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020 海でのお仕事(午前の部)

「全部没収かにゃ?!」


夢中になって集めた貝は、後からやって来たデニーロによって全部持っていかれてしまった。

網2袋分の貝を集めた私は曲げた腰の痛みを伸ばしながらショックを受けた。

あんなに楽しかったのに最後にお宝を掠め取られて悲しい。私の浜焼きパーティーの予定が・・・。


「貝を獲るのはポルェ族に与えられた大事な仕事さね。貝は商業ギルドの方で各店舗に分配されるし、市場にも出回るね。それにお前さんたちは貝なんて食べたら腹壊すだけだし、手元に置いといても腐らせるだけだよ」

「しゅ~ん・・・」


潮の満ち引きは早いのか、それとも始める時間が遅かったのか。気付いた時には海水が足首まで来ており、1時間もしないうちに潮干狩りは終了になった。

ということは。


「さあ、次の仕事だ。貝ならまた明日獲るからその時頑張んな。今度は漁港でブラシがけだ、急ぎな」


やっぱり。1日働くんだとして、潮干狩りだけでは終わらないか。

ソウロたちの後について来た道を戻る。最後にフローベルさんがついてくる。お目付け役なのか、監督役か。フローベルさんは潮干狩りに加わらなかった。


「フローベルさんは貝獲らないのかにゃ?」

「ん?あたしゃあ普段はここにはいないからね。今日は、というかしばらくは、あんたに付いて回るようになるね。町での仕事を一通りやらせてみて、ミミが何に適しているとかこの機会に調べるのさ。それにあんたは他のミミとは何か違うから個人的には心配なんだ」

「そうですかにゃ~」


ウォートレルの町では、ミミには可愛さこそを求めていたので酒場での給仕以外はこれまでやらせたことがなかった。人には必ず、向き不向きがある。酒場の給仕以外にミミは何ができるのか、それを見極めるのも主任たるフローベルの仕事だった。


「ん?何だいルクス。尻に何か入れてるのかい?まさか貝をちょろまかしてるんじゃないだろうね」

「にゃっ?!」


ルクスの尻尾が左右に振れる。フローベルはルクスのお尻の不自然な膨らみに気が付いた。


「誤解を招く発言にゃ。この服ポケットがないから尻尾用の穴から石を入れて、尻尾で挟んでちょっと一時保管してただけにゃ」


ルクスが石を取り出してフローベルに見せた。それは緑色を僅かに帯びた白い石だ。どこにでも落ちているような石ころのようだが、日の光に翳すと透過して綺麗な瑠璃色に輝いた。


「綺麗なんだにゃ。掘ってたら出てきたにゃ。記念に持ち帰るにゃ」

「ほう、こりゃ魔石だね」

「ませき?魔法の石かにゃ?!」


急にぶっこんできたよ異世界要素。私の見つけた石が魔石ですって、奥さん聞きました?

魔石といえば魔力を籠めたり、魔道具を作る際の核にしたりするアイテムなんじゃね、お高いやつなんじゃね?


「魔法の石ではないがね。魔石ってのは魔力を内包する石のことさね。鉱物系と生物系の2つがあるが、これは生物系に由来する魔石だね。生き物が死んだ時に体内の魔力が一部結晶化することがある。それがこの魔石だよ」

「すごい詳しいですにゃ」

「職業柄この手の物も扱うからね。残念だがこれはクズ石だね。純度が低すぎる。それに魔石なんざ魔法使いくらいにしか需要がないから値段は安いし、これには銅貨1枚の価値もないね。この質ならキロで銅貨2枚がいいところさね」


そんな鑑定をして、石をルクスに返す。ルクスはそんなことは気にしていない様子だ。


「物の価値は値段じゃないんだにゃあ。きっと将来役に立つにゃ」

「まあ女の子が光り物に弱いのは分かるがね」


思いがけず異世界要素ゲット。魔法は皆の憧れ、夢の希望。異世界に来たのだから魔法は絶対使いたいね。よく、魔法は幼い頃から使いまくることで使用回数や威力が上がるなんてライトな書物で読んできたけど、この世界ではどうなっているのだろう?

そもそも魔法ってどうやって使うのか。魔力とか不思議な力とか今までにない未知の感覚などは感じたことがない。誰でも使えるのかな~、それとも素質がないと使えないなんてこともあるのかな~。

私は・・・たぶん使えるよね?異世界転生者だもん絶対使えるはず、そうあって欲しい。


******


「さて、さっそく取り掛かるよ。各自ブラシで掃除を始めな」

「あいー」

「にゃー」


漁港に戻ると漁師も魚の入った生け簀も綺麗さっぱり無くなっていて、淋しいことに無人だった。

ただ、磯の香りとは別に生臭いニオイが漂っている。魚を水揚げした後は魚の汁や下処理した血や臓物なんかで臭くなるらしい。そのままにはしておけないのでポルェ族が漁港の掃除をするのだそうだ。


「ルクス、適当に擦るんじゃないよ。陸から海に向かって流すようにブラシを動かしな」

「分かりましたにゃー」


ソウロが桶に汲んだ真水を撒く。それを擦りながら海へと押し出していく。やはりポルェ族は非力なので、一回の水の量が少ない。水撒き係りとブラシ係りに分かれて粛々とこなしていく。これは重労働だ。高圧洗浄機とかあれば便利なのにな、まあ異世界じゃ無理か。


「あっ、魔法とかないのかにゃ?水の魔法とかで一気にドバーッてできないのかにゃ」


そう、魔法ならね。剣と魔法の異世界ファンタジーに転生したのだから魔法が使えてもいいはずだ。

てか、使いたい。こう!かめをはめする感じで、こう!


「ルクス、サボるんじゃないよ。遊んでないで手を動かしな」


私のかめをはめする動きに注意が入る。


「フローベルさん、魔法は使えませんのかにゃ?」

「魔法?バカなこと言ってるんじゃないよ。使えるわけがないだろう。クズ石を拾っただけで影響されすぎだよ」

「そ、そんなことないにゃ。魔法が使えればここの掃除だってすぐに終わりますにゃ」

「はあ、いいかい?魔法ってのは誰でもポンポン使えるものじゃないんだ。素質がなけりゃ使えないし、教わることもできないんだよ。いいから手を動かしな、昼までに終わらせないと昼飯抜きになるよ」

「分かりましたにゃー」


なるほどね、私はそっけない態度で掃除を再開する。この広さ、このペースではお昼までに終わるか微妙なところだ。

もっと魔法についてグイグイ聞きたいところだが焦っちゃいけない。

魔法というものが、この世界ではどのような立ち位置、在り方なのか知る必要がある。

魔法の存在する異世界といってもいろいろあるだろう。生活魔法なんて呼ばれるものが存在するくらい当たり前の世界もあれば、魔法そのものが珍しいという世界もあるだろう。魔法が使えるのは魔族の証だとか、異端の力だ、禁忌に触れる悪い力だ、と言われたらどうするのさ。

そういった場合、いきなり魔法使い相手に聞き尋ねるのはリスクがある。一歩間違えば私は殺されて、可愛くて美しい剥製として工房に飾られることになるかもしれないのだ。ここは一般人にそれとなく聞いて反応を伺うのが安全で望ましい。

まあ、魔法が使えれば掃除がすぐ終わると思っただけなんですけどね。魔石を手に入れたことで、魔法使いたい脳になって魔法というワードが出やすくなってしまったのだ。

将来的には私も魔法バンバン使うつもりだから可能なら今の内から経験積んでおきたいと思うのです。

フローベルさん(商業系一般人)の漏らした情報によると、この世界では魔法というのは素質がある者しか使えないということが判明した。雰囲気的にも魔法が悪いモノという認識は無いように見受けられる。とりあえずこれだけ分かればいいだろう。


「でも私が一番に解決しなきゃいけない問題は他にあるのにゃ~・・・」


それは食糧問題。ポルェ族の好物だというあの麦粥、あれがねぇ・・・。お金のない私は出される物しか食べられないのだけれど、食べられないんだよなぁ。贅沢言ってるかもだけど、早くもお米が食べたいにゃ。

朝ご飯も食べなかったし、あ~貝食べたかったなぁ・・・。


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