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034 町の地図

商業ギルドに足を運ぶと、商人風の男や馬車から荷を下ろす男が忙しそうに荷物を運び込んでいた。他にも綺麗な服を着た女性や健脚な老人に薄汚れた服の子どもまで、様々な人が訪れていた。


「朝から大盛況だにゃ、いつもこんな感じなのかにゃ?」

「だね、商売人の朝は早いし時間はお金と同等に貴重なものだから。でも昼間よりは人の数は少ないけどね」


人の波に紛れて私たちもギルドの中へ入る。

ギルドの中は広く、カウンターがえーと…10席ある。そのどれもが埋まっていて、それを待つ人が設置されたイスに座って待っている。病院の待合室みたいだ。


「あっちの通路の方には豪商の使う特別な部屋や個室なんかがあるよ。こっちの離れたところのカウンターでは簡単な買い取りができるんだ」

「へー、詳しいにゃ。さすが情報屋を名乗るだけはあるにゃー」

「で、僕らの目的はこれさ」


ルインは順番を待つ人々の後ろの壁に飾られた大きな額縁の前に立つ。

壁に掛けられていたのは地図だ。町の全体図だろう、大小様々な四角や円の図形が配置された大きなものだ。主要な建物にはこの世界の文字で名称が書かれている、読めない。


「これがウォートレルの町の地図だよ。見方は分かるかな、今いるココが二重で書かれたこの四角いところね。線の太さで分かるだろうが一番太いのが町の大通りだ。それで北はこっち、で東、南、西と、方角を表している。それから冒険者ギルドがここで、ルクスの住んでる宿舎はえ~…とここかな?」


ルインが指をさしながら地図の説明をする。地図には町を囲う壁が小判型に描かれていて、それを半分に切るように横一文字に太い線が引かれている。その下半分だけに町の詳細が描かれていて上半分には何も描かれてはいなかった。


「変な地図にゃ、上半分はどこにいったのにゃ?」


これでは見る人によっては断面図に見えないだろうか?ドーム状に覆われた町、ただし町は地下に形成され地上には何もない。

もしくは未完成の地図、見た感じの紙の古さからいってそれは無いだろうけど。


「こっち側のことだけ分かれば別に困らないからなー。そっかそっか、僕は慣れてるけどそういう反応もあるよね」

「何一人で納得してるのにゃ」

「この町はね、北と南で分断されているんだ。正しく言うとここは『ウォートレル南区』だね」

「分断って何にゃ?」

「文字通り北と南で分かれているんだよ。この地図の通り北と南の境には境界線が設けられていて一部の人の行き来が制限されているんだ。だからここにある地図もこっちの南側しか描いてないんだよ」

「ほーん。何で分かれているんだにゃ?そうなった理由は何なんだにゃー?」

「理由かー、あんまり表立って言うことじゃないからなあ。ルクスの仕事の範囲だってこっち側だけのはずだから知らなくても大丈夫だと思うよ」

「そっか、分かったにゃ」


ルインが周りの目を気にするのでこの話はおしまいだ。それは気にならないことはないけれど、配達の範囲が半分だというのは助かるね。


「じゃあこれから実際に行ってみるんだけど、その前にざっくりと区画で説明すると商業区、生活区も分けられてね…」

「ああっと、その前にメモする紙が欲しいにゃ。言われただけだと覚えられる気がしないからメモを取りたいにゃ。あとペンもインクも欲しいにゃ」


ルインの説明を止めると私はメモを取る仕草をする。


「え?ルクスは字が書けるのかい?」

「書けないにゃ。自分だけが分かるような文字っぽいものは書けるけどにゃ」


すなわち日本語である。ルインは嫌そうな顔をすると私のお願いを却下した。


「お金の無駄だな。文字も書けないのに紙なんて必要ないじゃないか。言っておくけど紙は高いよ、ルクスはお金も持ってないだろうし買えないだろ」

「むむっ」


ルインは自分のメモ帳を撫でながら私から半歩だけ距離を置いた。

もらう気でいた私は考える。そこは気前よくくれなきゃ話が進まないでしょうが。私はメモを取る派なのでメモ帳とはいわないが紙一枚くらい欲しかった。お金が無いからといって、どこぞの異世界転生ラノベのようにイチから紙を作ろうとは思わないのだ。


「作り方も知らないしにゃ!」

「なんだよ急に脈絡のない。いいから続けるよ」

「あー、でもメモ帳さえあれば私の理解度がものすごく上がるんだけどにゃー。メモさえ取れればルインが思ってる以上、フローベルさんが想定している以上の報酬をルインが手に入れるのも容易いのににゃあ」


ちらちらとルインを見る。

知ってるよ、君の弱点はお金さ。ちょっとちらつかせればこちらの思い通りだぜ。


「はいはい」

「全然信じてないにゃー?!」


私の巧みな話術にかからないなんて。ルインは私を無視して話を続けた。


「……ということさ。分かったかい?」

「分からないにゃ。全部右から左に流れていったにゃ」


私はエルちゃんのような顔で話を聞き流した。


「これじゃあじっさいにまちをあるいてもるいんがそうていしていたほうしゅうのはんぶんどころかさんぶんのいちももらえるかあやしいところにゃああぁ。このままだとわたしはなにもおぼえられないにゃああぁ」

「ルクス、ふざけないでよ」

「ほにゃああぁ」


私の態度に苛ついたルインが思わず手を上げる。それに反応した私はすかさず距離を取り、迎撃の体勢に入る。


「あの、君たち。他の人の迷惑になるから遊ぶなら別のところで遊ぼうね」

「あ、すいませんでした」


ギルド職員に注意され私は即行で謝った。私たちが子どもだったからやんわりと注意したのだろうが、目が笑っていなかった。寒気を感じて慌てて二人でギルドを出るとほっと溜息を吐く。


「もう、ルクスのせいだからな。まったく、僕の評判が下がったらどうするんだ」

「にゃあ、ちょっとやり過ぎたにゃごめんにゃ」


ルインも不機嫌だ。私は側にあった花壇の縁に腰掛ける。ふぅ、空が青いぜ。

何気に言ったメモ帳だったが口に出してみると何だか無性に欲しくなってきた。実際あれば便利だし、無いと余計に欲しくなるというやつだなこれは。

この世界には既に紙が存在している。今のところ羊皮紙というやつは見たことが無い。紙の質は見た感じ良くはないが日本基準で考えるのがおかしいだろう。白くはないが十分書けるようだしそこに文句を言っても始まらない。

それよりも気になるのがペンの使い勝手の方だ。

ルインも街中でメモを取っていたが使っていたのはインクをペン先に付けて書くタイプのペンだった。いわゆる漫画家さんが原稿を描く時に使うようなGペンに似たものだ。この世界にはまだボールペンや万年筆の類いは無いのだろう。事務にあたるギルド職員たちも同じものを使っていた。Gペンなら私も興味本位で使ったことがある。ああ、これで漫画家さんに近づいた気がするふひひ。という憧れに反して描くのが結構難しかったと記憶しております。

ともかく書く度にインクを付けるのがこの世界の主流なのだ。

でもインクも別だと流石にめんどくさ過ぎないか。インク壺をペンとセットで持ち歩かないといけないなんて服にインクが付かないか心配だ。インク壺自体割れてしまわないかも心配だし、使った後にペン先を拭く布も必要になるし手入れも大変そうだ。


「こうしていても仕方ない。ほら行くよルクス」

「そうだにゃ!これは一旦戻ってフローベルさんにお願いしてみる流れだにゃ!」


善は急げ、悪はゆっくりだ!

決意すると私はルインを置いて飛び出した。私専用のメモ帳一式を頂戴しなくては!仕事に必要だと説明すれば経費で何とかなる気がする。


「ちょ、ルクスどこに行くのさ!」

「フローベルさんのところにゃー」


風のように去りぬ。ルインが呼び止める声を無視して私は冒険者ギルドへ向かった。

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