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019 海は広いな、大きいなこの魚

「嗚呼、ここを通るたび嫌でも必ず思い出しますにゃ」


冒険者ギルドから海へ向かうこの道は、この町のメインストリートだ。夕凪亭もその通りに面しているのでエリザベスたちのことを気にしないようにするのは難しい。独り言はスルーされ、フローベルさんはずんずん進んで行く。

ほどなくしてポルェ族の宿舎に着いた。


「デニーロはいるかい?」

「あっ、おはようごぜえますだフローベルさん。朝からどうしたんだべか?」


フローベルさんの声に、掘っ立て小屋から慌てて鍋番の男が飛び出してくる。手元が泡だらけだ。


「わけあって、今日からこのルクスを他のポルェ族と一緒に働かせることにした。ここの奴らと一緒に面倒を見ておやり」

「よろしくお願いしますにゃ」


デニーロは私をまじまじと見ると頭をポリポリと掻いた。


「はあ~、分かりましただ。オラさミミの世話は初めてだけんど、頑張るっぺよ」

「頼んだよ。ソウロ!みんなをここに整列させな!」


フローベルさんの声に、今度は中からポルェ族がわらわらと出てくる。私たちが見ている中、ぽてぽてと7人のポルェ族が横一列に整列した。


「おあよーございますっ」

「「「「「「おあよーございますっ」」」」」」


一番前の彼がソウロだろう。元気よく朝の挨拶をすると残りのポルェ族がそれに続いた。

改めて、ケモケモしい彼らを見る。

私と同じくらいの身長、もしくはちょい低いくらいか。猫型の獣人、ポルェ族。服を着た二足歩行の生き物だ。正直みんな同じ顔に見える。7つ子だと言われても納得してしまうくらい区別がつかない。毛色はグレーか茶色の単色で、ゴワゴワとした毛はお世辞にも良いとは言えないほどに汚れて見える。着ている服で一応の判別はできるが、服を替えたり裸になったら分からなくなりそう。可愛いかと言われれば私はノーサンキューとしか言えない。この大きさって結構迫力がある。


「うむ、挨拶は世の中の基本だ。これからも怠らないように。さて、今日から新しい仲間が加わることになったよ。ポルェ・ミミのルクスだ。仕事に支障が出ないように基本のやり方や効率の良い方法を教えてやるんだよ」

「よろしくお願いしますにゃ同郷のみなさん~」

「・・・・・・」


私のライトな挨拶に反応が無い・・・。

ソウロたちはフローベルさんしか見ていないようだ。みんな猫背だがよく訓練された戦士たちの顔つきをしている(適当)。


「さあ、時間がないね。早速海へ向かうよ!」

「あい!」


フローベルさんの掛け声にソウロたちは駆け足で宿舎に戻るとバタバタと物音を立てて戻ってきた。手には目の細かい網と熊手を持っている。そしてそのままわらわらと海へ走っていった。

私はポカーン。


「ほら、あんたもボサッとしてないで後に続きな!」

「にゃっ」


パンパンと手を打ってフローベルさんが私を追い立てる。仕事場へ向かうらしいのでソウロたちを追いかけることにした。彼ら的には急いで現場へ向かっているのだろうが、歩幅も小さくぽてぽてと動くので速くはない。私はすぐに追いついて最後尾に付いた。

船着き場を通り過ぎ、漁港とは反対方向へ進む。漁港ではちょうど船から、獲ってきた魚を揚げているところだった。木製の大きな生け簀に魚を投入している。思わず列を離れ、異世界の怪魚でもいないかと覗き込む。私は魚の名前に詳しくないが、日本の市場やテレビで見たことのあるようなものばかりだった。ただどの魚もサイズだけは大きく、カサゴのような魚は学校の机一つ分くらいの大きさがあり、ふぐっぽいのはバスケットボールくらい膨らんでいる。この大きさ、私的には怪魚といえば怪魚だが異世界っぽいかと言うと微妙なところだ。


「大きいにゃ~。これすごいにゃ、いつもこんなに大きなの獲れるのかにゃっ」

「こらルクス、仕事のジャマするんじゃないよ。時間が無いんだ余計なことするんじゃない」

「にゃっ。す、すすすみま、ああっぶたないでっ」

「人聞きの悪い、そんなことしないよ。ほら早くしな」


すぐに追いつけるから大丈夫、と思っていた私にフローベルさんが怒った。フローベルさんは立場上厳しくあらねばならないのか、冒険者ギルドを出てからは思いのほか厳しい。

呆れた様子のフローベルさんから逃げるように走り、列の最後尾に戻る。ほらね、すぐ追いついたでしょ。


舗装された道が終わり、砂利の道になる。私たちは海岸、浜辺に降りようとしているようだ。ちょっと大きい石ころが目立つようになってきて、最後には砂の道になる。町の海岸側は造船所、漁港、岩場と続いて、砂浜になっていた。砂浜は広く、遠くまで続いている。

海の水は日本の太平洋側と同じようだ。透明度は低く、透き通っていたりコバルトブルーとはいかないようだ。

そして何とも特徴的なのは、砂浜が濡れていてぐちゃぐちゃしているところだ。途中までは乾いている砂なのに、ある一定の部分からドロドロの田んぼみたいになっている。

海まで結構遠いし、海水浴には向いてない様子だ。海に行くということで、密かに楽しみにしていたのに残念である。


「ついたー」

「おー」

「はたらけー」


ソウロたちは泥の浜に突撃していく。ああ、よくお似合いで。ゾウとか猪は泥浴びしたりするもんね、ポルェ族にもそのような習性があるのかもしれない。


「何やってんだい。あんたは行かないのかい」

「ふっ、よしてくださいにゃフローベルさん。私には泥んこになってはしゃぐような、少年の心は残って無いんだにゃ。・・・ああ、彼らがちょっとばかり羨ましいですぜにゃ。いつから私は汚れた大人になっちまったんでしょうかにゃ」


手を翳し、砂浜に降り注ぐ太陽を仰ぎ見る。太陽はこんなにも情熱的に私を誘っているのに、私は自然を愛することをやめて室内で冷房を貪ることしかできなくなっていた。さあ、焦がせこの身を。魂まで焼き尽くして私を夏のパラダイスに連れていってくれ!


「本当におかしな子だよあんたは。ほら早くしないと潮が満ちちまうだろう。この時間は潮が引いて辺りに干潟が広がる。そこを狙って貝を獲るのさ、ほら、手ぶらじゃ何もできないだろ。あんたの分はあたしが持ってきてるからコレを使って貝をたんまり獲ってきな」

「干潟・・・貝・・・潮干狩り・・・ああ!知ってるにゃっ、もちろん知ってましたにゃ~」


フローベルさんから網と熊手を受け取ると私は干潟へ繰り出した。

なるほど、そういうことだったのね。もう人が悪いよフローベルさん~、そういうことはもっと早く言ってくれなきゃ。

ちなみに季節は夏ではない。暖かくも寒くもない感じの温暖な気候で、海水浴にはまだ早いだろうな。

ソウロたち7人は一定の間隔に広がって貝を獲っている。熊手を泥にガリガリやると、埋まっていた貝が出てくる。貝はアサリかハマグリだろう。これもビックサイズだ。

私も見よう見まねで熊手を泥に突き立てる。ガリガリガリ・・・。手に引っかかる感触があり、掘り起こすとビー玉サイズの石ころが出てきた。


「にゃ~?!」

「おぱ、かいのこきゅう、いちのあな」

「怒られるで」


だが私は理解した。泥の中の貝を見つけるには目印がある。呼吸するための小さな穴が開いているのだ。そこを狙って掘り起こせば・・・。


「出たにゃー!」


初めて獲った貝を天に掲げる。

楽しい、面白い。コツさえ掴めばこっちのもんだよ。

私は夢中になって潮干狩りを楽しんだ。





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