008 ルクスの実力
「ちょ、はら!腹いてーっははっははははっ」
「わはははははははっ!寝言は寝て言えっつーのっ」
「ははっ、ひひっ、ははっ」
「ポルェ族が冒険者ってぇぶぇほほほほほっ」
「おかしーっ、ひーっ」
「・・・・・・」
私、絶句。何コレ、なんで急にこんな笑い者扱いなの?
私の冒険者になりたい宣言でその場にいたほとんどの人間がバカにしたように嗤った。
笑いが収まるまでどのくらいかかったか。最後は笑い過ぎてむせた男が息を吸えず隣の奴に背中を擦られる始末。
「はーっ笑った笑った。いーや可笑しいのなんのって」
「あー危うく笑い死ぬところだったぜ」
「おお?見ろお嬢ちゃんの顔が真っ赤だぜ」
「うひっ」
悪意に満ちた顔が汚い笑みを張り付けて当然のように見下ろしてくる。
いきなり何なんだコイツらは。そりゃ顔にも出ましょーや。バカにされる謂れも筋合いも無いが、私を、私のやりたいことを嗤っているんだ。こう、内側から怒りみたいなものが込み上げてくる。
何か言い返してやりたいけど今喋ろうとすると涙が溢れそうだった。
悔しい、傷ついた。慰謝料百億万円!
「あー!いやだいやだ!!まったく、これだから冒険者ってやつは下品でいやになるよー!!!」
「ああ?」
そこに割って入ってきたのはルインだった。ガイスと呼ばれた大男の股下をよっこらしょとくぐり、ルクスを庇うように輪の中心へやって来た。
「恥ずかしくないのかよ?こんな小さな子を寄って集って笑ってさ。冒険者になりたいって言ってるのにその冒険者がそれを笑うのかよ」
「誰かと思ったらルインか、そりゃ可笑しいだろ。だってポルェ族だぜ?非力で弱くて荷物運びもできないポルェ族だぜ」
周りから同調するように嘲笑う声が漏れている。
ルインも子供だ、ルクスと背格好もそう変わらない。だが臆することなく囲いを作る冒険者たちに対峙している。情報屋として日々冒険者を相手にしていると大人とか子供とか関係なく対等な立場になれるのだろうか。ルインがちょっとカッコよく見える。
「確かにポルェ族は弱い。だけどルクスは僕の大事な金づるだ」
「ん?」
「弱ければ笑い者にされていいのか?バカにしていいのか?そんなことはないはずだ。ルクスはそんじょそこらのポルェ族とは違うんだ、みんなポルェ族はウソをつかないのは知ってるだろ。ルクスが冒険者になるって言ってるんだ、とんでもない力を秘めているんだぞ。正直ガイスさんでも敵わないんじゃないかな?」
「え、何言ってるの?」
ルインがおかしなことを言っている。何だこの流れ。
「おもしれぇ!ならその実力とやら見せてもらおうじゃないか」
「ああ、そして泣いて謝る準備もしておいた方がいいよ。床の味の感想も後で聞かせてよね」
「ちょ、ルイン?」
男たちがヒートアップして雄たけびを上げる。ルインが煽りちらして、ガイスが、柱か!と言いたくなるような大剣を持ち出してくる。
「まあ、なんだ。夢見ることは自由だが、現実ってのを教えてやるか」
「いいねー」
「ヒュー!ガイスさんやっちゃいなよーぅ!」
「何かごめんねルクス。ルクスのこと全然知らないから適当ぶっこいちゃった。でも冒険者になりたいってことは少しは戦えるってことだろ。死なない程度に頑張ってよ」
「はわわ」
何コレえ?私今から死ぬのヤバくない?ルインてめー許さねえぞ痛そう本気なのドッキリ冗談かなおしっこ漏れそうヤバ土下座ジャパニーズ土下座てかウソでしょどうしよどうしよどうしよ
「ん?ブルっちまったかお嬢ちゃん。俺は準備できてるぜ。早く得物を構えな」
「つーか手ぶらじゃねえかよ、しょうがねぇな。ほら俺の貸してやるよ」
ルクスが青ざめていると、冒険者の男が横から剣を差し出してくる。
いわゆるショートソードと呼ばれる武器だ。
これを手にしたら殺し合いが始まってしまうのか。というか一方的に殺られる。実力をみるとかいってるけどマジすか。
私の知ってるラノベだとここで主人公が桁外れの実力を発揮して周りの度肝を抜いて一目置かれる存在になる的なやつだけど私か弱い猫耳美少女なんだけどどうしよう!
ガイスと剣とルインを順番に見つめるが誰も何も言わない。
とりあえずもちつけ~!まあ、冷静になって今の状況を整理しようよ。
元日本人として平和と呼べる社会で育ってきて、突きつけられたこの刃はどうだろうか。
怖い?恐ろしい?
目の前のそれは自分を傷つけるものだろうか、そしてこの男はそんな事を本当にするだろうか。
凶行の多くなった日本でも、まさか自分がそんな目に遭うはずがないと剣呑に構えることしかできない。こんなことテレビの中かキレた陰キャクラスメイトくらいしか起こさないよ。
でもここは異世界で剣も本物で実際にこれで魔物と戦ってるんだろう。
やれるだけやるか?何もできないのでこの展開は困るが、マコトの付き合いで護身術教室にも通ったから対峙して怖いと思うことはないし刃物男の対処方なんかも知ってる。
ただ習ったのと状況が違い過ぎる。一番心配なのが体格差。前の身体と目線の高さも違うし手足のリーチも違う。うまく動けないのが分かり切ってる。
いきなりのことで体が竦むけど笑われたのは気に入らない。これは相当高くつくよ。
神様お願いします。今だけ私に主人公ムーブ決めさせて下さい!
はいここまで0,1秒。
「やっちゃうんだにゃあ~」
「おっ案外乗り気だねルクス」
モブ冒険者の差し出した剣を受け取る。私に良い作戦がある!
「重たッ」
あまりの重さにガィン!と、手にしたショートソードが床を叩いた。
は?何コレ重過ぎ、バカなの?100キロくらいあるんじゃないの?
まさかの質量に柄を両手で握ったまま為す術なく剣と共に倒れるルクス。持ち上げられないし起こせない。手を離すタイミングを失って、床と剣に指を挟まれてしまう。
「いででででっ」
みんなポカン顔でルクスを見下ろしている。
バカかっ、お前ら見てないで早く助けろっ。
「なんだかなあ~」
「いやああああああああっ」




