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033 初めての休日

「ぅぅ……」


早朝の海風は冷たい。ポルェ族の宿舎はオンボロなので当然のように隙間風が入ってくる。藁の寝床は暖かいが冷気が顔を襲うのだ。他のポルェ族は毛皮着てるからいいだろうけど私は辛い。

起床。それでも意識の半分はまだ微睡みの中にある。ぼんやりとした思考でもう一眠りできないかと身体をよじる。

昨日はあの後めっちゃ怒られた。突然いなくなったこと、迷子になったこと、勝手にフローベルさんの薬を取ってきたこと、仕事をサボったこと。

事情はきっちりと説明したが弁解の余地が無いくらい私が悪かった。反省もちゃんとしたよ。

だけど休みは無くなった。

もう迷子にならないように道を覚えさせるという話になったのだ。町全体を把握しておかないと今後の仕事にも影響があるとのこと、何も言えねぇ。まあ、私も覚えておいて損はないし、どのみち生活していく上で必要な事ではある。

休みだってまた2日働けばやってくるわけだから、そう嘆くものでもない。お金も無いし暇を持て余すかもしれないしね。


「んん~~っ」


身体を伸ばす、腕と足が藁から飛び出して急速に冷えていく。時計は無いがいつもよりは1時間も早いだろうか?いつも起きている周りのポルェ族はまだ夢の中だ。

休みだからといってだらけているわけではないだろう。町で働くポルェ族の3分の1をフローベルさんが持っているが、それら全てがこの宿舎に寝泊まりしているわけではない。仕事に応じて分散させているようだった。ソウロたちは私と同じサイクルでやっていたから休みも同じだろうが、この宿舎にも一緒に働いていない者が何人かいる。

そんな休みではなく今日も働くであろう彼らに気を遣って忍び足で宿舎を出ると早朝の海岸に繰り出した。


「おお、寒いにゃ…」


水平線から顔を覗かせる太陽。おはようございます!

この異世界の天体のことは知らないが太陽は1つで月も1つだ。近くに巨大に見える惑星もないし、宙としては地球と同じと思われる。

穏やかな海に無人の砂浜、遠くに漁に出ている船の船影がいくつか見て取れる。

体をほぐすように軽く準備運動、それから浜辺を歩いて魔石がないか探索する。どうせならまだ行ってない方へ。砂浜はだんだんとごつごつとした岩場になってきて、歩いて行くにはちょっと危険な場所になってきた。岩盤が壁のように遥か上まで反り立っている。上を見上げると届かないところに鳥の巣がある。ここは崖の下っぽいな。この上で2時間ドラマの犯人がクライマックスで自供するのだろう。


「そろそろ戻ろかにゃ~、お?」


朝ご飯の時間までには帰ろう。そう思った時、視界の隅で何かが動く。大きな赤黒い甲羅に、ガチガチと音をを立てて動く足に全てを断ち切ってしまいそうな剛胆なハサミ。


「蟹にゃー」


それも超特大サイズ。甲羅部分だけで車のタイヤ1個分の大きさくらいある、足を入れたら…もうこのくらい大きいとグロテスクで気持ち悪い。どうして異世界の生き物はこんなにも大きく育つのか。


「何蟹なんやろにゃー」


もうこれ魔物なんじゃない?私は蟹とか甲殻類美味しくて好きだけど、ヘタすると食べられるのは私の方なのでは?

身の危険を感じ朝の散歩を切り上げて戻ることにした。


「はぁ、調理されてればワンチャンあるんだけどにゃー」


今日もご飯は麦粥だろう、そろそろ別の物も食べたいなあ。


******


皆で朝食を食べると、寝巻からワンピースに着替えて私は冒険者ギルドへ向かった。いわゆる研修期間中のような状態の私にベタ付きのフローベルさんだが、本来なら冒険者ギルド内部に作られた商業ギルドの支部で働いている。私に付きっきりだったので本来の業務が溜まっているとか嘆いてたもん昨日。主任という立場のフローベルさんがどんな仕事をしているのか知らないけど私のせいで大変な目にあっているのなら申し訳ないね。

途中の夕凪亭の2階の窓には今日も誰の姿も見えない。猫耳美少女たちの楽園に戻れれば一番良いのだろうけどままならないものだね。


「おはようございますにゃー」


元気いっぱい朝の挨拶がギルド内に響き渡る。


「ああ、おはようさん」


フローベルさんが私の姿を確認すると仕事の手を止めてやってくる。


「さてルクス、今日は何で呼ばれたのか分かっているね?」

「もちろんですにゃ、明日からの配達の仕事で道に迷わないように町の地理を把握するんですにゃ」


昨日、怒られた後にそんな話をされた。私は背筋を伸ばしてキリリとした表情で受け答えをする。

配達の仕事というのは手紙や軽い荷物を配達する業務のことだ。あはは、まんまですね。


「よろしい。あんたは他の子より少し賢いところもあるから問題はないと思うが実際やってみないと分からないからね」

「任せて下さいにゃ。力仕事じゃないっていうだけで活躍できそうですにゃ」

「だといいけどね。あたしは溜まった仕事を片付けないといけないから今日は付き添ってやれないけど、その代わりに他の奴を付けることにしたからね」

「ほう、誰ですかにゃ?」

「僕だよ」


登場するタイミングを狙っていたのか、カウンターの陰から少年が飛び出す。


「今日はご指名ありがとうございます。次があるように全力で努めさせて頂きます!」

「ああ、頼んだよ」


現れたのはお金にいやらしい情報屋のルインだった。

フローベルさんに媚びを売ると私に向き直る。


「ルクス、今日は任せておいてよ。情報屋の僕は町のあれこれにも精通しているからね、僕の手にかかればルクスは明日から町の案内人にもなれるよ」

「ほーん、よろしくにゃ~」


すごい自信だ。冒険者たちに絡まれた時は助けてもらったけど、お金に執着しすぎている癖が垣間見えるので私はルインに対しては塩対応でいこうと決めている。


「報酬は今日の出来次第だ。こっちは昼飯代に使うといい」

「ありがとうございます!」


ルインにお金が渡される。それを見て私も期待する。


「ん?もちろん2人分のお金だよ。余れば小遣いにでもするといい。じゃあしっかりと覚えるんだよ」

「はい、行ってきます」

「行ってきますにゃー」


そうして私たちは冒険者ギルドを後にした。


「いやー良い仕事だなあ。ルクス、いつまでもポンコツでいてね」

「失礼だにゃあ、私はやればできる子なんだにゃ」


大通りをルインと並んで歩く。空は快晴、極彩色の鳥もよう飛んどる。

お昼代までもらったルインは上機嫌だ。


「さてと、僕はルクスがすぐ迷子になるって聞いたけど町の事はどれくらい分かるの?」

「くっ、この大きい通りならどこに何があるか見れば分かるから大丈夫にゃ。でもここが野菜を売ってる店だと知っていても誰が経営しているとかは全く分からないにゃ」


ちょうど目の前が野菜を売っている屋台だった。野菜を売っているのはここだけじゃない、肉屋など他の店にも同様に言えることだが同じ店が複数ある。

配達の仕事ということは物を届けるということだ。届け先が人にしろ場所にしろ、届け物ができるほど私は詳しくはなかった。


「なるほどね、こりゃ一日かかりそうだな。ちなみにこの店はフォゴットさんのお店だよ」

「へー」


悔しい!誰が経営してるかなんて知らなくても野菜は買えるもんね!自分が私よりちょっと知ってるからってドヤ顔されてもなあ!


「僕はポルェ族が荷物を届けるのに何を目印にしてるのかは知らないけど、僕なりに情報を交えて教えていくことにするよ」

「分かったにゃ、改めてよろしく頼むにゃー」

「まずは出発地点から始めようかな。そういうことは商業ギルドでやってるからまずは商業ギルドに移動しよっか」

「分かったにゃ。そういえば私、とんでもなく大きい蟹がいる場所知ってるにゃあ」


ルインを見返すべく朝の蟹の話をする。あれは誰かに話したくなる大きさだった。


「へぇ、そんなに大きいの?」

「そうにゃ、こーんなに大きいんだにゃ。足までいれると私じゃ足りないくらい大きいんだにゃ。1匹で100人前くらい取れそうなんだにゃ」

「それはお金になりそうだなあ、どこにいたのさ?」


両手いっぱい広げて力説する。ルインの食いつきも上々だ。くくく、知りたいんだろう?


「砂浜を歩いてあっちの方の岩場をずっといったところにゃ。ただ本当に大きいし、場所もあんまり安全とは言えないから一人では行かない方がいいにゃ」


ルインが獲ってくるなら情報提供代として蟹の足を1本もらおう。ただそれでケガとかされても困るし無茶をされては困るな。


「あー、あっちって崖の方か」

「そうだにゃ、崖の下だにゃ」


危険さが伝わったのか、乗り気に見えたルインが顔を曇らせる。


「あそこの蟹は獲らない方がいいよ。蟹だけじゃなく他の貝とか魚とかも全部ね」

「えー、もしかして禁漁区かにゃ?」


私的には穴場スポットを発見したつもりだったが、ルインは納得したように真顔になる。


「違うけど、あそこのはダメだよ。誰も獲らないし食べないんだ」

「そうなのかにゃ?勿体無いにゃ」

「それより商業ギルドに行こうよ。ルクスの出来次第で報酬が変わるからね、僕も本気出すよ」

「私も本気出すからとんでもない額の報酬が手に入るにゃ」

「だといいけどね」


私の自信たっぷりの態度にルインは期待することなく道を進む。

まあ、あの蟹はいずれ私がとったどー!してやろう。そんなことを思いつつルインの後を追いかけて商業ギルドを目指すのだった。


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