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その5

 

 次の日、僕は納品されるのはまだなので取り敢えず自分の試作品の消費をすることにした。今日は疲れ切った湖波さんの代わりに、晴乃さんが護衛として付き添ってくれていて彼らご丁寧にも探索の見守りもしてくれるらしい。


(不意打ち以外は助けてくれない、本気の見守りだけどね)


 しかし、そう言えば僕がここに鍛錬しに来たのは叔父様に伝承性スキルについて教わり、後継者になるために来たというのにいまだにそれについての指導はまだない。……忘れているんだろうか。

 まあ、良い。僕は朱基さんの指導により、男女両方のマナー、ダンスなどを教わる必要がなくなった。だから、遅くても学園に入学する1年前に屋敷に帰って来れれば良いと手紙で言われているし、あと長くても4年はこの街にいることはできるはず。1年は必ず傭兵族の街へと行かないといけないみたいだからね。


(しかし、墓守の森にはゾンビが多いな……)


 銃弾を入れる時の凍傷防止のため、普段はつけない手袋をはめながら次々と現れるゾンビを倒していく。どれくらい多いかと言えば、春先の割には肌寒い今日なのに30分ですでに猛暑並みの汗を流してしまうくらい頻繁に現れる。

 鍛えているけど疲れるし、集中力も散漫になるからさすがに打ち損じも出てくる。そうなれば、回復ポーションが入った風船を投げつける。動いていては浄化したとは言えないからだ。

 浄化作業がひと段落するたびに晴乃さんに手伝ってもらいながら動かなくなったゾンビを土葬していく。それはゴブリンのゾンビ化を防ぐためにも重要なことだから。


 30分間で倒したゾンビの数は100を少し超えたくらい。申し訳ないけど、共同土葬になってしまうことを許して欲しい。


「今度こそあなた達が安らかな眠りがつけることを祈っています。来世、幸せなひと時を過ごせますように」


 僕はそう声に出しながら、彼らの第2のお墓の目印代わりになるものを置くのだった。

 それにしても、この量のゾンビがうろついているのはどうもきな臭い。倒しても倒しても分裂しているのではないかと思うくらい数が少なくならないと言うことはかなり前から火葬されずに土葬されていた人がいたんだと思う。

 この街の初代当主が誕生したのは今から7世紀前とされている。その時代はまだ光帝による情報規制などなく、とある勇者だけの情報ではないはずだ。それなのに火葬がされていないのは、これ以上深掘りするなと勘が言っているくらいきな臭い事態なような気がしてならない。

 僕は部外者だ、だからこれ以上この問題に首を突っ込むのは何か違うような気がする。根拠はないけど、これを解決するのは僕ではないと思う。だから、今出来ることを僕はするだけだ。


 晴乃さんがいる時に、僕の好奇心に振り回すわけにもいかないし、今日はとりあえずひたすらゾンビ浄化をしながら途絶えた時には土葬する、それを繰り返してばかりいた時、罠を見つけた。

 魔物用だけど、この森では全体的に日が入りにくくくらいので罠の設置を見つけたら、解除するのが決まりになっている。……なんかよくわからないけどこの罠からは嫌な予感がするな、解除したらめんどくさいことになりそうな気がする。

 そう考えた後、ちらっと晴乃さんを横目で見れば、


「ああ、貴方は先生からすれば実践はまだ早いと判断していたから教わっていないのですね。……それは解除しなくていいですよ、その罠は冒険者達も国民も把握していますから。解除して良いのはあんな風に誤作動を起こして罠が作動しているやつだけと言われています」


 言われて、やっぱりそうかと自分の勘が当たっていたことに確信を得た。とりあえず罠の解除に慣れるために、自分であの罠の解除をするために道具をアイテムボックスから出し、何もいないのに僅かに小刻みに震えている罠を解除するのに集中することにした。

 一応、冒険者として活動するため、罠の解除の仕方を学んでいたため、罠の系統と仕組みを理解してから何かがいる前提で罠を解除していく。もし、恐怖から身を守るために姿を消している者もいるかも知れないしね、せっかく助けたのが僕が怪我をさせては意味がない。


(……あ、もう少しで解除出来る!)


 そう考えた時、背後から戦闘音が耳に入ってきた。大方罠を解除している僕のことを晴乃さんが護衛の役割をしているのだろうと考え、戦闘に加わるために急いで解除した瞬間のことだった。

 まるで瞬間移動してきたかのように、いきなり小人が現れたから思わず大声で叫びそうになったのを、小人さんに静かに! とジェスチャーされたから反射的に声を上げるのを止めた。


 その小人さんは僕に笑いかけ、罠を解除したことに対してかぺこりと頭を下げた。……見たところ僕が解除したせいで怪我したって言うのはなさそうだなと全身をくまなく観察していると、右足だけから出血しているのを見つけてしまった。

 こう言う時には助けたのなら、最後まで助けるのが筋だよねと考えた後、アイテムボックスからハッサク達用に量を少なくした回復ポーションを小人さんに差し出せば、戸惑いながらも受け取ってくれた。


「回復ポーションだから、安心して飲んで。晴乃さんに見つかる前に草陰に隠れて、僕らがここから去ってから自分の帰る場所へ帰るんだよ。いいね?」


 なんとなく僕以外には見つかってはいけないような気がしたからそう言えば、小人さんは素直にこくんと頷いてくれた。

 そのまんま渡してしまったけど、回復ポーションの蓋を開けられないような気がするな、この子。


「それ、一回返して」


 そう言えば、小人さんは絶望したような顔をした。……違うから、気が変わってあげるのやめたとかじゃないからそんな顔しないで。


「それ、開けてあげるからここで飲んでから行きなってこと。だから、そんな顔しないの」


 言い方を変えれば、小人さんはぱぁっと顔を明るくさせ、嬉しそうな顔をして渡してくる。……うん、素直でよろしい。

 一度あげた回復ポーションを受け取り、蓋を開けてもう一度渡すと、小人さんは体操座りをして膝蓋骨を支えにゆっくりと飲んでいる姿を微笑ましい。

 ゴブリンの血液の匂いからかゾンビの群れがやってきたのが見えたから、微笑ましく見守れる時間はここまでのようだね。


「ゾンビが来たから、一緒にいられるのはここまでみたい。彼らに見つかる前に逃げるんだよ? 人間にも気をつけるんだよ」


 そう声をかけたと同時に飲み終えたのか、小人さんはこくんと頷いて空の回復ポーションの容器を抱えてどっかに消えていったのだった。

 その姿を見送った後、僕は魔法武器の銃を構え、1時間くらいゾンビを倒し続け、群が途切れた時にはもう僕は燃え尽きていた。土葬は、ゾンビ浄化を見守っていた晴乃さんが代わってくれたのでひたすらその時間は帰るための体力回復に集中したのだった。


 かなりの量を倒したし、追加報酬は僕が受けているような冒険者ギルドの依頼では見たことがないくらいの額を渡されてしまった。

 正直に言うと、僕自身は有栖家のお金から養われている立場だからそんなにお金も必要ないからね。冒険者ギルドの貯金システムに貯めておくことにした。


 かなりの量を倒したし、明日は筋肉痛になるのは間違いないだろう。午前いっぱいは休んで、午後から久しぶりに孤児院の子らに勉強でも教えるかな。


 次の日。いつも通りに早起きをして、皆の分の朝食と叔父様のお弁当を作って、起きてきたハッサク達と朝食を摂る。

 食器を洗い、片した後に軽く掃除をしてから、ハッサク達を連れて温室の手入れの作業に入る。最近、水やりの仕方を学んだハッサク、サクアにジョウロを渡してお手伝いをしてもらいつつ、僕も水やりをする。

 ハッサクも、サクアも器用に触手を使ってジョウロを使うもんだなぁ……と水やりをする光景を見るたびにそう思わされる。


 その間、ゴールデンレトリバーのコハクともふもふ達は僕の側から離れることはなく、邪魔をするわけでもなく寄り添ってくる。カラス君はと言うと、あまりに傷ついた実は取り除いていた姿を見ていたのか、その作業を覚えて木の周辺をパトロールするのが彼のお仕事となっている。


 作業も終わりに近づいてくると、パトロールを終えたカラス君は僕の腕に落ちることなく止まり、ハッサクやサクアはコハクと寄り添い、僕の周りに集結する。その頃を見計らってか圭介さんはやってきて、


「おはようございます、零姫。今日の日程の確認をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「おはよう、圭介さん。えっとね、今日は午前中はここにいて休憩をして、午後は孤児院の子らに勉強を教えるつもりでいるよ」


 昨日、あれだけ動いたから休憩もしないとね。過度な運動の後にしっかり休むのも、体力づくりには必要だと思うから。


「かしこまりました。では、今日はハッサク様達の送り迎えは俺が引き受けましょう。ハッサク様達もそれでよろしいですね」


 そう聞けば、ハッサクもサクアも触手で丸を作り、もふもふ達も圭介さんの肩やら頭やらに移動して準備万端だ。これじゃ、休めと言われているようなもんだから大人しく見送ることにしようかな。



「皆、いってらっしゃい」



 そう声をかければ、それに答えるかのようにハッサクとサクアは数回ジャンプした後、ジャンプの勢いを利用して移動しながら、圭介さんの後を追っ駆けっていたのを見送った朝だった。


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