き回っていた。

現代では考えられない殆ど明かりのない街並みは暗闇の中から何か出てくるんじゃないかと思わせるような恐怖を孕んでいた。


(夜明けまではおよそ12時間か………現実時間で1時間だからいったんログアウトするのもありかな………。)


アルマの足は自然と町の中央広場へと向いていた。

そこは昼間の活気が嘘のように静かで不気味であった。

中央の噴水で水が流れ出る音のみが響いていた。


(宿屋の場所もわからないし、いったんログアウトしよう………。)


アルマは町の雰囲気に怖くなり早々に宿屋で休むという選択肢をなしにした。

行動は早く、すぐに仮想ウィンドウを表示するとそこから「ログアウト」のボタンを探し出し、押下した。


視界は暗転し、体はゲームの世界から離れていく………。


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